複合機関の全容
「おぉーーーいっ!!」
「……?」
遠くからしゃがれた声が聞こえてくる。
随分と焦りを帯びているようだが……。
「あ、いたいた!」
機関室の入り口から作業を見守っていた俺たちは、一斉に振り返る。
って、何だ。
管理官のじいさんじゃないか……。
「どうしたんですか?」
「あんたら、一体どんな立場の来訪者なんだ!? 上の人間に報告したら、泡食って更に上に報告が――」
「どんなって……」
サーラ王国にとって自分たちがどういう存在か振り返る。
ええと……。
「グラド主催の闘技大会優勝!? ってことは……最強の来訪者じゃねえか!」
「その言い回しは語弊がありますね……初期、それも一発勝負のトーナメントな上、二対二形式でしたし……」
「そうだぞ。私たちコンビが最強なのだ!」
コンビ、の部分を強調しながらユーミルが俺の腕を取る。
それにリィズがすかさず眉を跳ね上げ、腕を解く。
「何を言っているのですか? 私がハインドさんと出ていたとしても、優勝していたに決まっています」
「――!? 無茶を言うな、私でもすぐに無理だと分かるぞ!?」
「魔導士と神官でどうやって勝つのでござるか……?」
ダブル後衛か……今の俺なら多少は前で粘れるが、当時の状態だと全然だな。
しかし、そんな理屈など小賢しいとばかりにリィズは一蹴。
「どうやって? そんなもの、愛の力でどうとでもなります」
「い、言い切ったね、リィズちゃん……」
「普段は理屈っぽいのに、ハインド殿が絡むとこれでござるよ……」
「兄妹愛ですか? ……あれ、先輩方から返事が……」
リコリスちゃんには悪いが、どうとも返事をしようがない。
困った彼女は隣のサイネリアちゃんへと視線を向ける。
「サイちゃん?」
「……うん。リコはそう思っていていいんじゃないかな」
「サイ、説明放棄したね?」
俺は管理官のじいさんと顔を見合わせた。
……あれ?
俺、当事者のはずなのに管理官と同じ――会話から置いていかれている表情をしているような気が。
と、とにかく、他にサーラに対する貢献というと……。
「あ、あと国別対抗模擬戦の国家代表にも選ばれています」
「例の三ギルドの内の一つとやらか……どうにも、海にいると中央の情勢には疎くなってなぁ。中央の民なら、名前を聞くだけでピンと来るんだろうが。すまんな」
「いえいえ」
正確には俺たち、二ギルドの同盟なんだが……まあ、あえて言う必要もないか。
そもそもヒナ鳥三人が、纏められていることを別にどうとも思っていないようだし。
「他には……戦士団の軍事教練、装備提供、大臣のアルボルさんにアイテムを贈ったり……」
「――分かった分かった、もういい。とにかく、お前さんたちがサーラにとって大事な存在だってことはよく分かった。道理で簡単に許可が下りる訳だぜ……」
「あ、じゃあ……」
「ああ。もう何をやっても許されそうな空気すらあったから、好きにするといいぜ」
「さすがにそこまでではないんじゃ……」
調子に乗ってやり過ぎると、王都に戻ってからお叱り受けそうだ。
しかしながら、許可が下りたというのは朗報である。
「じゃあ、管理官が来たことだし……」
「機関の裏の裏まで拝見、だな!」
「それはただの表です」
「むっ?」
いよいよ、機関部の取り出し作業へ。
現実ならクレーンで吊ったりできるのだろうが、このTB世界ではそうもいかない。
だったら巨大な機関部をどうやって外し、運び出すのかというと……。
「分割式かぁ……これでどうやって強度を保っているんだろう」
「うーん、普通に考えたらもたないだろうけど……徹底的にプレイヤーが弄れないように設定してある気がするね、理屈に合わない不思議な箇所があるよ。理由は――」
「プレイヤーが機関を一から作れないように、でしょうね。特に蒸気機関は遺跡からの出土だったり、国ごとに使える数に制限があるようですし……」
「蒸気魔力船に希少性を持たせたい感じでござるか。何でも、国への貢献度が低いと購入不可だったりするそうでござるから。解体時に返却ということで、購入というか使用権でござるし」
そんな運営の都合が見え隠れする機関だが、外に全てのパーツが揃うと……。
不思議なことに、内包している力というかそういったものを感じさせる精緻さだ。
「デザインの妙だなぁ……科学と魔力が融合している感が凄い……」
「現実の船舶のエンジンって、何でござったっけ?」
「大概ディーゼルエンジンのはずだけど。現実のエンジンとは似ても似つかないだろ、これは……」
「蒸気船の時代のやつとも?」
「違う違う」
メカメカしい配管が続いたかと思うと、その先にあるのは宝石などが付いた魔力機関。
それらが複雑に組み合わさり、しかも稼働中は――。
「稼働中は伝達系が光を放つんだぜ。こいつは特に、最大稼働時はそりゃもう……眩く、神々しいくらいのもんだったそうだ」
「「「へえー」」」
プリンケプス・サーラの下に来る前に、他の船の機関がアイドリングしているところは見せてもらったが。
光が薄くこぼれる程度で、眩しいという状態には程遠かった。
それでも、魔力機関の不思議な輝きにみんなで目を輝かせていたものだ。
「レンタル船の時は、機関部を見る余裕はなかったしなぁ……」
「こいつがフル稼働している姿、是非見てみたいな!」
ユーミルの言葉に、その場のみんなが――特にセレーネさんが猛烈な勢いで頷いている。
せ、セレーネさん? そんなに? そんなにですか?
「俺も見てみてえ。ってな訳で、お前さんたちには期待してるぜ。この世界の人間にはない発想で、こいつも船も動かしてやってくれ」
「ご、ご期待に沿えるよう頑張ります……」
いざ「この世界にはない発想」と言われると難しいな。
といっても、今回はやる気満々のセレーネさんをサポートしているだけで大丈夫という気もする。
爛々とした目で機関部と船を観察するセレーネさんの姿を見ていると、そう思えるのだ。




