ポイント停滞と対策会議
1500ポイントの船を撃沈させた俺たちだったが、調子が良いのはそこまでだった。
それ以降、どうにか300隻が載るランキング下位には引っかかったものの停滞。
昨日、そして今日とイベント終了が迫る中でメンバーにも焦りの色が見え始めた。
ということで、ログアウト前に港の食堂に集まって反省会と作戦会議を兼ねたものを開催。
「むうぅ……どうにも決め手に欠けるというか……」
「セッちゃん砲は強いのですけれどね。最近上位で頻発している艦隊戦になると、流れを掴み切れません」
「せ、セッちゃん砲……?」
セッちゃん砲というのは、言うまでもなく艦前方にある大型バリスタのことである。
ただ、短い射程だったり長いWTだったりと万能という訳にもいかない。
風の影響もモロに受けるので、海が荒れている時はあのセレーネさんでも狙いを外したりする。
「上位は魔砲を標準装備でござるしなぁ……特殊装備とはいえ、そこそこの数が出回っているようで」
「強いですよねぇ、魔砲……でも、魔法抵抗の高い装甲なら耐えられるんですよね? ――あむっ。むっ!? むぎーっ!」
リコリスちゃんが質問してからパンを一口。
が、予想外に硬かったらしく左右に引っ張って噛み千切るのに難儀している。
「そうだけど、小型は溶けちゃうんだよね……対魔法金属って、一部を除いてどれも結構重量があるからさ」
人間用の装備であれば、一部の希少金属を用いて鎧や盾を作ったりもできるが。
全装甲を軽くて希少な金属で作製した船なんて――まてよ、探せばあるかも。
しかし、あったとしても魔砲よりも数は少ないだろう。
シエスタちゃんが二杯目のオレンジジュースを飲みながら俺の言葉に応じる。
「どうしたって避けるしかないんですけどねー。でも、野良の小型艦にそこまで期待できないという……」
中型・大型艦なら被害0とはいかないものの、魔砲のダメージをそれなりに抑えることができる。
どうもTBの船の歴史を辿ると、対魔法金属を用いた船が増え始めたことで魔砲から大砲へと砲の主力が移動したらしい。
しかし、対魔法金属を多くすると物理に弱くなるため今は魔砲も有効になったのだとか。
「どっかと同盟でも組みますか? 先輩」
「それもいいんだけど、フレンドが軒並み倒すべき上位陣になっちゃっているんだよな……サーラ勢はそうでもないんだけど、こっちはこっちでポイントが低過ぎるし」
「物作りが絡むと途端に駄目な連中だな!?」
「スピーナさんたちもルージュさんたちも、ユーミルさんには言われたくないと思いますが……」
要は、同じくらいの境遇だから協力しようぜ! と言えるフレンドがいない状態だ。
そういうのを抜きで協力してくれそうなヘルシャたち――シリウスは今回お休みだし。
後は味方にするよりも、敵として戦いたいと言ってきそうなタイプのフレンドばかりだ。
「顎が鍛えられちゃいます……それを踏まえて、私たちが今できることって何ですか?」
「操船練度――は他のプレイヤーも似たようなもののはずだな? ハインド。一部の本職さんを除いて」
「本職がいてもどうかな……現実の船とは違うところが多いし、無駄ってことはないだろうけどそこまでプラスになるかどうか。練度が似たようなもんって意見には賛成だぞ」
「むーん……」
海沿いということで、やはり海鮮系の食事が美味しい。
木製のちょっとボロいテーブルに置かれた熱々の海鮮グラタンを一口。
……海老がプリプリしていて良い食感だ。
「むしろ、セレーネさんの砲撃とシエスタちゃんの操船でお釣りが来るだろうよ。特にシエスタちゃんの操艦能力は予想外だった」
「えっへん。聞きました? 妹さん。褒められましたよ? 先輩に褒められましたよ?」
「……どうして私に言うのですか。煽っているのですか? 喧嘩を売っているのなら買いますが」
「あー、二人とも。飯が不味くなるからその辺にしておけよな」
軽口の応酬だが、この二人の場合は必ずそこで止まるので問題なし。
この中で言うと、ユーミルとリィズの組み合わせが一番本格的な喧嘩に発展しやすい。
次点で、意外なことにリコリスちゃん不在の時のサイネリアちゃんとシエスタちゃんの二人。
「まぁ、そんな訳で他よりも操船能力は勝っているくらいだ。俺たちの砲撃はまだまだ要練習だが……練り直すなら――戦術か?」
「砲を増やして今よりも安全に戦う、速度を活かして一撃離脱用の火力特化にする……とかかな?」
「確かに、あの速度は他にはない強みですよね」
セレーネさんが素早く二つのプランを提案してくれる。
今までの装備はバランス寄りだったのだが、野良の船団に混ざることが増えた今は全てを自分たちでやらなくてもいいということでの特化型だろう。
しかし、護衛などをする時に特化型では難しいし、近付かれた時の自衛手段が乏しくなる。
結果……。
「魔砲の代わりにでっかい大砲! 何だっけ……炸裂式大口径短距離砲!」
「あれ欠陥品だぞ。ほとんど0距離に近い位置からの射撃で使う、アホみたいなロマン砲。当たれば勝ちだが」
「全然曲がらない小型船に積んで、突撃していた鉄砲玉は見たでござるな」
「届く直前に撃沈されていたけどね……」
「プリンケプス・サーラの運用法には絶望的に合いませんね」
普通の大口径砲もあるが、命中精度が今一つ。
威力は十分だが、異常にWTが長いとプレイヤーからの評価は低い。
バリスタと両方試してから設置したので、これを採用することはないだろう。
「艦首ブレードっていうネタ武器もありますよねぇ?」
「シー、ネタ武器って分かっているなら提案しなくていいんじゃ……」
「っていうか、艦首を敵にぶち当てることの難しさ……シエスタちゃんが一番分かっているんじゃ?」
「まー、そうですね。大体そんなのなくても、武装を外して装甲をひたすら厚くしてぶつかっても一緒だし」
「し、シーちゃん!? そもそも、体当たり系の攻撃って有効なの!?」
そういった系統の装備は白兵戦前提ならば一考の価値あり、といった感じだろうか。
だが、これもなるべく敵を近づけたくない大型船には今一つだ。
「うぅむ……どの案もしっくりこないな……」
「それだけ今の装備の完成度が高いんだけどな。単艦としては、攻撃範囲に隙がない。苦手な距離がない」
食事をしつつのリラックス状態だったので、案自体は沢山出たのだが。
これといった結論を得ないまま時間になってしまい、今夜は解散ということに。
宿屋に戻り、次々にログアウト。
「あの、ハインド先輩」
「……? 何だい、サイネリアちゃん?」
「少し気になっていることが……」
声をかけられ、ログアウトを押そうとしていた指を止める。
表情を見る限り、それほど深刻な話ではなさそうだが……?




