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疾走、資源島 前編

『プリンケプス・サーラ』がその島に着いたのは、日付が変わる少し前。

 錨を下ろし上陸の用意が整ったところで、俺たちは全員で向かい合う。


「いいか? 制限時間は三十分……ルートは有志が作り、最適化されたこいつを使う。リィズ、頼む」

「はい。上陸地点がここになりますから――Cルートですね」


 リィズがマーキングしたマップを同期させ、それが行き渡ったら準備完了。

 まだ一度も上陸していないので細部が不明瞭だが、一度通ればそれも解消される。


「じゃあ、ユーミル」

「うむ!」


 ユーミルが頷き、右手にスコップ、左手に『不壊のツルハシ』を掲げる。

 後はマーキングされたルートに従い、ただひたすらに――


「素材を狩り尽くすぞ! 鳥同盟、出発!」

「「「おおー!」」」

「おー」


 制限時間は三十分。

 資源島の大きさはそこまでではないが、手間取っていると採取ポイントを全て回れなくなってしまう。

 採取の仕様上、採取ポイントの取得数は個人に依存するので、分散して当たるという方法も取れない。

 だから、俺たちは全員で走る必要がある。

 上陸用の小舟を使い、接岸――というよりも、足が付く浅瀬まで進んでから降りる。


「――ぬお、制限時間が目の前にでかでかと!」


 すると、制限時間が視界の中に表示される。

 一足先に陸に上がったユーミルが無駄にその場で足踏みをしているが、まだ全員が船から降りていない。


「ハインド殿、小舟は係留させなくてもいいのでござるか?」

「っていうか、小舟はインベントリに入るじゃんか。忘れたのか?」

「ああ、そうでござった! ……で、何で拙者にどうぞどうぞみたいな仕草を?」

「お前が前に小舟を使った時に、俺の醜態を笑ったことも忘れていないぞ。ってことで、今回はお前がしまってくれ」

「そういや、さっきも出す時にちょっと苦戦していたでござるな……って、拙者も嫌でござるよ!」


 インベントリに入るものとしてはサイズが大きいせいで、出す時に難儀するのがこいつの悪い所だ。

 小舟の収納を押し付け合った末、俺たちは……。


「……陸地まで押して置いておかないでござるか? 確か、この島はインスタンス形式でござろう?」

「……そうしよう。押すのを手伝ってくれ」


 誰にも取られる心配がないので、男二人で陸地まで押して係留させることにした。

 これだったら、女性陣を乗せたままもっと浜の近くまで押しても良かったような。


「ハインド、トビ! 早く早く!」

「ああ、今行く!」


 こんなことをしている間にも、微妙に時間をロスしている。

 オプションの洗浄機能には服を乾燥させる効果もあるので、それを呼び出して服を軽くしながら駆け出した。




 資源島の中は森に近い環境だが、木々の間から程よい日差しが降り注いでいる。

 その光を反射しながら川の水が流れ、鳥の鳴き声が響き、小動物が草むらを駆けて行く。

 俺たちが上陸したのは川沿いの薬草が多いエリアで――


「……噂通りですね。ルストの深い森でしか取れないような薬草たちが群生しています。あ、これも……」


 リィズが淡々と、しかし僅かに喜色を滲ませて辺りを調べて回る。

 薬草は一部、自然にしか発生しない栽培不可のものも存在するので、この機会になるべく多くストックしておきたいところだ。


「先輩先輩、冷静ですね妹さん。これってゲーム的には結構凄いことですよね?」

「いや、あれでもリィズは喜んでいるんだよ。ちょっと分かり難いだけで」

「へー……」


 笑みを浮かべ、シエスタちゃんがじっと下から俺の顔を覗き込んでくる。

 その眠そうな目を見返しても、今どんなことを考えているのか推し量るのは難しい。


「な、何? シエスタちゃん」

「私も先輩の妹になりたい」

「どういうこと!? っていうか、前にも似たようなことを言ってなかった!?」

「改めてってことですよ。あ、でも先輩の身内になる方法は他にもありますもんねー。私としてはむしろ――」

「……シエスタさん?」


 地の底から響くような声音を出してから、リィズがスッと立ち上がる。

 と同時に、スッと周囲の気温も下がったような気がするが……。

 あの、シエスタちゃん? 俺を盾にしないでね?


「お前たち、いつまで喋っている! 手を動かせ、手を!」

「てやああああ! あ、土の中に種がありましたよユーミル先輩!」

「でかしたリコリス! 私も負けぇぇぇん!」


 下がった気温が太陽のように暑苦しい二人の声で中和された。

 ユーミルの奴、いつぞや俺が言った台詞をそのまま返してきやがって……確かに手は止まっていたが。

 二人の勢いに毒気を抜かれたのか、リィズがスコップを持ち直して採取へと戻る様子を見せる。

 ただし、シエスタちゃんをサイネリアちゃんに押し付けてからだが。


「あー、サイにさらわれるー」

「あのね……はぁ。私たちはあっちから回るわよ」

「サイは真面目だなぁ……」


 ずるずるとシエスタちゃんが引きずられていく。

 それを見届けてから、リィズは俺の近くの採取ポイントに手を付けた。


「全く、油断も隙もありませんねあのお昼寝おっぱいは……」

「お、おう……ところで、どうだリィズ? ドロップレベル3の効果は?」


 隣に屈んだリィズと一緒に、川の傍の薬草にスコップを差し込む。

 俺たち――というか『プリンケプス・サーラ』は上陸前に900ポイント超えを達成。

 乗組員にドロップアップ効果が適用されている。

 ……されているのだが、こいつはただの上質な『薬草』か。

 品種改良が少なくて済むのは、新規の生産プレイヤーからしたら嬉しいだろうな。

 ただ、俺たちの素材事情からすると残念ながらこれはハズレの部類。


「そうですね……まだまだ入手が容易な素材も混じりますから、存在が確認されたもっと上のレベルも目指したいところです。もちろん、今の状態でも回数をこなせば悪くない結果になるとは思いますが」

「そっか。しかし、どうも俺ってこういう引きが弱いんだよな……くじ運がないっていうか」


 見た目が同じ草を取っても、各人で違う種類の素材になる場合があるので何が手に入るのかは運だ。

 最初にリィズが取っていたものは固定でレア素材が採れるタイプのものなので、運に左右されないのだが……また『薬草』かよ。


「うん、駄目だ。さっきからレア素材が一向に出てこない」

「でもハインド殿、変な人を引き寄せる能力はあるでござろう?」

「――えっ? って、トビか。聞いていたのかよ」


 リィズの反対側からひょこひょことトビが寄ってくる。

 変な人を引き寄せる能力って何だ……?


「その能力とハインドさんのくじ運とは、あまり関係がないと思いますが」

「そうでござるか?」

「待て、お前らの間でそれは共通認識なのか? なあ?」


 話しながらも次々に採取地点に手をつけるが、未発見の素材などは入手できず。

 リィズのほうは俺よりはマシなようだが、それでもあまり芳しくないようだ。

 あれか、俺たち兄妹はにこやかじゃないからいけないのか? 笑う門には何とやらなのか?


「そういえば、商店街のくじなんかもハインドさんは人に代理をお願いしていますよね? ……ユーミルさんとか」

「まあ、あいつに頼むと――」

「何か出たぁぁぁ! 獄炎の魔力草!? 強そう!」

「……肉とか米とか当ててくれるからな。俗な言い方をすると、持っている人間ってやつだ」

「不条理な……」

「羨ましいでござるなぁ……」


 こんな様子でそれぞれ採取できるものに差はあれど、川沿いでの探索は順調に進んで行った。

 ただ、新規取得であってもその都度性能などを確認している時間はない。

 それらは船に戻ってからやればいいので、全て後回しだ。

 俺たちは一帯の採取ポイントを調べ終わると、足を止めることなく資源島を更に奥へ。

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