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サーラの港事情と砂漠の偵察

「それで私のところに来たの?」


 俺たちは王宮に来ていた。

 目当ての人物はティオ殿下である。

 別にアルボルさんでもよかったのだが、話しやすいという点においてティオ殿下の右に出るものはいない。

 ……一応、彼女も王族なんだけどなぁ。

 現在いる場所は王宮の中庭に当たる場所だ。

 砂漠でしか咲かない美しい花々が植えられた花壇に加え、サーラの富の象徴である噴水が設置してある。


「わざわざ? 忙しい私のところに?」


 殿下はややご機嫌斜めらしい。

 ツンツンした態度で口早に言葉を並べ立てた。

 これに対して、ユーミルはニヤニヤと笑いながら返す。


「忙しい? しかし、私たちが来た時にはそこで猫と――」

「し、してない! 猫と遊んでなんかいないわ!」

「殿下、ノクスを抱えながら言われても説得力がないんですが……」


 遠征がなくてとても暇そう――もとい、忙しそうなティオ殿下の下を訪ねた理由は簡単だ。

 最初、俺たちは王都で魚介類を扱っている店の人に色々と訊いて回っていたのだが。


「国にある港町全ての状態を把握している人って、意外といなくてですね。戦士団として遠征を重ねているティオ殿下ならと思いまして。お休みのところ申し訳ございませんが、少しだけお時間をいただけませんか?」

「……仕方ないわね」


 ティオ殿下はおべっかなどを嫌うので、お願いは率直に。

 国で一番大きな港町だったり、自分が取引している町のことくらいは聞けたのだが。

 どれもこれも限定的で、量が集まれば十分だった可能性もあるが……。

 ここに来る前に、俺とユーミルはこんな会話をした。


「もっとこう、ドカッとまとめて情報を集められんのか!? まどろっこしいぞ!」

「そういうことなら、国の情報が集まっている場所で訊くしかないな」

「国の情報が集まる場所? どこだ?」

「あそこ」


 そして俺が示した場所がここ、王宮である。

 TBは文化的に口伝くでんが情報のやり取りのメインになっているので、どうしたって権力者の下にそれらが集まる構造なのだ。

 新聞屋のようなものも存在していないようだし……次点で先に当たった商人、特に砂漠ならキャラバンを組んでいるような行商人がそれに当たる。

 プレイヤー経由だと、サーラの沿岸は高レベルフィールドが多く、到達者が少ないのは把握済みだ。故に望み薄と。


「……で? 結局どこの、どんな港の話を聞きたいの? あなたたちが必要としているものはなるべく与えるようにって、姉上――女王陛下からも仰せつかっているから、答えてあげるわよ」


 おー、国への貢献度とか好感度によって変わりそうな台詞……。

 まあ、そもそも王宮への出入りが許されているプレイヤーなら誰でも聞ける類のものかもしれないが。

 ということで、お言葉に甘えて質問を。


「造船――大きな船を作っているような港町って、どこにありますかね?」

「港町で一番大きいのは、リーパ? という場所なのは聞けたのだが、どうもそこでは船は造っていないようなのでな」


 サーラ最大の港町、『リーパ』。

 そこでは主に友好国である『マール共和国』の港と積極的に取引を行っているそうだ。

 港の位置も南東寄りで、漁業も盛んだとか。

 俺たちの話を聞いたティオ殿下がしたり顔で頷く。


「ははーん、何かと思えば船が欲しいのね……確かに把握しているわよ。造船所のある港」

「本当か!?」

「ええ。当然でしょ? ちょっと待っていなさい」


 ティオ殿下が侍女を呼ぶ。

 やがて持って来た地図で、詳細な説明を受け……。




「特定の街道沿いはモンスターが少ない、か……そういう情報は初だな? ハインド」

「もしかしたら戦士団の遠征と関係しているかもな。少し前に行った先が、ちょうどその辺りだった気がするし」


 俺とユーミルは一路、教えられた道を辿って『グラドターク』を走らせていた。

 といっても、途中までだ。

 夕飯までの残り少ない時間で移動を完了するのは不可能だし、みんなを置いていくのもよろしくない。

 本当にティオ殿下が言ったようにモンスターが多いか、少ないか……。

 それが確認できたら十分だ。


「二人でできることって、結構限られるよな」


 高レベルフィールドに着くまでは、まだ少し余裕がある。

 馬を飛ばしながらも、並走して会話をしながらの移動を続行。

 二頭の『グラドターク』は最高速度が一緒なので、馬首を並べるのは非常に容易だ。


「うむ……しかし、少人数の利点というものもあるだろう? 今みたいに、さっと偵察に飛び出せるし!」

「あるな。シリウスなんかを見ていると分かるだろうけど、どれだけ馬を揃えても全員での移動は大変だ。指示が端々まで伝わるのにタイムラグもある」

「少人数は連絡が楽だし、機動性が高いしで統率は取り易いな?」

「そう。でも、この前のPKとの集団戦とか素材採取みたいな……」

「確かに、あれは数の力を感じたな……あっという間に薬草と鉄鉱石が山のように!」


 そんな話をしている間に、フィールドが纏う空気が変わる。

 簡易マップに表示されたフィールド名も入れ替わり……。

 俺とユーミル、ノクスは静かにグラドタークを降りると、砂丘を盾に並んで頭を出して周囲を見回した。


「……どうだ? モンスターの数は」

「ちょ、押すな押すな。何でそんなにくっついてくんの!?」

「む? 目立たないよう、横幅を小さくするためだが?」

「意味あんのか、それ……?」


 現在のカンストレベル60に対して、確かこのフィールドでは65前後が主だ。

 見えている限りでは、ティオ殿下の話通りモンスターの影はほとんどない。

 大型の動きが鈍いのが一体、二体……。

 砂漠のモンスターは砂中に潜んでいるケースも多いが、巣穴らしきものもなし。


「少ない……かな。しかし、砂漠の街道って人が多く通る場所っていう意味以外に何もないからな……ここ本当に街道か? ちょっと自信ないぞ」

「道……は、そもそもないな? 砂漠だものな!」

「砂漠だもんなぁ……」


 道を作ったところで、砂ですぐに埋もれてしまうのだろう。

 確か、大きな砂丘を目印にしながら進むんだっけ? それが道といえば道なんだそうで。

 他には平坦で少し高い、砂塵を被り難いルートが選ばれる傾向にあるか。

 時折ラクダ飼いだったりキャラバンの足跡を見つけることができるので、それを辿ると楽になるケースも。

 そんな砂漠の、街道と呼んでいいのかどうか微妙な場所をいくつか隠れながら見て回る。


「中型、小型の足が速いやつが全然いないな。ノクスもさっきから無反応だから、砂の中にも何もいないようだし。見るからに危険だって分かる大型が残っているだけで」

「……良い感じではないか? これならラクダでも大丈夫そうだぞ!」

「だな。ただ、フィールドボスはどうしたって倒さないとだからな。折角サーラに増えた初心者が離れるのを防ぐためにも、楽なルートとボスの攻略法は早めに流しちまったほうが良いだろう」


 海イベントだというのに、そこに到着するのが困難では話にならない。

 運営もそれは把握しているはずだし、ひょっとしたらイベントと同時にレベルキャップを引き上げる可能性があるか?

 ……どちらにせよ、海に出るのが簡単なマール共和国などと違い、この辺りのフォローは必須な気がする。

 相変わらず砂漠は色々と条件が厳しい。


「今は道中のモンスターの大半を避けられることが分かっただけでも十分か?」

「ああ、十分だ。そろそろ戻ろう」

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