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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
資源島と海への誘い

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海事博物館

「ゲームのために現実の博物館に来るとか……こんなの俺たちくらいじゃない?」


 秀平の呟きに、俺は視線を動かさずに口を開く。

 ただし体は順路に沿って横移動、展示物を見ながら歩を進める。


「いいじゃないか、見聞を広めるためと思えば」

「先生みたいなこと言わないでよ、わっちぃ……」

「誰が先生か」


 休日、俺たちはみんな揃って海事博物館という場所に来ていた。

 ここは海洋関係のものを展示しており、目的は勿論……。


「で、どうなんだ?」

「どうって?」

「お前、船で戦闘するようなゲームもやっているんだろう? 実際に船に積まれていた大砲に舵に羅針盤、果ては古びた航海日誌なんかを見て何も思わないのか?」

「あ、うん、滅茶苦茶楽しいよ。ゲームで見たあれだ! みたいなのもあるし、雰囲気あるよね。楽しいんだけど……」


 秀平がそっと視線を送る。

 その先には、食い入るように展示物を見て回る和紗さんの姿が。

 撮影可能となっているものはしっかりと写真に収め、配布されている資料は全てバッグに。

 それ以外にも何か、一区画回る毎にメモを取っている。


「ガチだ……ガチ勢がいる……」

「本当、学者肌だな……」


 集中すると周囲が見えなくなるのか、傍で歩く理世が時折移動する方向を誘導している。

 残りの四人は未祐を中心に、一塊であちこち自由に歩き回っているといった状態。

 ちなみに中学生三人組だが、行き先が博物館ということで……二つ返事で親御さんたちから連れて行くための許可を得ることができた。

 それがゲームのためということは明かしていないが、何も嘘は言っていないので大丈夫なはずだ。多分。

 ……海事博物館の館内は特別な催し物もなく、シーズンオフの秋ということもあり閑散――もとい、いていてとても歩きやすい。


「……まあ、深く掘り下げるのは和紗さんに任せるとして。俺たちは緩々と興味のあるもんを見ておこうぜ」

「そんなんでいいの?」

「いいんだよ。深く入り込み過ぎると、かえって見えなくなるものもあるんだから。そこらを補うのが俺らの役目」

「素人意見とか浅い見方が役に立つこともあるもんねぇ。分かった、そうする」


 和紗さん以外は程々に基礎知識を仕入れることができれば十分だ。

 船ってこういうものだ、みたいなふわっとした理解があれば。

 ガラスに映った自分たちの姿をぼんやりと見ながら話していた俺たちは、そこでようやく中の展示物へと視線を戻す。

 海軍士官の制服か……和紗さん、こういうのは見事にスルーだな。

 船の部品ばかりを見ている。


「あ、軍刀だ。わっち、こういうのって儀礼用?」

「だと思う。この年代の船で、陸戦とか接近戦はないだろ? そうなる前に、大砲の撃ち合いでどっちかが沈んだだろうし……」

「古い時代でも、相手の船に乗り込んで――みたいなのは最終手段じゃないかな? 船をぶつける覚悟がないとできないことだから」

「――うお、和紗さん!? びっくりしたぁ!」

「でかい声を出すなよ秀平。それにしても、いつの間に……」


 武器の話になった途端、どこからともなく和紗さんが現れた。

 少し離れた位置に立つ理世が、自分の隣とこちらとの間で視線を往復させて唖然とした表情をしている。

 ……ワープでもしたんですか? 和紗さん……。


「ま、まあ、何だ……もっと時代が進むと、船から飛んだ航空戦力が天下を取るしな。飾りだよ、飾り」

「空母が出る時代になると、また別次元だよねぇ。俺らが参考にするとしたら……」

「やはり、大砲を撃ち合う時代のものまでですかね。カズちゃん、余りフラフラしないでください……」


 理世の表情にやや疲れが見える。

 ここからは四人で回った方が良いか……ちょっと負担を減らしてやらないと、理世の体力がもたない。


「あ、ご、ごめんね理世ちゃん。艦載機の代わりになるような……空を飛ぶような魔法は今のところないから、そうなるだろうね。海戦があるって明言されている訳じゃないけど……」

「TBのイベント傾向から言って、強いに越したことはないですもんね」

「それと速さも! って……イベント内容が分からないから、みんなそんな感じだよね? なるべく良い船を用意しておくしかないっていうか」

「趣味なのか博打なのか、最初から性能を尖らせている人らもいるけどな……」


 それ以前に俺たちは、船のサイズやら何やらも全く決まっていない段階だ。

『プリンケプス・サーラ』のクエストが片付くまでは、どうにも身動きが取れない。

 諸々、全て上手く行けば他のプレイヤーとは一線を画す船を造り上げることができそうな、期待感のようなものはあるのだが。

 やがて合流した未祐たちと一緒に、エンジンの展示場所へと差しかかる。


「……全然TBの船のエンジンとは違うな?」

「メカメカしいです!」

「機械に対してメカメカしいっていう表現、変じゃない……?」

「メカそのものだもんねぇ」


 未祐と中学生組が、新旧いくつかのエンジンを見てからそんな言葉をこぼす。

 ここには古いものから準最新のものまで、年代別に船舶用のエンジンが並べて展示してある。


「だから言っただろう? ありゃ言ってしまえば、不思議機関だ。俺たちが触れるもんじゃないから……」

「それ以外の部分を弄って、機嫌を取ればいいのだな!」

「そういうこと。それで駄目なら後は和紗さんの言った通り、オカルトチックな面から攻めるしかないな」


 TBの船のエンジンが特異であることを改めて再確認。

 後は、シャフトだとかプロペラだとかの動力関係の部品を眺め……。


「終点? ……だな! 終了!」

「あ、待って! まだ気になる部品が……」

「カズちゃん、キリがない! 私はお腹が空いた!」

「うぅ……」


 後ろ髪を引かれる、とはまさにこのことだろう。

 そんな和紗さんの表情に、未祐が言葉を詰まらせる。


「うっ……あ、あと一ヶ所だけだぞ?」

「あっ……! ありがとう、未祐さん!」


 放ってはおけないし、放っておくといつまでもその場から離れないので、ぞろぞろとみんなで移動する。

 もう、何と言うか……和紗さんの熱意には勝てないな、誰も。


「じゃあ、これが終わったら昼飯にするか? 未祐」

「賛成!」

「みんなは?」


 問いつつみんなの顔を見ると、特に異論はなさそうだった。

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