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レアドロップとポイント稼ぎ

 全員が『プリンケプス・サーラ』に乗り込んだところで、出発前に少し相談の時間を設ける。

 船を動かしながらとも思ったが、やる気があるのか約束の時間よりも早く集合が完了した。

 これなら焦らなくても、落ち着いて話をしてから行動することができる。


「ってことで、今夜から本格的に攻略をしていくぞ」

「「おー!」」


 元気な返事はユーミルとリコリスちゃんから。

 他のメンバーは各自、程々の声で応えてくれる。


「流行りの戦術とか攻略情報なんかは一通り押さえてきたんで、疑問があったら訊いてくれ。これはちょっとっていう反対意見も、何かあれば今の内に言ってくれると嬉しい」


 ログインする少し前に今夜やることはメールで伝えてある。

 短く読み切れる量の文章にしたので、おそらくみんな理解してくれているはず。

 早速シエスタちゃんが手を上げ――


「先輩、私の髪型どう思います? 長過ぎってよく言われるんですけど、少しくらい切ったほうが――」

「う、うん? 流行りの髪型とかは知らないからね? シエスタちゃんは長い髪が似合っていると思うけど」

「マジですか? じゃあこのままでいいや」

「ハインド殿、明日の数学の攻略法を拙者に!」

「ゲーム外で訊け。っていうか、今になって急に当てられる日だって思い出したな? 青い顔をすんな、後でちゃんと教えるから」

「明日の朝食のメニュー!」

「和食系の予定だけど、まだ考え中。寝る前に仕込みをするから、決まるのはその時」

「私はハインドさんの攻略法が知りたいです」

「それは自分で考え――お前らいい加減にしろよ!?」


 何一つとしてイベントに関係する質問がねえ!

 俺が思わず叫ぶと、肩のノクスが真似をするように羽を広げて高らかに鳴いた。

 うお、羽が顔に!?


「ええと、ええと……」

「……無理に変なことを言おうとしなくていいからね? リコ」

「あはは……あ、それじゃあハインド君。まずは、どうしてポイントを1000まで稼ぐ必要があるか聞いておきたいかな?」

「……ありがとうございます、セレーネさん」


 多分だが、セレーネさんはその理由を知りつつも質問してくれている。

 そして当然のように首を傾げる大小の騎士二人。


「ポイントを上げると、資源島でのレアドロップ率が上がるっていう話はしたよな?」

「した……ような?」

「聞いたような?」

「あー、じゃあ、覚えていないなら今から覚えてくれ。で、その閾値しきいちになっているのが300、600、900なんだってよ。0から299までがボーナスなしで、300からがレアドロップレベル1。そこから300刻みで600からがレベル2、900がレベル3と上昇していく。1200、1500がどうなっているかは不明だそうなんで、とりあえず1000を目標とした訳だ」

「900では何かまずいことでもあるのか?」


 ユーミルのその質問は結構ありがたい。

 どうして900でドロップレベル3に到達するのに、そこから100稼ぐ必要があるかというと……。


「ポイント900付近っていうのは、凄く争いが激しいらしいんだよ。というのも900まではポイントの上昇幅が大きくて、そこからは上がり難くなるらしいんだが……」

「足の引っ張り合いが起きるのでござるよ。格上を叩いた方がポイントは増えるので、900上がりたてくらいならそう実力差もないということで」

「混戦なのだな。で、混戦を抜け出して1000まで上げるとどうなる?」

「1000まで上げると、状況は一変する――っとと」


 少し高い波が寄せ、みんなその場でたたらを踏む。

 転びそうだったリィズを右手で支え、半端な位置から壁際へ。

 この船でこの揺れだと、下の小舟はひっくり返っているんじゃないか?

 快晴という天気の割に、今日のサーラ沖の波はやや高い。


「1000までポイントを上げると、まず周囲に戦闘目的の船があまり寄って来なくなる。資源島への移動も、600から900までの激戦区にいる船よりはずっと楽になると思うぞ」

「そんなに違うものなのですか?」


 サイネリアちゃんが今一つ分からないという顔で声を上げる。

 確かにたかが100の差には違いないのだが……。


「桁が一つ上がるっていうのは、結構な心理的効果があるものだよ。まあ、逆に買い物なんかをする時は、桁が繰り上がる直前の値には気を付けないとだけど」

「ありがちなのは、9と8と0が繋がったあの値段ですね?」

「そうそう。こういうのは割と馬鹿にできないんだよ。このイベントだと、1000を楽に維持できるならランク入りが見えてくる数字だし」


 だからこそ、掲示板でも1000というのが強者の指標の一つとされていた。

 ランク入りを目指すならば、まずは1000ポイントに到達することが第一条件。


「なるほどな。しかしそれだと、それ以降ポイントを上げられなくないか?」

「ところがそうでもない。代わりに、1000を超えると救援要請を出しながら逃げる船が助けを求めて寄ってくるようになる。何もしなくても、向こうの方からな」

「おおー!」

「ただ、これをやるには救援に応える頻度の高い船だっていう印象を持たれていないと駄目だ。救援回数は他人にも見えるステータスに記録されるから、拾える時には序盤から積極的に救援を拾っていこう」

「既に一隻は助けたしな!」

「ああ。ところで、誰かれ構わず撃破していくスタイルも取れると言えば取れるんだが。それをしない理由については大丈夫だよな?」

「???」


 そのほうが格好いいからでは? という顔でこちらを見てくる。

 正々堂々としていたほうが、そりゃあお前の好みには合うんだろうが。

 俺が言いたいのはそういった理由ではない。


「……大丈夫じゃないな、俺が悪かった。勧告してからの交戦はそうでもないんだが、ルール無用の奇襲連打をしていると敵ばっかり作るからな。こんな大型の船でそれをやったら……分かるだろう?」

「囲まれて報復される!」

「うん。救援した船はそれ以降攻撃できなくなるって仕様もあることだし、終盤で後悔しないようできるだけ味方は増やしていこう」

「うむ!」

「今回、やろうと思えばそれこそ海賊っぽい行為も可能でござるしなぁ。ポイント以外の略奪は不可でござるが」


 奇襲するか堂々と戦うかはプレイヤーの自由である。

 とりあえず交戦可能海域では、不審な動きの船とは距離を取って航行しておくのが吉だろう。


「交戦勧告というのはどうやるんですか? ハインド先輩」

「救援信号と同じように、魔法の信号弾が上がるよ。この場合、相手の了承を待ってから攻撃だね。……特に反対意見とかはないのかな?」

「ないですよー。急に先輩がプリンちゃんを使って皆殺しだ! プリンちゃん最強! とか言い出したらあれですけど。……何か、プリンプリン言ってたら食べたくなってきました。先輩、今から作って持って来たりしません?」

「シエスタのせいで、食べ物のほうのプリンを両手で振り回すハインドの姿が脳裏をよぎった!」

「美味しそうな攻撃です!?」

「どんな攻撃だ……まあいいや。後の細かいことは戦いながらの修正になるから、そろそろ出発しよう」


 まだ慣れていないこともあり、俺たちは少し時間をかけて出港準備を整えた。

『プリンケプス・サーラ』が『フルーメンの港』から、汽笛を鳴らして進んで行く。

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