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隠し機能の調査・砂漠の海王の戦術

「そもそも、砂漠の海王って……意味は分かるんですけど、砂漠なのやら海なのやら」

「砂漠も砂の海っていう表現をすることがあるよね。砂漠生まれの海の王者、ってことなんだろうけど」

「どんな経緯でそんな異名で呼ばれるようになったんですか? その国王様は」


 俺とセレーネさんは連絡を取り合った後、TBにログインして語り部のお婆さんがいる野菜売り場へと来ていた。

 この前のように野菜を買おうと、並んでいるものを手にしながら「砂漠の海王」について質問したのだが――


「今日は無料でよいぞ」

「え? それはまた、どうして」

「生きている内にまたあの船の姿を拝めるとは思わなんだ。女王様がお乗りにならんのは残念じゃが……」

「ええと……その、すみません?」


 無料なことにお礼を言うか、俺たちが乗っていることを謝るかを考えた末に後者を取った。

 すると老婆は少し隙間の空いた歯を見せて笑う。


「感謝しておるよ。そう、砂漠の海王様の話じゃったな……その名はの、海に出てばかりの国王様が砂漠を忘れないように――との願いを込めて付けられておったのじゃよ」

「へー」


 王都の民衆がそう呼び始めたとも、国王の身内が茶化してそう呼び始めたとも言われていたらしい。

 ただ、それが他国の人間にも通じていたことから、海での強さと圧倒的な存在感は間違いないものだったそうな。


「プリンケプス・サーラが不沈艦で、海王様が生涯無敗だったことは聞きましたが……その戦い方がどんなものだったか、というのは伝わっていますかね?」

「ふむ……艦隊指揮においても一人の艦長としても、それは立派な人物だったのじゃが……殊の外、奇襲・奇策を好む方じゃったのう」

「奇襲に奇策……」

「その証拠に、プリンケプス・サーラには様々な武装が搭載されたそうな。乗っていて感じぬか?」

「あ、分かります……」


 小さめの声でセレーネさんが肯定の言葉を返す。

 うん、確かに……。

 船によっては積めない装備、合わない装備というものは、実は結構多いのだ。

 それは小型船に限らず、大型船でも重量バランスだったり、艦橋の位置だったりがネックになることがある。

 その点『プリンケプス・サーラ』には積み込めない武装はないのでは? と思えるほど前後重量のバランスが良く、艦橋もコンパクトで砲の邪魔にならない。


「霧に乗じる昔からあるような奇襲から、ダメージを装って敵主力を誘う、投石機で爆薬を投げる、兵を投げる」

「と、投石機で兵士を? 有効なんですか、それ……っていうか、敵船に乗り込むのが失敗しても成功しても死にませんか?」

「海王様の旧き友に、ベレーロという一騎当千の士がいたそうな。彼が単身空を舞い、敵船を混乱させ――」

「い、いよいよ御伽噺おとぎばなし染みてきたね……」


 セレーネさんの言葉に老婆が高笑いをする。

 そして、得てして英雄とはそういうものだと分かるような分からないような表現で煙に巻く。


「しかし、正攻法じゃないやり方ばかりなんですね。それで人気があったんだから、さすが砂漠の民……」

「どうあれ生き残ることが勝利だ、っていう野性味溢れる民族性だもんね……」


 砂漠の環境で生きているためか、砂漠の民の死生観はとてもシビアで戦い方も何でもありだ。

 そういう意味では今の王都の戦士団・砂漠のフクロウは、過去の兵たちと比較してやや腑抜けていると言える。


「一つ訂正じゃな。人気があった、ではなく砂漠の海王とその英雄譚は今でも人気じゃよ。特にここのような、港町ではのぅ」


 そういえばさっきここに来た時、何人かの子どもたちが海王の話を目を輝かせながら聞いていたな。

 今でも人気健在か……そう聞くと、益々『プリンケプス・サーラ』を簡単に沈ませる訳にはいかなくなった。

 俺が託されたものの価値と重さを改めて感じていると、セレーネさんにそっと袖を引かれる。

 ――っと、そうだった。ここに来た目的を忘れるところだった。


「それでですね、実は――」


 俺たちは『プリンケプス・サーラ』にある謎のブロックについて話した。

 すると老婆は黙ってそれを聞き終えた後……。


「ふむ、速度が逃げるとな……それは最高速に近付けた時だけか?」

「え? ……どうなんでしょう? 俺たちの機関手が気付いたのは、最高速度を出した後ですが」

「なるほどのぅ……速度自体は出ていたのじゃな?」

「出て……いましたよね? セレーネさん」

「う、うん。それはもう、船体が跳ねる位に……」

「その時、他に妙なことはなかったかの?」

「船が淡く光っているように見えましたが……」


 何だ何だ、その機能を使ったそれらしいエピソードがないか聞きたかったのだが。

 老婆はやけに詳細な説明を求め、聞き終えると考えるように顎を撫でた。

 そして急に杖を手に取ると、それを支えに立ち上がる。


「――おっとっと」

「だ、大丈夫ですか?」


 少しよろけたので、肩を支える。

 すると、支えたその手を上から叩いてお礼を言ってきた。

 ……何だろう、このお婆さんの手――


「では、案内せい」

「……はい?」

「プリンケプス・サーラに案内せいと言うておる。どんな様子か見てやるでの」

「ええっと……」


 思わずセレーネさんと顔を見合わせる。

 どういうことなんだ?


「……ああ、まだ言うておらんかったの。機関積み込みの際に、こう……真っ白な顎髭を蓄えた男に会わんかったか? プリンケプス・サーラほどの船なら、まず関わっておると思うのじゃが」

「顎髭……機関積み込み……機関技師長のゴメスさん?」


 俺が該当する人間を思い出しながら名を挙げると、老婆が三度みたび笑みを見せる。

 よく笑う人なのか、そうしていると目尻の皺が一層深くなる。


「あれはワシの息子じゃ」

「「ええっ!?」」

「更に言うなら、あれに機関技師のいろはを叩き込んだのはワシじゃ」

「「えええっ!?」」


 意外なところから元・技術者がぽろっと現れた。

 そんな人がどういう経緯で語り部になったんだろう……。

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