復路と即席艦隊
『プリンケプス・サーラ』が資源島からイベント海域へと出航していく。
全体の割合として、1000ポイント以上の船は上位5パーセントほどとのこと。
それだけ900ポイント以降は伸びが悪く、ポイントを維持するだけでも難しい。
必然、船の多い資源島周辺は交戦が激しくなり……。
「わはははは! 入る時も大変だったが、出る時も酷いな!」
「祭り気分か! 油断していると――」
「先輩、囲まれそう。早く出航しないと」
「ほら、でかいんだから! みんな、疲れていると思うけど位置についてくれ!」
隙を見せると、島を出た瞬間から被害を受けることになりかねない。
俺たちのポイントは900に達したばかりなので、挑んでくる船は数知れず。
ちなみに船のHPはまだ九割以上あるが、半分を切った辺りから狙われる頻度がグンと高くなる。
だから、いかに高HPを維持するかもこのイベントでは重要なことになる。
「……シーちゃんが“早く”って言った!? 珍しい!」
「そりゃ、後々面倒になりそうな時は言うよ。急ぐ必要がない時は急ぎたくない……分かって? リコ。この気持ち」
「わ、分かるような分からないような……でも、さっきの“早く”もシーちゃんらしいってことは分かったよ!」
「さよかー」
「リコ、砲撃は任せたからね。シーはこっちでしょ、人を急かしたんだから早くしなさいよ」
「サイに攫われ――」
「それはもういいってば!」
ヒナ鳥三人も軽口を交わしながら配置についたところで、周囲の状況を確認する。
……低ポイント狩りの連中がこちらの船のポイントを見て遠ざかっていくな。
代わりに俺たちと同じくらい、少し下、それから1000に届いていない上のポイントの連中がぞろぞろと。
それから、こちらと同じタイミングで島を出たプレイヤーたち……おっ、何隻かが先に出て一部の船を釣っていく。
動き出すタイミングは大事だな……どうするか。
「ハインドさん、協力要請が来ていますが」
「おっ、初じゃないか? どの船だ?」
救援要請は何度か受けているが、協力要請は初だ。
リィズが示したほうを見ると、中型船が二隻……ポイントは俺たちと同じくらいか。
「……」
ユーミルが無言で問いかけの視線を送ってくる。
じっと、じーっと……というか、段々と近付いてそれを主張してくる。
「……何か言えよ」
「……届いているだろう? 私からの返答要請の念が!」
「馬鹿野郎」
頼むから普通に質問して欲しい。届いているけど。
協力要請における救援要請との違いは、一方的に助けてもらうのではなく一緒に敵を撃退しようという目的の差だ。
これを受諾すると、海域を出るか互いに解除の意志を示すかするまでその船は一時的に味方となる。
「つまり、即席で艦隊を組みましょうっていうお誘いだ」
「おお、いいな! しかし、ここに来るまで一度もそれがなかったのは……」
「大型船で単艦、護衛もなしにブラブラしている船にそれを送ろうって人は少ないだろうからな。でも今は――」
「ポイントという分かりやすい実績があるからでござるな?」
「そうだ」
ここまで大型船の一隻でポイントを積み上げてきたという事実。
面白そうだから誘ってみようというプレイヤーが出ても、何ら不思議はない。
「リィズ、折角だから受けよう。あっちも復路だよな?」
「そのようです。では、信号弾を――」
「あ、私が! 私がやりたい!」
「……どうぞ」
ユーミルが受諾の信号を送り、ステータス画面に二隻の船が表示される。
HPの残りも俺たちと同じくらいか……シエスタちゃんにお願いして船を近づけると、二隻の中型船は『プリンケプス・サーラ』のやや前方で航行を開始した。
「おっ、こっちを盾にする気はないと……いい協力者に会えたんじゃないか?」
「といっても、的が大きいこちらが狙われることにはなりそうですが」
「だが、心意気は買うさ。小型船の相手はあっちに任せて――来たな」
五隻からなる艦隊が、こちらを追って移動してくるのが視界に入る。
大型2、中型3の大艦隊……結構な戦力差があるな。
そして協力者の船からは、やや腰が引けるような空気が。
交戦信号は三者間でつつがなく取り交わされたが、協力者がどう動くかはこちらの最初の攻撃の成果次第となるだろう。
「セレーネさん、タイミングを計って号令をお願いします!」
「分かったよ。みんな、砲に!」
「ブリッジ!」
「針路、固定しまーす」
「速度このまま、第一射後に加速します!」
緊張感が高まっていく。
容易に目視できる距離ではないが、セレーネさんは双眼鏡を使わずに敵艦隊を鋭い視線で見つめる。
徐々にそれが近付き、有効射程ギリギリを見極め――
「よく狙って! ……発射!」
長距離砲を発射する。
命中したのはセレーネさんが撃った砲弾――だけではない。
俺たちも彼女に任せきりという訳ではなく、下手なりに実戦を重ねてきた。
五割ほどの命中率ながら、次々と砲弾が敵大型船に突き刺さる。
「砲が全てWTに入ったか……どうだ?」
双眼鏡越しに覗き込むと、大型船の速度は大きく下降。
開いた穴から煙を吐き出し、甲板上は大混乱に陥っていた。
HPを確認すると、半分を切っている。
「――よし、敵大型船中破! 機関にも被害が及んでいるようだな」
「偽装ということはないのか?」
「ないない、この船みたいな黒煙装置を積んでいる船がそういてたまるか。リィズ、味方の様子は?」
「味方中型船、砲撃を開始しました」
「いいタイミングだ。このまま敵の動揺を突くぞ!」
接近し、バリスタを乱射しながら近付いていく。
敵中型船一隻をセレーネさんが船首バリスタで射抜き、撃沈。
これで数の上では同じとなったが、既に趨勢は決している。
こちらにもそれなりに被害が出たものの、五分も経たない内に敵艦隊で浮上している船は一隻もなくなっていた。




