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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
資源島と海への誘い

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混迷の海戦

「さ、左舷、全門掃射!」

「左舷、全門掃射ーっ! 狙わなくていい、とにかく撃て! 撃てぇっ!」

「復唱していて遅れるなよ、ハインド!」

「お前、人のこと言ってる場合か!? リィズがブリッジに行ってるんだから、俺らが一門ずつ多く撃つんだぞ!」

「――むおっ!? そうだった!」


 砲の数は全部で二十四、左舷にはその半数が割り当てられている。

 六人いれば二門ずつの操作で済むが、一人欠けた今の状態ではそれを補う必要性が生じる。

 やや不揃いながら、そこから一拍置いてその十二の砲から大質量の鉄球が次々と発射。

 車輪の付いた砲台が反動で次々と後ろに下がっていく。


「近い近い、近いでござる! 何でまた接近戦!?」

「うるさいですねー。こっちの的が大きいんですから、こうしたほうが絶対に被害が少ないですって」


 ひょっこりと顔を出したシエスタちゃんがそう告げる。

 あれ? そんなところにいるってことは、操艦は……?


「操艦は妹さんに。接近直後の砲の様子をどうしても直に見たくて」

「理由を聞けば納得できなくもないですけれど、急に任されるほうの身にもなりなさい!」

「まあまあ、後は直進なんで。それよりも、ほら。勝ちましたよ?」


 ()()()中型船が船体を折って沈み、俺たちは勝利を収めた。

 今回戦った相手は全部で三隻、小型が二隻に中型が一隻。

 いずれもセレーネさんの砲撃スキルとシエスタちゃんの操艦センスによって、白兵戦に突入せずに撃沈することができた。


「私たちの勝利か! しかし、また白兵戦はお預けのようだな……」


 汗を軽く拭うような仕草をしつつユーミルが呟く。


「セレーネさんが接近前に小型船を落としてくれたからな。っていうか、できるだけないほうがいいだろう? こっちは八人しかいないんだし」

「そうだね。なるべく砲撃戦で決着をつけるのが望ましいと思うよ」

「八人乗りの船だってバレたら、むしろ積極的に白兵戦に持ち込まれそうでござるな……」

「うーん、やっぱり結構問題あると思うんですよ。この船の装備」


 シエスタちゃんの言葉にみんなで頷く。

 勝ったというのに、誰も彼もスッキリしない顔をしているのは戦闘内容があまりよろしくないからだ。

 昨日の時点で得ていたポイントは120、それが数戦を経て340ポイントまで上昇。

 一件順調なようだが、何となく「このままだと行き詰るんだろうな」という感覚は全員にある。

 故に……。


「どこが? っていうのは訊くまでもないか。ずばり――」

「砲の射程、だよね?」


 俺とセレーネさんの言葉に、シエスタちゃんが我が意を得たりと大きく頷く。

 と、そこでサイネリアちゃんとリィズもブリッジから甲板へと降りてくる。


「そうそう、そうなんですよ。砲の射程が同じ……例えば中型船なんかとまともに撃ち合うと、いくらセッちゃん先輩がいてもこっちが先にボロボロになっちゃうんで。さっき言った大きさ――ゲーム的に言うと、ヒットボックスの問題ですね。大型船の辛いところです」

「だから接近して、相手より多い砲の数と火力を押し付けているのでござるか……」

「まあ、プリンちゃんは装甲がごいすーなんで。どっちも必中の距離で戦えばまず負けません。といっても連戦になれば段々と消耗していきますし、スマートな戦法とはとても言い難いですが」

「ごいすーって何? ねえねえ、シーちゃん? ……サイちゃん?」

「お父さんに訊けば分かるんじゃないかしら」

「……?」


 ……リコリスちゃんの疑問は後で教えてあげるとして。

 損傷した装甲――つまり船のHPに関しては、ゲームらしく港に帰れば修理することが可能だ。

 しかし、このまま戦っていいものかどうかは……今のHPを見れば明らかだろう。

 ちょうどリィズがメニュー画面で船の状態をチェックしている。


「ちょっと船体の傷が広がって来ましたね……どうしますか?」

「復活可能とはいえ、気分的には一度も沈めたくないな!」

「ああ、確かにな。何年も前とはいえ、不沈艦で名を売った船だしなぁ。俺たちの手でその評価に泥を塗るってのも忍びない」

「性能差やら何やらで、まだ余裕があるといえばあるでござるが」

「うーん……」


 攻略情報を頼りに、高ポイントが集まるエリアを避けて戦っているので周囲に船影は少ない。

 イレギュラーがない限り、トビの言うようにギリギリまで戦ってから港に修理に逃げ込むというプレイも可能ではありそうだが。

 しかし、俺たちは今日になって本格的に戦い始めたばかり……後発なのでイベント期限は気になるが、まだ焦って無理をする場面でもない。

 それに――


「装備の吟味は高ポイントになる前に済ませておきたいんだよな。色々と試すなら今の内じゃないか?」

「私もハインド君に賛成だよ。信頼できない武器で戦うのは、いざという場面で戦況に大きく響いてくるからね」


 他ならぬセレーネさんの意見に、場の空気が一時帰還に向けて流れて行く。

 それを察知して、舵取り役のシエスタちゃんが緩い動きで顔を上げた。


「そんじゃー、一旦港に帰りますか? 装備の載せ替えとか改良とかって、システム的には簡単に可能なんですよね?」

「ああ、専門の店もあるらしいんで問題なし。ってことで針路は港で頼むよ、シエスタちゃん」

「あいあいさー」

「こっちはセレーネさんを中心に、装備変更の相談を――」


 言葉の途中で、俺は視界の端に船の姿を捉えた。

 艦隊編成で、戦意を漲らせてこちらに向かってくる。


「……と思ったけど、もう一戦やらなきゃいけないみたいだ。あまり良い状態とは言えないが……現状の装備で、できるだけやってみっか」

「うむ。蹴散らしてやる!」

「逃げることもできるでしょうけれど、最大戦速を見せるにはまだ早いですしね」

「ポイントも手頃でござるよ、413。いざとなれば逃げの一手でござろうが、まだ何とかなる範囲かと」


 やはりというか、交戦の意志を示す信号弾が打ち上げられる。

 それに対し、視界の中に返答までの制限時間が表示。

 受諾にしても拒否にしても、この時間内に返信しなければポイントを引かれてしまうので注意だ。

 あまり近付かれ過ぎないよう、ブリッジに戻ったシエスタちゃんとサイネリアちゃんが相手から距離を離すように船を動かす。


「波も穏やかだし、航行速度もそれなり……装備してある砲も同型に見えるから、うん。射程ギリギリで一隻は落とせると思うよ。返信が終わったら、先制攻撃しようね」

「わぁ……こういう時のセレーネ先輩は格好いいですね、ユーミル先輩……!」

「うむ……こう、研ぎ澄まされた……いわゆるスナイパーの顔というやつだな? ――相手の船が砲弾で沈む時、セッちゃんの眼鏡が光るっ!」

「光りますっ!」

「ふ、二人とも? その、恥ずかしいから程々に……それと、光らないし、光ってもそれは日差しの反射じゃないかなって……」


 ……ともかく、照れたセレーネさんが的を外さないことを祈るのみだ。

 こちらも手持ちの式の信号弾を打ち上げ、交戦開始のカウントダウンが始まる。

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