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魔砲の脅威

 その船の様子は異常だった。

 一目で分かるほどエネルギーを溜め込んだ大砲の口が、野良船団の中核に向けられている。


「出たーっ!? 魔砲!? 魔砲!?!?」


 ユーミルが興奮気味にそれを指差してはしゃぐ。

 あの砲はこちらを向いているので、暢気にしている場合ではないのだが。

 引っ張るなっての、見えているよ。


「うん、魔砲だな」

「魔砲!」

「ブリッジ、回避行動は余裕を持って大きめに! 頼んだぞ!」

「あいあいさー」


 噂によると、『魔砲』は広範囲の直射攻撃とかいうインチキくさい攻撃だったはず。

 既に『プリンケプス・サーラ』は機関の出力を上げ、回避行動に移りつつある。

 甲板上の俺たちにできることはないので、耐ショック体勢を取りつつ新手の船のステータスを確認しておく。


「ギルド・うみんちゅの船か……なるほど、魔砲の力で上位に昇り詰めたのか」

「掲示板で話題になっていたギルドでござるな」

「艦隊を囮に単独行動ですか……大胆な作戦ですね」


 その時だった。

 凄まじい光量を発しながら、海に閃光が奔る。


「うおおおっ!? 想像以上の衝撃!」

「ド派手でござるな!?」

「眩しい!?」


 甲高い音と共に光線が通過していく。

 回避に移るのがもっと遅かったら、間違いなく直撃を受けていただろう。


「ど、どうなった……!?」


 音と光、そして揺れが収まって来たところで身を起こす。

 俺たちよりも遅れて、逃げる体勢に入りつつあった野良船団の大多数が焼かれ――。

 脆い小型船は戦闘不能、中型船の一部は半壊といった酷い有り様だ。


「つ、強過ぎないか……!? ハインド……」

「チャージに時間がかかるとか、目立つとかはあるけれど……そんなデメリット、まるで関係ない威力だな……」

「分散戦法が効果的でしょうが、それをさせないための艦隊行動でしょうし……」


 装甲の厚い船は無事なようなので、一気呵成に距離を詰めたりと全く対策できない訳ではなさそうだが。

 しかし、この野良艦隊でそれは望めず。


「む、みんな逃げて行くな……」

「そりゃそうだ。もう勝ち目はないからな……」


 そう言っている間にも何隻かが追撃を受けて沈んで行く。

 俺たちは一時的とはいえ、味方である他の船の撤退支援のために大砲を撃ち続けるが――


「……何か、敵船団が他の船を無視して向かって来ているような。私の気のせいか?」

「え? まさかぁ。まだまだ瀕死の船が大量でござるよ? わざわざHPフルのこっちに?」


 進路上の敵を掃討しつつ、船団の姿が徐々に大きくなってくる。

 そして至近弾が海面を叩く。

 一発、二発、三発……明らかに狙われている!?


「気のせいじゃないな!? せ、セレーネさん、船首バリスタに!」

「う、うん!」

「俺たちも大砲を撃ち切ったらバリスタに移動だ!」

「わ、分かった!」

「リィズ! ブリッジも察していると思うけど、念のため詳細な状況を伝えてくれ!」

「はい!」


 どうも俺たちが何隻か撃沈したのがよろしくなかったらしい。

 今度はこちらの番だとばかりに集団で押し寄せてくる。

 援護は……。


「なし、か……野良だし、仕方ないな」

「ハインド、魔砲の第二射は!?」

「そっちの心配は要らない。正確なチャージ時間は不明だが、よっぽど戦いが長引かない限り二射目はないそうだ。とにかく撃て、撃て!」


 相手を倒すことよりも、牽制を主とした射撃で時間を稼ぐ。

 とはいえ、セレーネさんの放った大型バリスタの矢はこれでもかと敵の船体にぶっ刺さっているのだが。

 危うく懐に潜り込まれるところだったので、ナイス射撃だ。

 だが、更にもう一隻轟沈させられたことにより砲火の密度が急激に増してくる。


「本格的に怒り出した!? まずいぞ、ハインド!」

「くっ……」


 船のHPが徐々に減り始める。

 このままでは『プリンケプス・サーラ』が沈むのも時間の問題だ。


「サイネリアちゃん、聞こえている!?」

「は、はい!」

「最高速度で振り切ってくれ! 機関、最大出力!」

「最大ですか!?」

「やってくれ! 使いどころだ!」


 性能隠し以上に、この状況で沈むのは士気の低下が懸念される。

 それを考えれば逃げ切りのほうが賢いと踏んでの結論だが……俺は副リーダーだ。

 最後の一押しはいつものように、リーダーにやってもらわなければならない。


「ユーミル!」

「うむ! プリンちゃんの足の速さ、やつらに見せつけてやれ! サイネリア、シエスタ!」

「――機関最大出力、行きます!」


 サイネリアちゃんが復唱してから、僅かな間を置いて変化が訪れた。

 最大稼働状態に入った虎の子の複合機関が唸りを上げる。

 ……機関の光だろうか? うっすらと、船体が光っているようにすら見えるが。

 そして『プリンケプス・サーラ』は、半包囲の敵布陣を切り裂くように尋常ではない速度で直進。


「ちょちょちょ!? 速っ――っていうか、バリスタの狙いが全くつけられん! ぬおっ、船が跳ねたぁ!」

「やめとけ、ユーミル! これじゃ撃っても当たらねえよ! あ、でもこの進路はまさか――」


 敵に背を向けて逃げ出すのではなく、不意をついてすれ違うように動いている。

 更にブリッジから、のんびり間延びした声が耳に届く。


「せんぱーい、折角なんでお土産を貰って帰りましょう。セッちゃん先輩、よろしくー」

「お、おう……この状況で良くそこまで頭が回るな。やってみましょうか、セレーネさん!」

「し、シエスタちゃん全然動じていないね……でも、了解だよ! みんなも、指示するからタイミングを合わせて!」

「「「了解っ!」」」


 狙いは勿論――迂闊に深追いして突出してきたポイント1500超えの船団旗艦。

 もしかしたら別行動・魔砲を放った『うみんちゅ』の船が本当のリーダーかもしれないが、船団を率いていたのはこちらだ。

 一斉に砲の前についた俺たちは、船の揺れに耐えるように腰を落とす。

 敵旗艦は慌てたように砲弾を発射してくるが、もう遅い。

 最接近――


「今だよ! ありったけを撃ち込んで!」

「砕けろぉぉぉ!」


 セレーネさんとユーミルの声を契機に、すれ違いざまに撃てるだけ撃ち込む。

 砲弾、砲弾、最後に多数のバリスタ。

 大型船ならではの多数の砲による火力と、数人でも制御可能な簡略化された発射システムによる一斉射撃。

 船首バリスタから放たれた特大の矢が、穴の開いた船体に飛び込み――爆発。


「フハハハハハ! 貴様らのポイントは私たちがいただいていく!」

「悪役だ……ベタな悪役がいる……」

「盗賊とか怪盗が言いそうな台詞でござるな……」

「少なくとも、周囲から勇者とか呼ばれている人が発していい台詞ではありませんね」

「私たち、悪役なんです? セレーネ先輩」

「ど、どうかなぁ……? 相手から見れば、うん……」


 撃沈を確信したユーミルが捨て台詞を残し、『プリンケプス・サーラ』はそのまま包囲からの脱出に成功。

 速度を落とし始めたところで、結構な量のポイントが加算されたのを確認した。

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