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初・中級者への道標 その1

 ユーミルが談話室でみんなの顔を見回す。

 それから腕を組んで大きく一つ頷いた。


「ようやく集まったようだな!」

「ようやく、っていうか……来た順番、お前が最後だからな?」


 さも待たされていたような言い方はやめてほしい。

 ユーミルを待っている間に、細々(こまごま)とした話は大体済んでしまった。


「うむ、すまない! 話を進めてくれ!」


 ということで、全員揃ったので本筋……港までへのフィールド攻略について話を進めていく。


「俺たちって、一応TBでは上級者を名乗っていい立場だと思うんだ」

「一応というか……拙者たちが上級者じゃなかったら、基準が高過ぎるにも程があるでござるよ?」

「まあ、そうなんだが……ユーミルには事前に話してな。今回はただフィールドを攻略して進んで行くんじゃなくて――」

「我々の手でサーラに来た初・中級者がイベントに参加しやすくなるようにしよう、という話だな!」

「ほうほう。具体的にはどうするのでござる?」


 トビの相槌にノクスが反応、小さく鳴いて首を斜めにする。

 いやいや、ノクス? トビはノクスの真似をした訳じゃないと思うぞ?

 何人かがノクスの動きを見て噴き出している。

 ……場の空気が変に和んでしまったが、話を続けよう。


「要は、楽に進めるルートとか攻略法を纏めて公開しようと思って。攻略サイトに、TBの国・地域ごとの情報を載せているところがあったじゃないか?」

「ああ、あるでござるな。閲覧数が二番手くらいのところでござったかな?」

「そこのページで俺が――」


 リィズがこちらを見て何か言いたそうにしているのが目に入った。

 手伝ってくれるのか? と視線で問いかけると、頷いてくれる。


「リィズと編集して情報を上げるから、トビは掲示板に適当に書き込んでくれるか?」

「ページを更新したから見てね、みたいな感じで良いでござるか? サーラの雑談スレ辺りに」

「それでOKだ。質問がありそうだったら、適当に答えてやってくれ」

「了解でござるよ!」

「イベントにスムーズに参加できないと、人が離れそうだもんね……良いことだと私も思うよ」


 セレーネさんが賛成してくれたところで、俺は一度みんなの表情を確認した。

 反対意見などは……今のところなさそうだ。


「じゃあ、そんな感じで。フィールド攻略に関して、何か質問ある?」

「はいはい、先輩」

「うん、どうぞ。シエスタちゃん」

「楽な攻略法を探るってことは、今までのフィールド攻略とはどう変わるんですか? 移動ルートもそうですけど、例えば……ボスの倒し方とか」

「良い質問だと思うよ、それ。具体的には――」




 ということで、俺たちは早々に砂漠に出ていた。

 攻略情報を流すと決めたからには鮮度が大事、攻略と情報開示が早ければ早いほど重宝されることだろう。

 遠征と違い王都に戻ることも容易な距離なので、回復アイテムさえきっちりしていれば、遠征時ほど徹底して準備する必要もない。


「ハインド先輩。さっきからそれ、何をしているんですか?」


 リコリスちゃんがこちらの手元を覗き込んでくる。

 それに対し、俺は一旦手を止め、顔を上げてから答えた。


「ん? これはマッピングだよ」

「マッピング、ですか?」


 リコリスちゃんがゆっくりと頭を横に倒す。

 分からないという顔だな……無理もないが。


「正確に言うと、マッピングというか……通ったルートを紙のマップに書き込んでいるんだよ。後でこいつをスクショで撮って、PCで綺麗なデータと画像にして攻略サイトに貼るんだ」

「本格的ですね!?」


 そのため、進む速度はやや遅めとなっている。

 更に、今回は初心者・中級者に合わせてあえてのラクダでの移動だ。

 危険なルートを探るために、わざと駄目そうな方向にも進んでみたりと時間がかかっている。

 しかしこれも必要な行為なのだ、多分。


「こういうルートみたいなのは特に、文章で長々と書いても伝わり難いから。例えば、今見えている一番大きな砂丘を登った後は……」

「後は?」

「進行方向から向かって右に三つ目の砂丘を回り込むように移動、窪みを見つけたらそこに踏み入らないよう直進。そこから四つ目の砂丘を――みたいな」

「頭がクラクラしてきました……」


 道が分からなくて人に尋ねたら、折角教えてもらったのにチンプンカンプン……みたいな感じだ。

 特にこの砂漠は目印になるようなものはなし。皆無!

 なので必然的に太陽の位置、それからミニマップとの睨めっこになる訳だが。


「TBは掲載者が許可・タグ付けした画像をゲーム内にメールで送る機能があったはずだから、それを使えばヒントとしては十分使える。ゲーム内のミニマップには重ねられないし、一々メールを開く手間はあるけれど……自分で一から探るよりは遥かに楽でしょう?」

「ルートを探るのは、まさに今私たちがやってますもんねぇ……」

「それが面倒だとか、自分たちで探るには危険なレベルの人たちに活用してもらえるといいね」


 情報を上げたとしても、それを見て、使ってもらえるかどうかは運任せなところがある。

 正直、誰かに頼まれてやっている訳でもないので自己満足に終わる可能性も十分あるのだが……。


「――仮に無駄になったとしても、これ意外と楽しいぞハインド! モンスターって、認識範囲がちゃんと設定されているのだな!」


 ユーミルがラクダに乗ったまま、中型モンスターの認識範囲の中と外を行ったり来たりしている。

 その度に、モンスター……岩のような外殻を持つアリクイが、ぴくりと反応して振り返っては動きを止め、また戻って――の繰り返しだ。

 要は「だるまさんがころんだ」のような状態。


「ほんとだ、何か可愛いです!? モンスターですけど!」

「な!? そうだろう!」

「……アリクイはそうでござろうが。あっちの大型が相手だと、全然可愛くないのでござるが?」


 そう言ってトビが視線を向けた先には、ぐわっと大口を開けて砂漠を走る大ワニの姿が。

 尖った牙と牙の間をこぼれ落ちて行く砂、血走った目。

 体躯と比して予想外に速いドタドタという走りに対し、びくりと肩を震わせつつラクダを下がらせるトビ。


「そこがそっち側のデッドゾーンか……よし、メモっておこう」

「メモっておこう、じゃないでござるよ! 怖い! しかもこのルート、期限付きなのでござろう!?」

「国の治安機関が出動したフィールドに、モンスターが減る期間はおよそ三週間だそうだ。イベント中はこのままだろうし、それが終わっても大型の位置は大体同じらしいから……丸々無駄になることはあるまいよ。期間が終わっても元から出現位置がランダムの小型が増えるだけだから、同じルートを使えるはずだ」


 ティオ殿下の言葉を聞いた後に調べた結果、それらしい記述が掲示板の中に少ないながらも存在していた。

 モンスター狩りがし難くなるのでいい迷惑だという意見の一方で、素材の採取がやりやすくなるのでありがたい、という両極端な意見が存在していたな。


「くっ……ハインド殿のこん畜生! 退路を断たれた! ……で、ござる!」

「……嫌なら交代するから、代わりにマッピングしてくれよ。ほら」

「拙者がやると途中からズレて来そうなので、パス!」

「……」


 だったら仕方ないじゃないか……というか、結局のところ文句を言いたいだけだな?

 目が笑っているから丸分かりなんだよ、この野郎。


「最悪、誰にも見られなかったとしても、私たちが移動する時の参考にしましょう。一度ルートを確定してしまえば、次からは馬で気持ち良く駆け抜けることができますよ」

「おー、妹さん前向き。先輩絡みのことだけは」

「……」


 リィズの余計なことを言うなという冷視線に、シエスタちゃんが小さく舌を出す。

 そのやり取りに、トビが先程と同じように肩を震わせた。

 今度は目が笑っていない――というか助けを求めるようにこちらを見ているので、どうやらモンスターよりもこちらのほうが怖いらしい。


「……ということでトビ先輩。がんばですよー」

「え、えぇ……りょ、了解でござる……」

「がんばじゃないわよ、シー。あなたも何かしなさいよ」

「え? うーん……先輩、ミスで戦闘になっちゃった時用の逃げ方なんかもあると親切じゃないですか? ちょっとだけ戦って検証しないとだから、面倒に面倒が重なって眠たくなりますけど」

「あ、そうだね。相手の速度が遅ければ、走って振り切るだけでいいけど。無理な時は、弱点部位を殴って怯ませるのが王道か……?」


 他にも『閃光玉』が効く相手ならそれを大量に常備しておく、など道具込みなら逃走の手は更に増える。

 そうしてみんなの意見を取り入れつつ、フィールド攻略情報が次々とメモと羊皮紙のマップに書き込まれていった。

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