各国の港事情
「――つまり、内陸にあるグラドのプレイヤーが向かった方角の割合を見れば……」
「港に辿り着くための難易度、そして人気度が分かるってことだ。あくまでグラドスタートだから、大陸中央を進むルートでの話になるが」
体を寄せてくる理世の横で、俺は自室のPC卓でキーボードを叩く。
TB内でサーラ国内の港に到着してから今日で三日。
俺と理世は今、例の攻略情報の微修正を行っている。
やはりというか、情報を上げてそれっきりという訳にもいかず……攻略サイトのコメント欄に書かれた質問や意見などを参考に、修正中だ。
「今回ばかりは、グラドのプレイヤーが割を食う形だな。どこに向かうにも一番遠い」
「偶にはいいのではありませんか?」
「まあな。で、グラド発のプレイヤーが向かった先の割合だが……」
おおよその印象なので、正確かどうかは怪しいが。
ベリ連邦が二割、ルスト王国が一割、そして我らがサーラがなんと二割だ。
「ベリ連邦と同じ、と聞くと立派なように聞こえますが……」
「うん、余った残りの数字がな……」
「やはりイメージというか、クラーケンイベントの影響でそうなりましたか」
理世の言葉の通り、残った他のプレイヤーが向かった先は明瞭だ。
――最も進行が楽で、過去のイベントで到達済みの「マール方面」への移動が五割。
ただし、非常に港が混み合っていて不都合が起きているとのこと。
「不都合……と言いますと?」
理世、お前とのこの距離感……と思わず答えそうになったが、それは置いておいて。
コップに注いでおいた水を飲んでから、椅子に座り直して言葉を返す。
「NPC――現地人が造船できる数が決まっていて、パイの奪い合いが起きているんだそうだ。造船所の数も職人も、ゲーム的な処理で無限にいたりする訳ではないらしい」
「それはまた……」
先着順だったり気に入られることが条件だったりと様々だそうだが、競争であることに変わりはない。
……俺の太ももに手を乗せないでほしいんだが? 理世?
「そうなるとレンタル船でイベントに臨むか、出来合いのものを買うか、他の港に回るかになるんだが……まだイベント開始まで、僅かだが間がある。なもんで、どれが主流かって言うと――」
「オリジナルを作りたいという考えが主流ということですね」
「ああ。みんなどうせなら、自分の船を持っておきたい――ってな。今後、また何かのイベントで必要になるかも分からんし」
「では、そうなりますとマールからの移動先は……」
そう言う理世の手は俺の肩まで移動している。
……ではなく、マールからあぶれてしまった人たちの移動先は大体二択だ。
地理的にマールと国境が接している西のサーラに向かうか、東のルストへと向かうか。
「最南端まで来た後に、最北の港を目指すのはちと辛いからな。気持ちは分かる」
こちらはこちらで、大陸を海沿いに結構な距離を進まなければならないが。
あっちのルートの高レベルフィールドの攻略も、活発に意見が交わされているが……大変そうだよなぁ。
これにより、最終的にグラドのプレイヤーが向かった先の分布はベリ以外の三国でほぼ均等となった。
「マールからベリですと、大陸縦断になってしまいますものね」
「お前は手で俺の体を縦断しそうな勢いだな? スキンシップが過ぎるぞ?」
「そうしますと、ベリ連邦の港は……」
「無視かい。過疎――では全然ないんだけど、グラドのプレイヤーから見ると穴場になっているな。鉄が豊富にあるから、鉄鋼船の値段が安いんだそうだ。まだグラドに残っているような後発組には、おすすめだな」
造船にも国の特徴が出ており、海洋国家であるマールは全てにおいて高レベル。
故に、ここにグラドのプレイヤーが群がったのはある意味正解だったとも言える。
そしてその友好国であるサーラも、造船技術はマールに次いで高い。
ルストに関しては、鉄鋼船は今一つだが木造船の造船が得意なんだそうだ。
しかも安く、工期が非常に短い……ライトにイベントを楽しみたいプレイヤーは、ルストに行くのも手の一つだ。
「木造船というのは、速度は出るものなのですか? 強度面での不安は?」
「どうなんだろうな。TBの船は、魔法動力が一般的みたいだし。その辺との親和性があって、かつ現実では考えられないような強度の木材があれば……」
「なるほど。たらればの話を始めると、きりがありませんね」
「ゲームだから、設定次第でどうとでもなり得るからな。ただ、船の販売価格などから考えると、一般的な素材を用いるなら無難に鉄鋼船のほうが強いんじゃないか? っていう予測は立つな」
プレイヤーたちが船に用いる素材、そして依頼する職人次第である。
その現地人の職人たちが、またそれぞれ特徴があって……。
全く同じ仕上がりになる船って、もしかしてないんじゃないか?
「とまあ、最終的には上手く人がばらけたと思う。自国の船の傾向・性能が好みじゃなくて、他国に行くってプレイヤーもいないことはないそうだが」
「そうですか。ところで、肝心のサーラ国内のプレイヤーですが……」
理世の問いかけに対し、俺は頷きを一つ。
それについては、今話ながら編集作業を行っていた攻略サイトのコメント欄。
更には掲示板などで素の反応を見てもらった方が分かりやすいだろう。




