上位船団vs野良船団
既に戦いは始まっていた。
先程の船団よりもやや少ない数だが、ポイント下の者たちが協調して戦いを挑んでいる。
あの大型船を落とすことができれば大金星だ。
「ハインド!」
左舷で見張りをしていたユーミルが駆け戻ってくる。
続いてリィズが、船尾に行ってくれていたトビが一番最後に合流。
「どうする!? 手を出し難い空気だが……」
「少ない方に味方して戦闘ってのが一つの手だ。あっちの船団は海域に入った時点からああだから、元から結託しているんだろうが……戦っている相手は偶然居合わせた数隻が協力しているようだし」
あちら側ならば、加入して戦闘することが可能だろう。
やり方はリーダーとなっている船に信号を送り、受諾されればOKだ。
野良の船団は最初に事を構えた船がリーダーとなり、他の船の識別を管理しなければならない。
「やる気はないが、横からトドメだけかっさらうというやり方も可能なのか?」
「可能だ。ただし、ポイントを得たとしても両軍から袋叩きに遭うことになるが。今更だが、撃破のポイント配分がどうなっているかは知っているか?」
これまでは単艦での戦闘や救援が多かったので、こういった集団戦は初めてだ。
ユーミルに確認を取ると、少しの間を置いて口を開く。
「む……最初に戦闘していた船に一割、最もダメージを与えたMVPに五割、ラストアタックに一割――だったか? 残りの三割が、ええと……」
「参加者全員で分配。ただし、少しでも敵船にダメージを与えていないと駄目だ」
「そうだった! ということは、撃破だけを掠め取るのは結構おいしいのか? 一射で倒してしまえる場合もあるだろう?」
「上手くやればな。でもその後に上手く逃げ切る必要があるし、逃げるのに失敗して撃沈された場合、よっぽど高ポイントのラストアタックを取っておかないと赤字だ」
「そうか。では、そういうのが現れる心配はあまり要らないと」
「ああ。それより、どうするんだ? 戦うのか?」
戦況は当然のように野良船団が不利で、放っておけばじきに崩壊するだろう。
勝てないと踏んだ船が数隻離脱を始めたら、後はもう歯止めが利かなくなるはず。
「無論、行く! 頼りになるかどうかは分からんが、味方候補もいることだしな!」
「それは向こうからしても同じ――うん、まあいいか。トビ、やってくれ」
「承知仕った! ……おっと、向こうから新たな信号弾が。それならこっちでござるな!」
タイミング良く野良船団のリーダーから救援信号が飛ぶ。
協力受諾よりもこちらのほうが貰えるポイントが多いので、救援扱いで船団に参加。
もちろん、そういった仕様なので救援要請のほうが受諾してもらいやすいのは道理である。
戦況が不利だからか、なりふり構わない状態になっているようだ。
トビが受諾の信号弾を選び、打ち上げる。
「よし、これで参加。と同時に――」
――野良ではないほう、上位船団からは敵として認識される。
そう言おうとしたところで、至近弾を受けて船体が揺れた。
水飛沫が上がり、ユーミルが咄嗟に俺の服につかまり……
「いってぇ!? 何すんだ!」
当然のように一緒に転んだ。
手すりが遠い時は、屈んで衝撃に耐えるしかないのだが。
呻いたユーミルが俺の上で身を起こ――近い近い、顔が近い!
「す、すまない!」
「い、いや……うん、気を付けろよ?」
ユーミルが慌てて体を離すと、気まずい空気がその場に流れた。
息がかかるほどの距離だったな……心臓が痛いくらいに跳ねている。
そんな俺たちの間に、静かに影が差し込む。
「………………」
「ぬおっ!?」
音もなく現れたリィズがユーミルを立たせ、大砲の位置まで押し込んで行く。
俺を転ばせた負い目からか、ユーミルは珍しくなされるがままだ。
その異様な雰囲気を察し……というか巻き添えを喰らわないようにだろう。
気が付くと全員がその場を離れ、さっさとそれぞれが配置についている。
「逃げんの速ええ……」
「慣れでござるよ、慣れ……」
リィズを刺激しないようにだろう、小声でトビが答える。
しかし、相変わらずああいう時に助けてくれる気は皆無らしい。
俺もようやくそこで立って所定の配置につき、しばらくすると『プリンケプス・サーラ』が速度を上げ始めた。
状況は好転しつつある。
既に三隻の――といっても中型以下の船だが、三隻の船を撃沈させたことで周囲が勢いに乗る。
いつの間にか、『プリンケプス・サーラ』を中心とした砲撃体勢で野良船団が敵船団を押し始めていた。
「おお、押せ押せ! ……意外とこのまま行けてしまうのではないか!?」
「この先、何もなければな。あ、日和見な連中がこっちの加勢に……」
「早々に編成上限に引っかかりそうですね。しかし、念のため動きやすい位置に移動しておいたほうが良いのでは?」
リィズが砲撃の間に周囲を見回しつつ、そう忠告してくれる。
野良船団ということは、フレンドでも何でもない連中だ。
勢いに乗っている今は良いが、あまり信用し過ぎるものではない。
「……そうだな。このまま船団の中心にされると、何かあった時に逃げきれない。セレーネさん?」
「砲の射程には余裕があるから、私も賛成だよ。1500を超えている船が率いているにしては、少し……」
「不穏でござるな。拙者も一時後退に賛成」
「みなさんがそう言うなら、それでいいと思います! 私にはよく分かりません!」
リコリスちゃんが元気一杯に賛成したところで、俺は頷いた。
ブリッジに伝えようと、一歩踏み出しかけたのだが――
「何だ何だ、みんな弱腰だな! それでは、その辺の連中に撃破を取られてしまうぞ!?」
ユーミルが現状のままでの継戦を訴えかける。
ちょっと興奮気味だな、これは良くない。
「……お前、一旦深呼吸して周囲を見てみ? その間、砲撃はしなくていいから」
「むっ?」
言われた通りにユーミルが周囲を見回す。
前へと雪崩れ込んで行く野良艦隊、下がりながら射撃をする上位艦隊。
敗走に近い有り様にも見えるが、その割に上位艦隊のHPはまだまだ余裕がある。
「……誘いこまれている?」
「ああ。嫌な感じだろう?」
簡単に考えられるのは、射程が短い代わりに威力の高い砲で殲滅。
或いは、砲のWTを合わせての一斉攻撃か。
どちらにしても、事が起きてからでは遅いのが海戦だ。
ユーミルもこれまでの戦いでそれは十分に分かっているはず。
「うむ、確かにこれは後方にいたほうがいいな……ブリッジ! 後退だ!」
「聞こえていましたよー。念のため、敵主力の射線も考えて移動しますね」
「頼む!」
ユーミルの言葉を受けて、船は集団の後方へ。
バリスタは撃たず、射程の長い砲だけを撃ちながら安全圏に。
異変が起きたのは、程なくしてだった。
敵の背後から一隻の大型船が現れ――。




