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相談と始動

 船と陸地の間に設置されたタラップを降りる。

 全員が降り切ったところで、改めて振り返った。

 老朽化した王族用の船かぁ……。


「やっぱりクエストなんだろうか? これ」

「それも、重めで時間がかかるやつでござるな。機関を積み替える船体を用意しろだなんて……」


 トビの言葉に俺は頷いた。

 大体、その船体を用意したところで適合するとは限らない。

 一度で済めば良いが、何度か試す必要があるとするなら……。

 かなり難易度の高いクエスト、ということになるだろう。


「その分だけ、報酬には期待できるかもしれないけど。でも、今やることじゃ――」

「そうか? これって、今回のイベントに合わせて設定されたクエストではないのか?」


 俺が出そうとした半端な結論に、ユーミルがぴしゃりと口を挟む。

 確かに、可能性としては捨てきれないのだが。


「お前はこう言いたいんだろう? もしかしたら、その新しく用意した船ごともらえる機関取得クエストなんじゃないかっていう」

「うむ。管理官はああ言ったが、交渉次第ではないのか? あの機関が無理でも、あれだ……新たな、あの機関に合う船体を上納? する代わりに、国が持っているプリンちゃんの以外の、そこそこの機関を貰い受けたり――」


『プリンケプス・サーラ』の機関を手に入らない最高の物として、次点の物を貰えるかもしれないってことか。

 滔々(とうとう)と語るユーミルの姿を、みんなはポカンとした表情で見ている。

 真っ先に復帰して切り返したのは、やはりというかリィズで……。


「どうしたのですか、ユーミルさん? そんなにまともな意見を言うなんて。熱でもあるのですか?」


 実際に熱を測ろうと伸ばされたリィズの手を振り払い、ユーミルが吠える。


「人を頭の使えない馬鹿みたいに言うな! やればできる子なんだぞ、私は!」

「それ、駄目な子に向けて使われる常套句ですよね?」

「貴様!?」

「まあまあ、リィズ。ユーミルは頻繁に思考を放棄しちまうだけで、地頭が悪くないのは知っているだろう?」

「……そうでしたね。そういうところが腹立たしい訳ですが」


 要は本人に深く考える気があるかどうかの話で。

 総じて考えが深く及んでいないから、結局間が抜けていると言えなくもないのだが。

 それはそれとして……。


「さて、どうしようか? みんな。ユーミルの推測が当たっているなら、挑戦してみるのもありだろうけど」

「イベント用ではなく、港町用のクエストだった場合は大幅な時間のロスになるでござるな。つまり、機関も船の関連品も、報酬としては何も得られないというパターンでござるが」

「報酬が王家の関連品だったり、という可能性は捨てきれませんね」

「船体造りのノウハウは積み上げられるけどね……イベントに間に合わなくなっちゃうかも」


 と、先に否定的な意見をどんどん吐き出していく。

 ユーミルは分かりやすく唇を尖らせ、不満そうにしているが。

 それが終われば、今度は肯定意見を出す番だ。


「欲望丸出しで言っちゃいますと、絶品? のこの船のエンジン――機関を丸ごと貰えちゃうかもってことですよね? みんなと差を付けるチャンスですよ!」

「変わった展開で、やっと目が冴えて来ました……先輩方が好きそうな理屈で言わせていただきますと、ゲームなんだから面白そうなほうに突っ込んでみてもいいのでは? 適当にー」

「ええと……誰も不満に思わず全員意見が一致することが条件ですが。失敗して多少イベントに遅れたとしても、やってみたほうが後悔しないような気はします。私個人の意見ですが」

「おお、いいぞいいぞ! もっと言ってやれ!」


 否定派と肯定派が俺たちとヒナ鳥とで分かれたせいか、ユーミルが完全にそっち側に回っているな。

 そりゃあ、聞いていて気持ちいいのは希望に満ちたそちらの意見だろう。

 リスク管理は大事だが……。


「……シエスタちゃんの理論になるんだよな、最終的には。確かに好きだよ」

「私がですか? いやー、嬉しいですねぇ。付き合っちゃいますか?」

「――は?」


 リィズが血走った目で睨みつけながらシエスタちゃんに迫る。

 分かっていてすぐにそういうことを言う……。


「折角ゲームをやっているんだから、時には単純に面白そうなほうに行きたくなるのは人情だ。な? トビ」

「そうでござるなぁ。もし駄目でも、こんなに面白そうで特殊なクエストを人に取られるのは勿体ない」

「うん。リターンも……不確定なだけで、絶対に見込めないって訳じゃないだろうしね。私も賛成だよ」


 船造りを主導することになるセレーネさんが賛成に回ったことで、流れは決まったようなものだ。

 ユーミルが満足そうにうむ、と大きく頷く。


「最悪、二隻の船を造ればいい話だしな! わっはっはっは!」

「簡単に言うなよ……」


 高らかに笑うユーミルに対して、セレーネさんが苦笑している。

 そんな中、俺は屋根付きの停泊所の出口を指してみんなを誘導した。

 さて、方針が決まったからには色々とやるべきことがある。

 ――本格的な船造りの開始だ。

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