実戦とセッティング
「そういえば、装備は攻略情報から引っ張れなかったんですか?」
ドッグにて船の装備の変更中、プリンを木の匙で食べながらシエスタちゃんが質問してきた。
俺はノクスとマーネに餌をやりながらそちらに向き直る。
「そうだね。誰もが認める鉄板装備とか、最強武器があればそれでも良かったんだけど」
「バラけているんですか?」
その答えは一面、正解ではあるが足りない部分が多い。
どこから話すべきか逡巡していると、セレーネさんが船から降りてきて俺の横に並ぶ。
「えっと、正確に言うと船の大きさや性能がバラバラでね? それに合わせて装備を考えて行くと――」
「あー、分かりました。船によって最適な装備がそれぞれ違うんですね?」
「ああ。小型船だけを取っても装備なしで最速仕様にしていたり、バリスタだけ積んで自衛していたりと色々だから」
「動力の性質にもよるんだよね。加速が速い機関、最高速が速い機関、帆船なんかだと潮の流れと風によって速度が変わっちゃうし」
ちなみに『プリンケプス・サーラ』に積まれている例の機関はバランス型らしい。
ただし加速・最高速共にかなり次元の高いレベルで纏まっていると機関技師長が話していた。
「でも、セオリーみたいなもんはあるんでしょう? 小型船はこう、みたいな」
「あるね。小型船はそんなに多くの武器を積めない、機関も大型のものは積めない……ってことで、180度――場合によっては360度対応可能な回転砲塔を一基。これには大砲よりも軽量なバリスタが人気って感じかな。高い旋回性能を活かして、とにかく回避回避からの……」
「うん。装甲を貫通可能な威力さえ確保できていれば、潜り込んで大きな船の側面に――」
「ブスリ!」
一足先にプリンを食べ終わったユーミルが、シエスタちゃんの脇腹を指で突く。
……食べて寝てばっかりなのに、ほとんど指がめり込んでいないのはどういう訳だ?
シエスタちゃんの体は不思議である。
「あいたー。やめてくださいよー、ユーミル先輩」
「わはははは! 小型船の攻撃は蜂の一刺し、といった感じだな!」
「まさにユーミルさんの言う通りかな。そういう小型船が数隻集まって囲めば、中・大型船にも勝つ可能性が十分にあると思うよ」
餌やりが終わったので、ようやく俺もプリンをインベントリから取り出して食べ始める。
久しぶりにノクスの氷が大活躍で、甘く冷たいプリンがつるりと喉を通り抜けて行く。
……この砂漠の気候で生温いプリンだったら、結構キツイことになったと思う。
「まー、それが怖いから遠間で何とかしたいんですよね。大型船の操舵手としては」
「うん、じゃあそのまま中型船のセオリーも話しておこうか。中型船になると大きな砲を複数積めるし、戦い方によっては大型船も単艦で落とせる可能性がある。でも……」
「「「あー」」」
俺が言わんとしていることは、最後まで行かなくても大体伝わったらしい。
……っていうか、シエスタちゃんはマーネを引き取ってくれないかな?
二羽が俺の体を自由に散歩していて、体勢を維持するのが結構辛いんだが。
「欲張ると、中途半端で微妙な船になる。装備によってどんな局面にも対応できるし、迷ったらこのサイズっていう鉄板ではあるんだけど」
「カスタマイズの幅も小型よりはありますもんねー。じゃあ、大型は?」
と、そこで自発的に飛び立ったマーネがシエスタちゃんの肩に止まった。
ノクスも一旦ユーミルに預けて、プリンをもう一口食べてから話を続ける。
「大型の戦法は大概こうだ。他よりも多い砲と長距離でも発揮可能な制圧力を活かして――火力で圧倒! それのみ!」
「おおー、合理的だけど頭悪い感じがしますねー」
「何だと!?」
「はい?」
「ま、待って? シエスタちゃん、ユーミルさんのことは何も言っていないよね?」
「む、そうか……」
ああ、そういえば掲示板でそんなことを書かれていた気も……。
いや、リィズだったかな? どちらにしても、シンプルで強いというのは悪いことじゃない。
「……まあ、誰かさんの戦法に似ている部分もあるけど。海戦っていうのは隠れる場所もない海で撃ち合うものじゃない? 火力差、速度差、相手を先に見つける索敵能力なんかで勝敗が決まる。油断しなければ、俺たちが大型船以外に負けることはほぼないと思うよ。――あ、一対一の場合ね?」
「じゃあ、とりあえず初期装備の砲で出てみたのはどうしてですか?」
その論法で行くと、論外じゃありません? とシエスタちゃん。
駐留中の『プリンケプス・サーラ』からは装備を積み替える音が聞こえてくる。
それに関しては、船のセッティング画面を見てもらった方が早いだろう。
メニュー画面をシエスタちゃんのほうに近付ける。
「とりあえずこれを」
「えー、面倒……ん? 飛距離、威力、弾速……何です? この大雑把なバーで表現された性能表?」
「よく分からないでしょ? セレーネさんもそう言ってさ……とりあえず、初期装備の大砲を試してみないとどうにもならんということで、やむなく。練習モードはあるけど、実戦じゃないと分からないことも多いし」
「初期装備も、劣悪っていうほどのパラメータじゃなかったしね……やっぱりっていうか、中型船に向いた重量と威力のバランスだったけれど」
「んー、なるほどなるほど。じゃあ、ここからはあの初期大砲を基準に装備の模索? と並行して、ポイント稼ぎですか?」
「うん、そうなる。……あ、音が止んだね? 積み替えが――」
「乗り込めぇぇぇ!!」
細かい話に嫌気が差していたのか、ノクスを一緒にユーミルが船の方に突進。
その声に反応して、リコリスちゃんがプリンをかき込んでそれを追いかけて――
「あ、ご馳走様でした! 甘くて美味しかったです! ――待ってくださぁぁぁい!!」
「お、おお……急いだところで、全員乗らないと動かせないんだけどね? って、もういねえや」
「……と、とりあえず私たちも行こうか? ハインド君」
「……そうですね。ログアウト中のリィズがまだですが、船で待ちましょう」
あくびをするシエスタちゃんの背を押しながら、俺たちも船へと乗り込んだ。
長射程の砲は威力に乏しい。
精度と飛距離のために口径は小さく、砲身が長くなった上で更に……。
「うお、急に逸れたでござる!?」
左右にブレる。
砲の中にライフリング――螺旋状の溝がないため、空気抵抗をモロに受けてしまう。
トビが撃った砲弾は、惜しくも小型船には命中せず。
「当たったと思ったんだがな……」
さすがにぶっつけ本番という訳にもいかず、練習モードで数発撃ってから海域に行く予定だ。
積んだ砲は今撃った長射程のものと火力重視のものが半分ずつ。
双眼鏡を外すと、リィズが何かを訊きたそうに近付いてくるのに気が付いた。
「どうした?」
「ハインドさん、砲の改良はできないのですか?」
「できないな。機関と一緒で、売っているもの、船に備え付けのもの、それからクエスト等の特殊入手品だけを搭載可能っていう制限がある」
「あくまで近代の船と同じにはさせないということですか……」
「銃が作れないのと一緒だな」
「では、特殊な入手品という――」
「特殊な大砲だとぉ!?」
「……うるさいですよ、ユーミルさん。会話に割り込んでこないでください」
浪漫溢れるワードに反応したのか、横っ飛びにユーミルが食いついてくる。
セレーネさんに目配せすると、苦笑しつつ頷きを返してくれた。
「……今からそれ関連のものを探すのは間に合わないと思って、黙っていたんだが……魔法を圧縮して撃てる大砲があるそうだぞ?」
「おおっ!?」
「その名も魔砲」
「お、おお……」
何とも駄洒落染みた残念なネーミングだが、これが正式名称らしいので仕方ない。
そもそもこの流れで言うからおかしいのであって、例えば「魔導砲」であったりと、割とありがちなネーミングではある。
「人間が放つ魔法よりも高威力で、船にも有効らしいんだが……上位陣でも、いくつかの船だけが積んでいる貴重品だそうだ」
「というか、どうして船には魔法が効きにくいのだ?」
「あ、それは鋼材に魔法に強い金属が使われているからだよ。ユーミルさん」
「へー!」
だから物理ダメージの大砲を使っている、というところに戻る訳だが。
過去のTB世界には、船の上に魔導士を並べて攻撃する戦法も存在していたとか。
リコリスちゃんがそこまでの話を聞いて小さく唸る。
「うーん。時間があったら欲しかったですね、魔砲」
「うむ。だが、プリンちゃんも特殊なクエストを経て得た船だ。魔砲がなくとも上を目指せる!」
「ま、上位陣の全てが魔砲を搭載している訳じゃないしな。ってことで、ボチボチ次の実戦に行くとしよう」
『プリンケプス・サーラ』の性能を引き出すまでには、まだまだ実戦とセッティングの「詰め」が必要だ。
練習モードを終え、船をイベント海域に向けて出発させる。
こうして俺たちのイベント参加二日目の夜は更けていった。




