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予選期間開始

 イベント開始の翌日。

 俺とユーミルは砂漠の街に居る、帝国から派遣されたという魔導士の前に居た。

 黒いフード付きのコートを身に纏い、顔は見えない。


「予選会場までお願いします」

「……二人パーティは組んでいるな?」


 声もやけに無機質だ。

 不気味だが、そういう演出だろうし別に攻撃してくる訳でもないしな。


「私とコイツとで組んであるぞ」

「……宜しい、移送を開始する。その場を動かないように」


 確認を終えると、聞き取れないほど速く怪しげな呪文をブツブツと唱え始める。

 するとその魔導士の足元から黒い塊が満ち、俺達を飲み込む。

 周囲の状況が一変する。音が消え、平衡感覚が狂いそうに視界が回り……。

 先程までの砂漠の景色はなく、屋内にある小さな闘技場の上に立っていた。


 ここは帝国のとある闘技場。

 本戦を行う会場とは別で、予選は対戦者たち以外に誰にも見られていない状態で行うとのこと。

 リプレイは録画可能だが、最新10戦までは録画しなくても再生可能とのこと。

 チート等の違反者はそこから通報を――と、そんなことを考えている横で、ふらふらとユーミルがよろけている。


「……ちょっと酔いそうだったぞ」

「ぐにゃっと景色が歪んだからな。次から目を閉じたら良いんじゃないのか?」

「そうする。エレベーターみたいな浮遊感は消えないが、仕方ない……」


 この様にして各街から参加者は帝国まで一瞬で送り込まれ……それが終わると、一戦ごとに元居た街へ送り返されることになる。

 簡単に言えば、対象をワープさせる呪文だそうで。

 この呪文は条約で厳しく取り締まられ、大陸全ての国の同意を得ることで初めて使用が可能になる『禁呪』に指定されているとのこと。


 故に、今回の闘技大会では特別に使用され――という設定になっているそうだ。

 自由に使えたら、好きな国を奇襲し放題になるもんなぁ……。

 ちなみにこの呪文をプレイヤーが使えるようになることはないと、公式で明言されている。

 今回の様な特殊な期間以外は、あくまでも乗り物で移動させたい方針のようだ。


「対戦相手が来たようだぞ、ハインド」

「お?」


 緊張した面持ちの対戦相手が、光の中から出現する。

 職業は重戦士と魔導士……まあ、オーソドックスな前衛後衛の組み合わせだな。

 どちらも男で、見た感じは同世代くらいに思える。

 特に挨拶などを交わす間も無く、視界に大きく「READY……」という文字が出現して全員が武器を構えた。


 決闘はアイテム使用不可、ダメージ関係はモンスターを相手にする時より補正が掛かり、全体的に低くなる。

 しかし、大技を受ければ即死するのは変わらず……。

 決闘が始まって約一分、魔導士の土魔法『ストーンブラスト』を足元に受けてユーミルが綺麗にすっ転ぶ。


「んぎゃ! なんじゃあ!?」

「隙ありぃ!」


 間髪入れずに重戦士による『バーサーカーエッジ』からの『アサルトスラッシュ』をまともに浴びたユーミルのHPは0になった。


「へぶんっ!?」

「やったぞ! 後は神官だけ――」


 昇天。事前に予想した通りの光景。

 相手側の見事な連携攻撃だな。これは避けきれなくても仕方ない。

 直後、ユーミルが土魔法を受ける少し前から詠唱を開始していた『リヴァイブ』が完成・発動。

 油断してこちらを向いた重戦士の背後で、潰れたカエルのようになっていたユーミルがむくりと起き上がる。


「う、後ろ! 後ろぉ!」

「え?」

「フハハハハハ! もらったぁ!」


 戦闘不能になるとMPが0になるゲームもあるが、TBではそのままMPが保持される。

 決闘スタート時点は0だったユーミルのMPも、度重なる被弾によって今はフルに。


 悪役の様な哄笑と共にユーミルが強烈な突きを放ち、『バーストエッジ』を発動。

 激しくスパークするオーラと共に魔力の奔流が重戦士を貫く。

 バーストエッジは物理魔法混合の技だが、物理防御が0になっている重戦士は両方のダメージを余さず受けることに。

 結果、ユーミルは全てのHPを一撃で抉り取った。


 そして、突然の逆転劇に茫然としている魔導士を二人で囲んだ。

 いかん、思惑通りの流れに俺も笑いを抑えきれない。フハハハハ!


「さあ、趨勢すうせいは決したぞ。どうする? 降伏か死か、選ぶがいい!」

「君と同じ後衛としては、前衛無しで戦うのはオススメしないなあ。わざわざ痛い思いをする必要があるのかね? うん?」

「あ、う……こ、降参します……笑い方、こええ……」


 視界内に大きくWINNER! の文字が踊り、空間が歪む。

 何度も連続で戦うプレイヤーの都合を考慮してか、戦闘開始と終了の処理は非常に速い。

 勝ったら直ぐに会場外へ追い出されるようだ。


「リヴァイブって詠唱長くなかったっけ……? おかしいなぁ……どうしてあのタイミングで死ぬって分かったんだ……?」


 そんな対戦相手の魔導士の呟きを最後に、足元の接地感が消失。

 隣で嫌な顔になっているユーミルほどではないが、確かに少し気持ち悪い。

 凝った演出ではあるが、害になりそうなので運営に改善要望を送っておこう。


 そして気が付くと、俺達は再び『王都ワーハ』の帝国魔導士の前に立っていた。

 戦闘が終わり、互いに顔を見合わせて一息。

 緊張からか、短い戦闘だったが疲れはそれなりだ。


「はー、無事に勝てたな。今の相手がどの程度の強さかは分からないが」

「フッ、私とお前のコンビなのだ。勝てて当然だ!」

「おお、相変わらず凄い自信だな。だがな、もし負けても泣くなよ? 連戦すれば必ずどこかでは負けるからな?」

「泣かんわ! 私を子供扱いするなぁ!」


 今のが俺達のPvP初戦だった。

 PvPの評価に関してはレート制で、初期値は1500。

 そしてこのレート上位256組が本戦トーナメントに出場、ということになる。


 通常のレートとは別に大会レートというものが設定され、イベント毎にレートはリセット。

 イベント中、先程の会場で行った予選での決闘は通常の決闘レートには影響しない。

 当然だが、今回の大会レートは個人ではなくコンビで共通の数字となる。


 そして今イベントは期間が長く、来週の土曜夜に本戦が開始される。

 決勝は翌、日曜日に行われるとのこと。

 前日金曜日の23時59分までのレートランキングで出場者が決定する。


「よく分からん!」


 というユーミルの為に要約したら、


「金曜日が終わるまでに何度も予選会場に戦いに行って、勝ちまくればOK」


 という雑な説明になった。

 極論、細かなルールを考えなければそれだけのことである。

 それでレートは上がる。


 他に補足すると、レート以外にもイベントポイントというものが設定されており、これに関しては戦えば戦うほど取得できる商品が増えていく。

 勝った方が得られるイベントポイントは多いが、負けてもそれなりのポイントを入手可能とのこと。

 これにより、終盤でランキングがある程度固まっても、対戦相手が居なくなるということは起こりにくくなるのではないだろうか?

 対人戦が下手な人間でも楽しめるような設定なので、個人的には好印象な仕様となっている。


 イベント概要はこんな感じか。

 俺が思いを巡らせていると、隣でユーミルが体を解すように大きく伸びをした。

 砂漠の女王に負けていないスタイル抜群の体が無防備に晒される。

 はしたねえなぁ……鎧を着ている分だけ、強調される部位が少なくてマシだけど。


「さて、どうするハインド? 続けて戦いに行くか?」

「おう。レート制な以上、予選で大事なのは負けないことじゃなく最終的な勝率だから……終盤で連勝出来れば、追い上げも充分に可能だろう。弱点の洗い出しの為にも、このまま連戦しよう」

「うむ。今の時間ならプレイヤーも多いし、直ぐに対戦相手は捕まるからな」

「一戦あたりの所要時間も大したことなさそうだしな。どんどん行こうぜ」


 早めに数をこなして、来週までに装備やらスキル構成やらを煮詰めておきたい。

 場数を踏むことも大事なので、まずは何も考えずにぶつかることも大事。


「よーし、気合が乗ってきた! 魔導士よ、もう一回頼む!」

「……承知した。移送を開始する」


 この日の俺達は、10連勝の後に負けが増え始め……。

 最終的には20戦14勝と、勝率7割の戦績に落ち着いた。

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