初・中級者への道標 その2
「わぷっ!? あいつ砂吐いたぞ、砂!」
「ありがちな攻撃でござるが、いざ受けるとどういう身体構造なのやら……」
「砂を溜め込む器官が、体のどっかにあるんじゃないのか? 気にしても仕方ない部分ではあるような」
「それを言ったら、ブレス攻撃全般が物凄い肺活量を必要とするものね……」
ルート検証を終えた後に待っているのは、当然ながらフィールドボスである。
俺たちの前に現れたのは、空を飛ぶ鷲頭にライオンの下半身を持つ大型の怪鳥……『サンドグリフォン』だ。
砂を大量に含んだブレスでこちらの視界を奪おうとしている。
「とりあえず、これだけでかいんだし……リィズ、グラビトンウェーブを試してくれるか?」
「はい」
「妹さん、ゴーゴー」
「リィズ先輩、ゴーゴー!」
「………………応援どうも」
色々と考えた結果、我が妹はシエスタちゃんとリコリスちゃんの言葉を受け流すことに決めたようだ。
ちなみにPTメンバーは渡り鳥の五人で、ヒナ鳥三人は少し離れた位置で待機中。
リィズが魔導書を手に、詠唱を始める。
多くの大型モンスターがそうであるように、重量があるほど重力波の効き目は大きくなる。
これが効けば、遠距離を主体とした攻撃で安全にボスを倒すことが可能だが……。
「……普通に飛んでいますね。影響は微小かと」
グリフォンは速度を少し落としたものの、旋回して重力場を抜けて行く。
体の大きさの割に、飛行可能ということもあって軽いらしい。
もしかしたら体の維持に反重力的なものでも作用しているのかもしれないが。
「うーん、今一つか。トビ、そのまま回避行けそうか?」
「承知! 攻撃頻度はそこそこでござるし、任せてくれて何も問題なし!」
続いて弱点を探っていく。
ダメージの振れ幅が少なく、WTも短い『シャイニング』をあちこちに当てていく。
そして弱点属性、矢と斬撃、打撃……。
『サンドグリフォン』はレベル62の敵だが、気を付けて戦えば脅威というほどではない。
イベントで戦った『アイスドラゴン』と比較すると、かなり楽な相手だ。
ちょっと全体的なダメージが低いというか、防御が高い気がするが。
「あっ、落ちたぞ!」
「えっ?」
足りない魔法を補うために巻物を用いた攻撃を行っていると、ユーミルの叫びが聞こえた。
顔を上げると羽が粒子に変わり、グリフォンが地に落下してもがいている。
その姿を見た俺に嫌な予感が走った。
「もしかして……落ちたら有効な攻撃が変わったり……?」
「するかもね……落ちた時はダメージアップ、なんていうのは鉄板だよ?」
「……」
「ハインド先輩がシーちゃんと同じ表情に!?」
「おー、仲間ですね先輩」
「えっと……この場合、誰でもそうなると思うよ……?」
別PTということで、もう一体飛来したグリフォンから緩々と逃げ回りつつ三人がそんなことを言う。
あちらは検証漏れがあった時のために、戦うのを待ってもらっているのだが……。
この分だと、出番があるかも――
「チャンスだ! くらええええええ!!」
「何してんだお前えええええええ!?」
間髪入れずにユーミルが『バーストエッジ』を落ちたグリフォンに叩き込む。
セレーネさんの発言通りに、飛行時とは段違いのダメージが発生し……。
グリフォンはそのまま光の粒子になって砂漠に消えて行った。
……。
最初の一戦目はボスの強さが分からなかったため、確かに気を抜くなとは言った。
交戦回数が減ることは分かりつつ、万全を期して五人PTで戦うことにもした。
したのだが……。
「何やってんだよ、お前……」
「すまない、つい……」
検証前に倒していいとは誰も言っていない。
砂漠の上に正座して反省するユーミルの頭の上に、ノクスが止まる。
その重さにユーミルは小さく呻きつつ、頭を更に下げた。
「ま、まあ、まだ三回戦えますから! ユーミル先輩!」
「そ、そうですね。三回の間に必要なデータを揃えましょう!」
「お前たち……!」
「あ、ユーミルは一旦PT外な」
「!?」
フィールドボスは一度も攻略していないプレイヤーの前の現れる。
PT内に一人でも未攻略者がいれば再度出現するので、ヒナ鳥の中の一人をPTに入れれば再戦可能だ。
まずはユーミルと入れ替えで、サイネリアちゃんをPTに。
「サイネリアちゃんはセレーネさんと協力して、羽を優先して狙ってみてくれ。グリフォンは全体的に魔法抵抗が高いみたいだから、矢が有効なはず」
「分かりました」
「リィズ」
「はい」
「さっきの落下時の羽へのダメージの蓄積量、それと攻撃が当たった回数は記憶しているか?」
「問題ありません」
さすがの記憶力だ。
そのどちらかが落下の条件だと思うのだが……。
当てた回数でいいのなら、俺たちよりもレベルが低いPTでも攻略が容易になる可能性がある。
「後は落下時か……トビ、ないとは思うんだけど。まずはあちこち攻撃して、弱点部位が変わっていないかの確認を」
「落ちた後にもがくので、結構大変そうでござるが……やってみるでござるよ」
「……」
唇を尖らせ、分かりやすく「私は不満だ!」という態度を表明するユーミル。
仕方のないやつだなぁ……。
「拗ねるなよ、ユーミル。お前じゃ攻撃力が高過ぎて、検証に向かないんだ。落ちた後は特に」
「む……ということは?」
「邪魔だから外したんじゃなくて、お前が強いから外したんだ。それにバーストエッジの初段と二段目のダメージを確認できたから、落下後は魔法も通し易いことは分かったし」
「おおっ! そうかそうか、私が強いからいけないのだな!」
「そうだな。でも、あそこでバーストエッジを撃ったことはもっと反省しろ」
「う、うむ……次からは気を付ける……」
調子に乗り過ぎないよう、釘を刺しておくことも忘れない。
あまり持ち上げると、それはそれで暴走する可能性が増すからな。
「出た、先輩の操縦術……ユーミル先輩には効果抜群だぁ」
「シー、ちょっと黙ろうね? 丸く収まればそれでいいじゃない」
「え? 今のハインド先輩の言葉、何かおかしかったの? ……シーちゃん? サイちゃん?」
……と、とにかく、ユーミルの機嫌も直ったところで。
検証の続きに行ってみるとしようか。




