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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
資源島と海への誘い

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起動の鍵 その3

 女王の杖先から光の玉が飛ぶ。

 それは機関の中に吸い込まれ、中から……また光の玉が出てくる。


「……うん?」

「あれ?」


 失敗か? と一瞬思ったが……。

 女王のキャラクターと、現在取っている表情を考えるとそれはなさそうだ。

 機関を通過した玉は二つに分裂し、俺たちの間に停滞した。


「ふむふむ……お主たちにはどう見える?」

「どうって……光の玉が二つ浮かんでいるようにしか……」

「えっ、どこでござるかハインド殿? 光の玉?」

「は? 何を言って――」


 トビの妙な発言を聞いて、発しかけた言葉を俺は途中で止めた。

 女王のこちらを試すようないつもの表情が目に入る。

 さっき、女王は何と言った?


「……もしかして、人によって見え方が違っていますか?」

「その通り。さすが、正解に辿り着くまでが早いのう。よいよい」


 女王が俺に流し目を送ってくる。

 そして、他のメンバーの目に光の玉がどう見えているかというと……。


「……見え……見え……薄い! 薄明り!」

「同じく、薄っすら薄っすら見えます! 力を入れ過ぎて目が痛いです!」

「えっと……全然見えません……」

「サイ、駄目? 私は猛進コンビよりちょいマシくらい。そこにあるって言われてから見ると、どうにか見える感じ」

「やっぱり拙者には何も見えないでござるよ?」

「光の玉ですよね? 注視すればどうにか……シエスタさんの状態に近いでしょうか?」


 ……。

 こう聞いていると、法則性が分かるような分からないような。

 職に注目すると、見える組は騎士に神官、魔導士。

 見えない組が弓術士、軽戦士。

 これらに共通するものを単純に考えれば……?


「……魔力の多寡か? でも、セレーネさんは――」

「うん、見えているよ。光の玉が二つ、そこに浮かんでいるよね?」

「見えているんですよね。どういうことだ……?」


 女王はニヤニヤとした顔で口を出さずに、ただ悩む俺の様子を見ているだけだ。

 個人的には、素直に白旗を上げてさっさと訊いてしまいたいのだが。

 女王様がお望みの行動ではないんだろうなあ、それだと……。


「姉上、ここまで来てどうして説明を渋るのですか……」

「知れたこと。他人に容易く教えられたものと己で悩んで得た答え、価値が高いのはどちらじゃ?」

「……姉上。本音で話してくださっていませんね? 建前でしょう、それは?」

「ふふふ……」


 あ、駄目だこれは。

 そんなことをしたら今すぐにでも、全てをなかったことにして女王は帰ってしまうだろう。

 こうなったら、みんなに相談――いや、無理か。女王はそこまで気が長くない。

 どうにかして自力で、それも素早く解を導き出さなければ。


「……船の修理に携わった度合い……じゃ、ないな。それなら全員が見えてもいいくらい頑張っていたし……」


 探るような言葉を出してみるも、女王様の表情は変わらず。

 セレーネさんがみんなの頑張りという点に同意するように、何度も頷いている。

 多少の差はあれど、あのシエスタちゃんですら毎晩かかさず修理に参加していた。

 この線はないか。


「……魔力と、この世界で行った物作りの経験を足すと、ちょうど今みたいな見え方になるような?」


 この場合の物作りは鍛冶経験、ということになるが。要は鉄にどれだけ触れたか。

 セレーネさんの飛び抜けた鍛冶経験と、俺の程々な鍛冶経験と魔力値を合計したものが同じくらいとすれば……どうにかこれで辻褄が合う気がした。

 俺のやや苦しい解答に、女王が表情を崩す。


「ふふっ、まあいいじゃろう。苦悶の表情を浮かべるハインドの姿は、十分に堪能させてもらったことだしの」

「えっ!? そんな理由で答えを先延ばしに……?」

「姉上……」

「あー」


 俺は愕然とした表情で固まり、ティオ殿下は頭痛を堪えるように手で額と目元を覆った。

 そして後ろから、分かる分かると言わんばかりの声がのんびりと聞こえてくる。

 あの、シエスタちゃん?


「ふざけるな、このドS女王が!」

「女王といえども許せません! そこに直りなさい!」

「ほほう、妾に勝負を挑むと申すか? 相手になるぞ、小娘ども」


 うん、真っ当に怒りを表明してくれる二人がとても心強い。

 ただしそれは相手が女王でなければ、の話だが。


「へ、陛下! できれば陛下のお言葉で、正解をお聞きしたいのですが!」


 冗談で済んでいる内に話を進めなければ……。

 戦って勝てる相手でもなければ、やったところで得られるのはメリットではなく大量のデメリットだ。

 二人を抑えて女王から距離を取ると、ようやく話が再開された。


「――物霊を目にするにはまず魔力、次の物作りの才・経験、そして見えぬものを見る天賦の才のいずれかが必要となる。ここまではよいか?」

「どれか一つがあればいいんですか?」

「セレーネのように、突き抜けていれば一つでよいぞ。最も、セレーネクラスの者でも妾のような術者が手を加えねば、普通は存在を感知することはできぬが」


 それはそうだろうな……そんなものがあるのなら、俺たちよりも先に誰かが発見していそうだし。

 魔力のある職で、セレーネさん並に鍛冶に打ち込んでいる人も数人ならばいるだろうから。


「女王様はどれなんです? 魔力ですか?」

「妾は魔力に加え、霊全般に対する才がある。二つじゃ」

「わあ、凄いです!」

「ふふ、王宮におっては聞けぬ素直な称賛じゃ。心地良いのぅ」


 女王が相手でも、リコリスちゃんは構わず無邪気に質問を重ねて行く。

 その頭を女王が子犬でも相手にするようにわしゃわしゃと撫でた。

 自然と年上から可愛がられるタイプだよな……これもある意味天賦の才だろう。


「故に、其方たちよりはっきりと物霊を見ることができる。この機関――いや、機関を中心に船全体に影響が及んでおるか。どうやらこの船に憑いておるのは、双子の物霊のようじゃのう」

「あの……こちらから干渉は?」

「妾ならば可能じゃ」


 どうする? と、視線に乗せて問いかけてくる。

 ここまで来て引き下がる、というのは有り得ないだろう。

 俺たちは一も二もなく女王に頼み込んだ。

 すると女王は再び杖を取り出し、それをかざしながら二つの光球に語りかけ始めた。


「ふむふむ……なるほどのう。いくら寂しかろうが、それは仕方のない――ほう、お主の方はこいつらを気に入ったか! そうかそうか……」


 ……何だか、見ようによっては一人芝居をしているみたいだ。

 確かにこれは徹底した人払いが必要だ。

 事情を知らなければ女王がおかしくなったと思われかねない。


「……のう。お主も本心では分かっておろう? 既に高祖父は……うむ、割り切れぬ思いは妾とて痛いほど分かる。妾にしたところで、両親、そして兄とは決して満足の行く別れ方ではなかったからのう。晩年、海の上で死ぬと豪語していた海王が、船に乗れない体になったことも存じておる」

「姉上……」

「されど、お主はここでただ朽ちるのを待つつもりか? お主だけではない、傍には妹もおる。それに、この船が再び動くのを夢見、信じ、額に汗したものたちの姿を見ていたのであろう?」


 だが女王の会話の間、表情、そして何より話している内容を聞けばそこに嘘がないことが分かる。

 ティオ殿下が唇を噛み締めて震えている。


「その姿に少しでも心動かされるものがあったのなら、どうじゃ? 今一度――」


 ――ガコン。

 その時、不思議なことが起こった。

 誰も触れていなかったはずのレバーがひとりでに倒れ、魔力機関が動き出す。

 その輝きが伝播するように、蒸気機関が連動して力強く回り出した。


「うおー! 動いたぁぁぁっ!!」

「「「おおー!!」」」


 外の連中にも伝えてやれ、という女王の言葉を受けて機関室の扉が開かれる。

 言葉にする前に、熟練の職人たちは機関部が発する音でそれを察したらしく……。

 瞬く間に機関部と動力部との接続、そして出航の準備が整えられた。

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