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シリウスからの達成報酬 中編

 やがてポツポツとメンバーがログイン。

 ユーミルとリィズはセレーネさんとカームさんを追って別室へ。

 そちらではメイド服を着て……もとい、装備して戻ってくることが予想されるため、合わせて俺も執事服を装備。


「おー……話には聞いていたでござるが、本当にハインド殿は執事服がよく似合う……」


 既に執事服を着たトビがしげしげとこちらを眺めつつ呟く。

 こいつに着るかどうか訊いたところ、やはり即答で乗ってきた。

 しかし、こうなると格好と口調が合っていないな。


「お前、執事服を着たんなら口調を変えたら? 違和感が凄いぞ」

「あ、そのほうがいい? それじゃ変え――」

「そんなにあっさり変えちゃっていいんですか……?」

「ないでござるよ! ただでさえブレブレなロールプレイだと馬鹿にされるのでござるし!」


 ワルターの一言に慌てて意見を翻すトビ。

 もう手遅れだと思うんだがな、色々と……。


「それにしても、トビ。お前の執事姿……」


 改めて執事服を着たトビの姿を観察する。

 頭巾も取り、髪は現実での状態と同じ。

 つらは良い、それは前から知っている。

 しかし、それで執事服が似合うかというと話は別で。


「……何ていうか、執事喫茶にいる執事っぽいな」

「何それ!? どういうこと!?」

「確かに……屋敷にはいない感じの執事ですわね。お店の売れっ子というか、ホストっぽいというか……これがチャラい、というものなのかしら?」

「ひでえええ!! ヘルシャ殿、酷いでござるよォォォ!」

「な、泣くほどのことですの!?」


 ヘルシャの率直な言葉がトビに突き刺さる。

 違うと否定してやりたいが、残念ながら俺たちが受けた印象もそう遠くないもので……。


「どこが悪いんだろうなぁ……」

「髪が逆立っているからではありませんの? 撫で付けてみませんこと?」

「うーん……だったら生真面目に見えるよう、七三分けでござるか?」


 トビが適当に前髪を手で押さえ、形を作る。

 その頭の上にノクスが止まり、ホウと小さく鳴いた。

 鳥の巣ってほどじゃないが、結構ボサボサだもんなぁ。


「本当にそうしてやろうか? 整髪料なら何故かここにあるぞ」


 何故か、というかカームさんが気を利かせて用意してくれたものなのだが。

 瓶を振って見せると、トビは慌てて手を前に出して制止してくる。


「じょ、冗談でござるよ! では……いっそオールバックとか?」

「ああ、清潔感があっていいんじゃないか?」

「実際に仕事をする際に、前髪は邪魔になりますものね」

「あ、ボク鏡を持ってきますね! 何度もステータス画面で確認するのは大変ですから」


 執事の髪型としてはかなりマッチしているのではないだろうか。

 ノクスを頭から下ろしたトビの髪を三人がかりで整え、手鏡を渡す。

 ちなみにワルターが持ってきてくれた鏡は『クラリス商会』製で、TB世界における鏡のシェアではトップである。

 ……三人揃って一歩下がり、改めてトビの全身を見る。


「どうでござるか!? 拙者、賢そうに見える!? 有能そうに見える!?」

「もうその質問自体が既に間抜けじゃないか?」

「知性が足りないと!? では、モノクルを装備――」

「モノクルとか眼鏡の問題ではありませんわよ……」

「懐中時計とかも執事っぽいアイテムではありますよね」

「それでござる、ワルター殿! ハインド殿、作って作って!」

「お前ちょっと黙れ。黙ってその場から動くな」


 喋る度に動き回るので、ちっとも仕上がりが分からない。

 小物に凝るよりも、まずは本人の状態を見ないと。

 ようやくトビが動きを止めたので、改めて確認。


「……表情はもう少し引き締めた方がいいかもしれません」

「こうでござるか?」

「その親指と人差し指を立てたポーズはどうなんだ? 普通にしてくれ」

「こ、こう?」

「……やはり、根本的に執事向きの容姿ではありませんわね」

「どうしろと!?」


 さっきよりは大分マシになったが、どうにもしっくり来ない。

 やがてトビ本人が真っ先に根を上げ、鏡を円卓に置いて首を左右に振った。


「だーっ、もう拙者のことはいいでござるよ! それよりも、ヘルシャ殿はメイドにならないのでござるか?」

「わたくし?」


 トビの問いにヘルシャが目を丸くする。

 ヘルシャにメイド服かぁ……案外、似合うかもしれないな。


「そういやそうだな。メイドが下々の人間の仕事って時代でもないし、別に抵抗はないんだろう?」

「ありませんけれど……わたくし、このエイシカドレスを気に入っていますのよ。ですから、簡単に装備を変える気はありませんわ」

「あー、左様でござるか」

「現実なら、同じドレスを何度も着る機会なんてそうありませんけれど。ゲームなら構わないでしょう?」

「なるほどなるほど、ゲームなら汚れないでござるしなぁ。しかし、他の女性陣は随分と時間をかけているようでござるな……」


 微調整にそう時間はかからないはずだし、装備はそれこそゲームなので一瞬で済む。

 俺たちが四人がいる部屋の方角を何となく見たその時、扉がノックされる。


「お嬢様」

「カームですの?」

「メイド服のお着付け、完了いたしました」

「ご苦労さま。お入りなさい」


 ヘルシャの応答の後に、扉がゆっくりと開かれる。

 ひそひそと問答するような声が少しした後、ようやく姿が見えた。


「……あ、あの……お、お待たせ、しました……?」


 カームさん、ユーミル、リィズの三人に背を押されるように、オドオドした様子の女性が先頭で入室。

 普段と違い、眼鏡越しではない視線はチラチラとこちらを。

 顔は真っ赤で、体は震えながら扉に向かって泳ぎ気味だ。

 三人が抑えていなければとっくに逃げ出しているであろうその人は――


「だ、誰でござるか……?」

「どちら様ですの?」

「あんなに綺麗なメイドさん、シリウスにいましたっけ……?」

「いやいや、何言ってんだお前ら。あれ、セレーネさんだろう?」

「「「えっ?」」」


 円卓会議室の中に、偉く美人なメイドさんが現れた。

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