プリンケプス・サーラの補修
「あ、戦力外軍団。もう練習は終わったんですか?」
「誰が戦力外だ!」
いきなり辛辣な言葉を投げてきたのはシエスタちゃん、そしてそれに応えたのはユーミルだ。
シエスタちゃん、サイネリアちゃん、そしてリィズの三人はセレーネさんのサポートに回っている。
既に補修作業は始まっており、セレーネさんだけは船大工たちと同じ作業を進行中だ。
「フフフ、甘いよシーちゃん! 私たちは特訓を経て生まれ変わったんだよ!」
「お?」
リコリスちゃんが笑顔で指を振りながら否定する。
それに勢いを得たのか、ユーミルが全力で乗っかっていく。
「そうだぞ、シエスタ! 私たちは戦力外ではない! 立派な――」
「立派な予備戦力でござるな?」
「そうです! その辺にいても邪魔にならない程度の……あれ?」
リコリスちゃんが自分の言葉に首を傾げる。
今度は手が空いたリィズが同じように首を傾げた。
「役に立つのか立たないのか、よく分かりませんね?」
「このアホ忍者が! 本当のことを言うな!」
「ほ、本当のことなんですか?」
「……ま、まあ……そう、かな……」
サイネリアちゃんの言葉を、俺もいまいち否定できない。
そして、こんな騒がしい中でも微動だにせず作業を続けているセレーネさん。
「……」
「凄いですよね、彼女」
「あ、えっと……」
棟梁さんが俺の視線を察して声をかけてきた。
やっている作業は、船底の補修作業……図らずも、ユーミルに話したようなことが起こりかねない場所だ。
セレーネさんは鉄の状態を見極め、目を細め、触って状態を確かめている。
「もしかして……もう他の大工さんと同じレベルで作業をしているんですか?」
「同じところか、鉄の状態の見極めに関しては我々を超えているかも……」
そして脆くなっている場所を特定すると、部分補修なりパーツごとの交換なりを施していく。
パーツ交換は印だけを付けておき、後日ということになるが。
「まるで鉄と会話しているかのようですね。素晴らしいです」
「ああ……彼女は鍛冶師なので、鋼鉄船であれば大工さんと通じることろがあるんでしょう。それに――」
額に浮かんだ汗、一瞬も止めない手の動き。
受け答えは最低限、なのにいつの間にかセレーネさんが中核であるかのような動きになっている。
「伝わりますよね、物に全力で向き合うあの姿勢……」
「ええ。我々にとっても非常に良い刺激になっています。作業に参加したいと仰られた時は、その……大変失礼ですが……」
「それはそうでしょうね……」
「顔にはしっかりと出ていたがな!」
「こら、ユーミル! 余計なことを言うなって!」
「も、申し訳ございません……」
しかし、本音を棟梁の口から聞けただけ大収穫だ。
それだけセレーネさんを認めたということでもある。
こうなればあちらは何も問題なさそうだが、問題は……。
「あの、棟梁。俺はとても彼女と同じレベルの作業はできませんよ? どうしてGoサインを……」
「大丈夫です、あの鉄甲船は拝見しました。あなたなら、何も問題ありませんよ」
「そうだ、ハインド! 自信を持て!」
「自信がないから言ってるんだろうが……」
棟梁の言葉で少し安心したが、セレーネさん程のクオリティを求められると厳しい。
言葉でどう言おうと、それなりの結果を出さないといい顔をされないだろうし……。
「では言い直そう。ハインド、自分とムラマサとセッちゃんを信じるのだ!」
「あー、そう言われると……」
鉄の扱いについては、先程も触れた通り鍛冶を通じて経験がある。
その経験をくれたのは、ムラマサさんとセレーネさんな訳で。
……ウダウダ言うのはそこまでにして、顔を上げる。
「――よし、じゃあ俺も作業に加わるとしますか。不器用トリオ、ついてこい!」
「「「おー!」」」
俺たちが気合の入った声を上げると、棟梁が笑顔で担当箇所に誘導してくれる。
そちらに向かおうと一歩踏み出したところで、後ろから服が引っ張られた。
「ちょいと先輩、本当に大丈夫ですか? 分配し直したほうが……」
「いや、他の人に迷惑かけないよう俺がこいつらを管理するよ。心配要らない」
「私たちは危険物か何かか!?」
「似たようなもんだろう? ほら、ちゃんと仕事を割り振るから丁寧にな」
「う、うむ……」
工具を取ってもらったり、金具やパーツを支えてもらったりと不器用でもできることは沢山ある。
そこからは口数を減らし気味で、四人で慣れない作業を精一杯行った。
結果、初日としては悪くない進み具合。
他の生産と似たような短縮もあるため、現実のような月単位の作業になることはないはずだ。
明日か、明後日にはある程度の目処が立つと思われる。




