上位陣との戦い 巨象vs蟻 後編
その結果、最適……と言っていいのかさっぱり分からない策を思い付いた。
「……ハインド? のわっ!?」
『焙烙玉』が近くで炸裂し、ユーミルが身を縮こませる。
正しいかどうかなんて考えている時間はない!
「――みんな、船内に入れ! この焙烙玉のダメージ、船よりもプレイヤーのほうがでかい!」
甲板に向けて放り投げているのがその証拠だ。
HPを削って操船の動揺を誘い、更に事故って戦闘不能になれば儲けもの。
ここは『プリンケプス・サーラ』の耐久性を信じ、船員を全て中に引っ込める。
「ハインド殿はどうするのでござるか!?」
「俺はブリッジに作戦を伝えに行く! いいか、船内だぞ!? 幸い、白兵戦には持ち込まれなかったんだし!」
そう言い残し、俺はブリッジに駆け込んだのだが……。
「――狭い! 何で全員ブリッジに来たよ!?」
「だって、中に入ると状況が分からなくなるではないか!」
それほど広くない艦橋の中で、八人がすし詰め状態で押し合う。
密着というほどではないが、動き難くて仕様がない。
「……焙烙玉の音が止んだでござるな?」
「距離を取れましたからねー。さすがプリンちゃん、一級品の速度」
ちなみに、このまま逃げ切った場合はポイントがマイナスされてしまう。
これは宣戦布告を受諾したからで、不意打ちに対して逃げを打った場合は特にペナルティはない。
「それにしても、和風ギルドの小型船はやけに速いようですが……」
速度を上げて距離は開いたが、完全に振り切れるほどではない。
手投げ、更には一部の船に積まれているカタパルトによる『焙烙玉』が届かず、逃走判定にならない距離を維持するのが難しそうだ。
機関の出力調整に苦労しながら、リィズの疑問にサイネリアちゃんが答える。
「潮の流れを読んでいるのではないか、と。先程シーが……」
みんなでシエスタちゃんの表情を窺う。
その視線に対し、舵を適当にも見える動きでくりくりと回しながら、シエスタちゃんが半身で振り返る。
「私は何となくこうかな? 程度しか読めませんけどね。割と間違えますし」
「間違えちゃうんだ!?」
リコリスちゃんがブリッジの壁際にほっぺをつけながら驚愕する。
しかし、船に乗り込んでまだ数日で、そこまで気が回るだけ大したものだ。
「いや、読もうとしているだけ凄いと思うよ。確かに、小型船に積める機関なんてたかが知れているしなぁ……」
「でしょ? なもんで、海洋国家所属の和風ギルドなら、そういう器用なこともできるんじゃないかなって。で、先輩。どうするんです?」
「……サイネリアちゃん、機関の出力は?」
「安定しています。やりますか?」
後から雪崩れ込んで来た五人は不思議そうな顔をしている。
ブリッジに入るなり早口で作戦を伝えたので、二人はもう了解済みだ。
リーダーであるユーミルに対しては事後承諾になるが、期を逃すと警戒されてしまう。
互いに考え方の癖を知っている相手だ。
「よし、プリンケプス・サーラ反転!」
「ういーっす」
「反転後、速やかに最大船速に移行! 突っ込むよ!」
「了解です! 機関、出力上昇!」
急速旋回に入った船が傾ぐ。
大型船で背が高いので、少しの角度で結構足元がおぼつかなくなる。
「突撃!? 突撃するのか!?」
「うわぁ、ユーミル殿がすっごく嬉しそう……」
「で、でもハインド君。砲は? 撃ちながら進んだ方が……」
「大丈夫です、それよりも焙烙玉による戦闘不能が怖い。幸い船へのダメージは小さいので――」
ガコン、と何かにぶつかる感触が伝わってくる。
シエスタちゃんが舵を小刻みに動かし、転覆しないよう細心の注意を払う。
「な、何だ!? 何をしているのだ、ハインド!?」
「分からないか? 突っ込んで敵の陣形を崩しているんだよ!」
「体当たりだとぅ!?」
気を付けなければ、小型船に乗り上げてこちらが転覆ということもあり得るが……。
そこはシエスタちゃんの腕に期待するところだ。
「ぶつかれば、どうしたって転覆するのは向こうだからな。シエスタちゃん、無理にぶつけにいかなくていい! 真っ直ぐに!」
「あいあい。混乱を誘えば十分ですしねー」
「……なるほど。シンプルというか、ハインドさんらしくない手段ですね?」
リィズには分かるか……。
シンプルという言葉で濁してはいるが、率直に表現するならやや乱暴とも言える作戦だ。
「どうもミツヨシさんが俺の行動を先読みしているみたいだったからな……俺じゃなく、ユーミル辺りだったらどう考えるかを想像して、こんな手段を採ってみた」
「む?」
「……本人は全く何も考えていなかったという顔ですが? ハインドさん」
「い、いや、まあ……こいつの場合は普段から、そういう作戦立案とかを俺に任せているせいだろうし。うん……」
何故に俺は、ユーミルへの擁護を交えた言い訳のようなものを並べているのだろう。
そんな中、当人は親指を立てていい笑顔を見せてくる。
「非常に私好みの手ではあるぞ! グッジョブ!」
「お、おう……と、とにかく、これで状況が好転するといいんだが」
周囲の状況を確認すると、もう少しで敵中を突破できる。
そしたらまた反転して、今度は砲も交えて攻撃だ。
しかし、これだけやってもまだ『焙烙玉』が数発、甲板で爆発している様子が伝わってくる。
逞しいというか、一筋縄ではいかないというか……。
「敵にすると本当に強いな、和風ギルド……いっつも微妙に正道を外れた戦い方だけど」
「そんなことよりハインド、秘密兵器の出番は?」
「そんなことって……お前、そんなにほいほい秘密兵器を出していいと思っているのか? っていうか、ちゃんと説明を聞いていたか? 今の状態、全然有効な場面じゃないだろう?」
「おお、言われてみれば!」
「記憶の隅には残っていたのでござるか……良かったでござるな? ハインド殿」
「良くないだろ! 全く、言われる前に思い出してくれればこんな……」
「ま、まあまあ、ハインド君。それよりも――」
セレーネさんの声にブリッジから見える海を見渡すと、間もなく敵の後方に出ようかというところ。
俺たち砲手組は慌てて甲板に出ると、攻撃準備を整えた。
戦いは長期戦となった。
速度と砲の射程を活かして戦う俺たちに対して、和風ギルドは主力による陽動を開始。
その後決死隊による突入を敢行、『プリンケプス・サーラ』への侵入を許してしまう。
白兵戦が始まり……。
「でやあっ!」
「なんのっ!」
ユキモリさんとユーミルの戦いを中心に、混戦となった。
外からの攻撃もあるので、砲手とブリッジを守りながら戦わなければならない。
幸い、侵入してきたのはたったの四人。
射撃の圧が減ってしまうが、砲については全てリィズとセレーネさんに。
他の四人が侵入者に対応という形で戦線を維持している。
「何で追撃してこない、勇者ちゃんよ!」
「起死回生狙いがバレバレだ! ……と、ハインドが言っている!」
「え、嘘ぉ!? 言ったか、ハインド!?」
槍を一旦手元に引き寄せ、ユキモリさんが困惑の表情を浮かべる。
フレンドなのでその隙に不意打ちなどはしないが、大概暢気だな。この人も。
「言っていないですけど、普段から職対策は叩き込んであるんで」
「言い間違えた、ハインドが前に言っていた! ということで、落ちろユキモリ!」
「まだまだ! 防御型の粘り、見せてやんよ!」
槍を構えつつちらり、とユキモリさんが何かを気にするような素振りを見せる。
何だ……?
「は、ハインド先輩! お助けーっ!」
っと、リコリスちゃんのHPが危ない。
さすがというか、和風ギルドは四人ともかなり強いので全く気が抜けない。
やがて周囲の小型船が数を減らし、俺たちの勝ちが近付いたかと思われたその時……。
目の前に大きく、DROW! の文字が表示。
「ひ、引き分け?」
「ふーっ、何とか耐え切ったか……」
汗を拭い、ユキモリさんが槍を肩に担ぎ上げる。
まさか……時間切れか?
「ど、どういうことだユキモリ!」
「え? そりゃ、もう勝てそうもないから引き分け狙いで粘ってだな……」
「卑怯! 卑怯だぞ、お前!」
「卑怯って……確かに正々堂々とはしてな――剣を持ったまま近付いて来ないでくれるか?」
「納得いかぁぁぁん!」
「もう戦いは終わったんだが!? や、やめろ!」
剣を振りかぶったりはしていないが、構えたままの体勢でユーミルが詰め寄っていく。
ユキモリさんはたまらず、こちらを向いて手を伸ばした。
「は、ハインドぉ! 助けてくれぇ!」
「剣をしまえ、ユーミル! 引き分け狙いも立派な戦術だ! トビもリコリスちゃんも、あいつを止めるのを手伝ってくれ!」
「仕方ないでござるなぁ……」
「駄目ですよ、ユーミル先輩! 危ないですってば!」
どちらかと言えば押していただけに、悔しくて仕方がないのだろう。
戦況的にはやや優勢だったが、海戦には時間制限が存在している。
それを過ぎれば、どんな状況だろうと引き分けにされてしまう。
小型船が多いとこういう戦法も採れるのか……中々に奥が深いな。
「さっきまでの敵に助けを求める俺らの小隊長……まぁ、フレだけどさ……」
「だっさいわぁー」
「かといって、急に格好良くなられても困るのである」
「っていうか、あと三十秒あれば負けてたな。俺ら……」
結局四人とも生き残った和風ギルドの面々の声が後ろから聞こえる。
やがてミツヨシさん、キツネさんの乗る小型船がユキモリさんを回収しに『プリンケプス・サーラ』に近付いてきた。
痛み分けかぁ……ユーミルではないが、できれば勝ちたかったな。




