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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
資源島と海への誘い

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海の幸と秋の味覚

 昼食は近くの水族館の中にあるフードコートで取ることにした。

 入場しなくても利用することができ、弁当などの待ち込みも可能なのだが……。


「先輩、私たちの餌は?」

「餌って……お昼のお弁当って意味で言っているなら、ごめん。今日はないよ」


 俺の返答に、愛衣ちゃんはこの世の終わりのような顔をした。

 え、いや……え?


「何でですか先輩!? 私たちのこと、嫌いになったんですか!?」

「どうしてそうなる……どこかのお店で、海沿いの新鮮なお魚を食べようって話じゃなかったっけ?」


 どうもきちんと話が行き渡っていなかったらしい。

 何せ、ここに来ることが決まったのは昨日の出来事。

 発案者は未祐、話が纏まるまでに要した時間は何とおよそ三十分。

 決まった時間が夜七時。

 親御さんたちに非常識ではないと思ってもらえる可能性のある、ギリギリのタイミングだ。

 ……そもそも、これだけの遠出の予定を前日に組むこと自体が非常識ではあるが。


「どっちにしても、仕込みの時間も足りなかったし……希望してくれたら、何か簡単なものなら作って来られたけど。おにぎりとか」

「なんてこったい……先輩のおにぎり……おにぎりが……」


 愛衣ちゃんがエアおにぎりを掴むような仕草と共に悲しみを露にする。

 それに対し、未祐と椿ちゃんが呆れたような目を向けた。


「愛衣にしては妙に素直に承諾したと思ったら、亘の料理目当てだったのか……」

「出不精ですからね、愛衣は……」

「だったらせめて……せめて、先輩の手の平を舐めて、塩味だけでもっ!」

「はい!?」


 空腹によるものか、愛衣ちゃんが幽鬼のような足取りでフラフラと近付いてくる。

 その腕を左右から小春ちゃんと椿ちゃんが掴んで止めた。


「や、止めなさい愛衣! おにぎりなら買えばいいでしょ!?」

「意味が分からないよ、愛衣ちゃん! 何言ってるの!?」

「放して、二人とも! ペロペロさせろぉー!」


 普段から冗談なのか本気なのか分からない子ではあるが、これは極め付きだろう。

 大体、俺はおにぎりを握る前にちゃんと手を洗っているぞ……?

 手の平の塩気が移っているなんて、まずないと思う。

 今だってついさっき、ウェットタオルで拭いたばかりだし。


「……」


 バタバタと騒ぐ三人の傍に、小さな影がそっと立つ。

 顔を上げた愛衣ちゃんの前には、にっこりと笑う理世の姿が。

 それを見た愛衣ちゃんは――


「……さあ、そろそろ行きましょうか! 海の幸が私たちを待っている!」


 あっさりと転進。

 いつもは最後尾からのそのそと付いてくるのに、先頭で率先して扉を開けた。




「……まあ、そんな訳でお昼ご飯は用意していないんだけど。おやつなら用意してきたよ、愛衣ちゃん」

「本当ですか? それならそうと、早く言ってくださいよー」


 刺身定食、天丼に海鮮丼。

 俺たちは思い思いの品を注文して食べた後、そのままフードコートで寛いでいた。

 さすが、海が近いだけあってネタが新鮮で美味しかった。


「早速食べましょう。ヒナ鳥の名が示す通り、私は口を開けて待つのみ……」

「……うん、うら若き乙女が人前で大口を開けるもんじゃないね? 出してあげるから、早く閉じなさい」

「はーい」


 おやつと思っていたが、別にデザートにしてもいいかと荷物の中から箱を取り出す。

 それに気が付いた和紗さんが、横から見て微笑みかける。


「何を作ってきたの? 亘君」

「スイートポテトと大学芋です。ウチの料理部の部長が、使い切れないほど知り合いの農家さんから貰ってきちゃって……」


 校門傍に横付けされた軽トラ、調理実習室の前に置かれたビニールシート。

 そしてその上に山と積まれた芋、芋、芋……あの時は感動と同時に目眩を覚えたものだ。

 どうして先輩の知り合いの農家さんは、誰も彼も加減というものを知らないのだろう。

 提供してくださるのは非常に有り難いのだが、いつも量が過剰だ。

 結果、部の活動だけでは使い切れず「持って帰って食べてね!」と相成った訳で。

 各家庭に大体一袋分ずつ、サツマイモが供給されたという次第だ。

 芋なので、デザートとしてはちょっと重いが……。


「おおー!」

「わあ……」

「美味しそうです!」


 箱を開けるとこの反応なので、問題なさそうだ。

 女子の甘いものに対する別腹、というものは実に摩訶不思議である。


「この大学芋って、どうやったら冷めてもくっつかないようにできるんです? ウチのお母さんが作ってくれたのは、美味しかったけどすぐ固まってベタベタになっちゃって」

「それはタレに水飴を使うか、酢を少し混ぜると砂糖の結晶化を防げるんだよ。こいつは水飴仕様で――はい、小春ちゃん」

「ありがとうございます!」


 勿論出来立てには勝てないが、それでも大学芋は食感が良いと好評だった。

 時間が経っても、外のカリッとした状態を上手く残せたらしい。

 スイートボテトも含めて、あっという間に量が減っていく。

 ……そんな中で一人、秀平だけはスマホを熱心に眺めているようだが。


「……おい、秀平。いいのか? なくなっちまうぞ」

「むお!? 食べる食べる!」


 慌てて大学芋へと手を伸ばす。

 ちゃんと楊枝を使えよ? 手がベタベタになるぞ。


「スマホで何してたんだよ?」

「さっきから妙に胸騒ぎがしてさ……TBの公式サイトに飛んだら、ほら」


 空いた片方の手で、自分のスマホを俺に押し付けてくる。

 それを受け取って画面を見ると……。


「えーっと……開催日決定? 日時は火曜日だから……三日後か!? 近っ!」

「うんまーっ! ……相変わらず詳細は不明だけどねぇ。俺ら、船の用意が間に合わなくない?」

「間に合わないな……これで出遅れるのは確実か。参ったな」

「何だ? 何の話だ、お前たち?」


 頬に芋を詰め込んだ未祐が首を傾げる。

 それを機に、みんながこちらに顔を向け……。

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