初・中級者への道標 その4
うーん……。
「おわっ、またか!? 何で私ばかり! このっ、このっ!」
「無駄に動き回るからじゃないですか?」
うぅーん……。
「見極めが難しいね……動いていればだけど、止まっているとほとんど分からないよ」
「ボヤッとしたものが動く感じですよね……現実のカメレオンというよりは――」
「SFものとかに出てくる、光学迷彩みたいな?」
「うん、それに近いんじゃないかな? 光の屈折とかを利用している、みたいに見えるよ」
「サイ、割とそういうの好きだよね」
うぅぅーん……。
「トビ先輩!? 何か背中に張り付いてますよ!」
「何故に拙者に対してだけ心霊現象風!? しかも見た目より何か重い! 子泣き爺でござるか!?」
「今、助け――わわっ、毒ブレスです! 紫の息が! 息が!」
「んぎゃあああああ!!」
「トビせんぱぁぁぁぁいっ!」
………………うん、決めた。
「みんな、サボテンは一通り採取できたな?」
「む? うむ、全種類かどうかは分からんが、それなりに集まったはずだ!」
「ハインド殿、それよりも解毒! 拙者の解毒をぉぉぉ!」
「もうやってるよ」
『支援者の杖』が光を放ち、トビの体から毒を取り払う。
この『ルス・カメレオン』の攻撃パターンは噛みつき、体当たり、舌攻撃、そして毒吐きの四つ。
毒以外の三つは脅威にならず、こいつらはどちらかというと嫌がらせ系のモンスターということになる。
となれば……。
「一々相手をせずに、無視して進むのが一番じゃないかと思う。幸い、TBのラクダは何故か毒に強い。防御も高い。自分たちの解毒と回復だけしながら進んだらどうだろう?」
サボテンの間を通らずに迂回する道は、残念ながら存在しない。
小さな盆地のように窪んだ地形をしたフィールドなのだ。
ここを抜けるためには結局、サボテンの傍で擬態しているカメレオンの攻撃は必ず受けることになる。
「……我慢の行軍か。好みではないのだが……他に手はないのか?」
「魔法とか範囲攻撃で、豪快に焼き払いながら進むって手もあるけど――」
「おお、いいではないか!」
見えないなら炙り出してしまおうという作戦だ。
だが、これを実行するには気がかりがあり……。
「……トビ。分身出してくれないか?」
「? 構わないでござるが……」
トビがHPを消費して分身を出現させる。
俺は即座にトビのHPを回復し、分身を操作可能なギリギリの位置まで走らせてもらう。
途中、カメレオンの攻撃を受けそうになったが……。
「無事到達でござるよ!」
「そしたら、分身に近場の……あの丸っこいサボテンを斬り付けてさせてくれ。採取みたいに表面を削るんじゃなくて、モンスターを相手にするみたいにぶっすりと」
「ええと……こうでござるか!?」
トビの分身が豪快にサボテンを刀で薙ぎ払った直後。
――ボン!
というくぐもった音が響き、分身が粉々に砕け散る。
「えええええええ!?」
「拙者の分身があああっ!!」
何が起きたのかというと、答えは簡単。
斬りつけた衝撃によってサボテンが爆散し、大量の針を周囲に撒き散らしたためだ。
更に度の針が近くに会った同種のサボテンにヒット。
爆発音、そしてまた針が飛び……連鎖、連鎖、連鎖。
爆発の連鎖が発生する。
「ちょ、不味くないでござるか!? こっちまで来ない!?」
「だ、大丈夫だ。これだけ離れているんだし……」
とはいえ、予想以上に被害が拡大。
一個のサボテンが弾けたことで、その周辺は針だらけ。
ボンボンと続いていた音がやがて止むまで、メンバーが啞然とした顔でそれを見ていた。
「……ま、まあ何だ。採取できないやつの中に、爆弾サボテンとかいう物騒な名前が付いているサボテンがあったんでな。もしやと思ったが……結果は見ての通りだよ」
「お、おお……拙者の分身で試したのは?」
「ダメージを計るためだ。悪かったとは思っているけど、分身なら痛覚はないだろう?」
「そう言われると、分身はダメージ計測にうってつけでござるな……」
自分の姿をしたものが弾け飛ぶ姿は、見ていて気分の良いものではないだろうけれども。
しかし、トビの分身の犠牲によって先程の案が使えないことは分かった。
あれだと防御を固めた重戦士でも、かなりのダメージを受けてしまうことと思われる。
「飛んで来る針の数にもよるけど、至近距離で受けるとやばそうだ。連鎖もするみたいだし……ってことで、スキルを撃ちながら進む案は無理だな」
「そうか……絵面的には楽しそうなのだが」
「それで戦闘不能になったら、ちっとも楽しくないんだよ。遠間のを撃ったとしても、近付くころにはあの通り」
俺はトビの分身が爆散した辺りを指差す。
既に先に触った辺りのものは再生しているのだが、後の方に連鎖爆発したサボテンのいくつかは今まさに……。
逆再生でもするかのように、あっという間に復活するところだった。
「むおっ、復活早っ!」
「このフィールド自体が、範囲攻撃厳禁という訳ですね……」
「だからカメレオンの攻撃も、衝撃の低いものが多い訳でござるな。レベルの割に弱いのは、環境に適応した結果でござるか」
「……そうなると、なるべくあの爆弾サボテンを避けながら進むルートが正解かな?」
「そうですね。あそこみたいに、固まって群生している一画は絶対に近付かないように避けてですね……」
こうして試行錯誤しつつ、最適な進み方を探りながらフィールドを攻略していく。
この日、時間はかかったもののどうにか俺たちは中間の町まで到達することができた。




