沈静化とその後 後編
「これ絶対マリーが知ったら怒るよな?」
最初のレスの塊を読み終わり、俺が最初に口にしたのはそんな言葉だ。
慌てたように秀平が顔を上げる。
「わ、わっちが黙っていれば問題ないし!」
「言わねえよ。それにしても、ヘルシャに前とは違った変な人気がついてやがる……」
応援の一方で、負けることを期待されているというか……。
これは友人としては非常に面白くない風潮だ。
「好きで未祐っちやソールの後塵を拝している訳じゃないもんねぇ」
「全くだ。どっかで払拭させてやり――」
「おやおやぁ?」
秀平が俺に対してニヤついた顔を見せる。
まだ、昨日執事をやった影響が抜けていないのかな? とでも言いたげだ。
「……失言だった。払拭できるといいのにな」
「まあ、また協力プレイの機会もあるだろうしね。その場合は払拭させてやりたい、でもいいんでない?」
「そうだな。でもって、対決するなら俺の支援込みのユーミルに勝たないと意味ないしな。ヘルシャのサポートはカームさんとワルターの仕事だ」
少しばかりヘルシャに対する肩入れが過ぎたようだ。
あいつは努力型の人間だから、それを知っているとついつい応援したくなってしまう。
「ちなみに最初のが総合雑談スレね」
「総合雑談……そんなところからよく拾えたな?」
「今はイベントもないし、専らPKの話が中心だからね。で、次が……初心者スレだね」
「初心者スレか。PKの影響で、新規のやる気が萎えていないといいんだが」
「……ふへっ」
……何だよ、その含みのある笑いは。
655:名無しの魔導士 ID:t6mMm3V
今日やっとアノさんに会えたよ!
20時付近がいいって教えてくれた人ありがとう!
656:名無しの弓術士 ID:CSQCNXP
おー、会えたのか
美容の秘訣は聞けた?
657:名無しの魔導士 ID:t6mMm3V
聞けた聞けた
お肌のために夜更かししないから、深夜はいないんだね
658:名無しの重戦士 ID:hPWyfQt
何か目的が……いいのかそれ?
659:名無しの魔導士 ID:t6mMm3V
弱くてもPKと一緒に戦ったからセーフセーフ
他の初心者でもギルドの吟味に使ってる人とかいるでしょ?
660:名無しの武闘家 ID:DjzPWiE
上位陣の戦いを自分の目で見るチャンスだからね
なるべく迷惑かからないようにしないとだけど
661:名無しの軽戦士 ID:WwZgxbi
あわよくばそのままギルドに、なんて期待してみたり
662:名無しの弓術士 ID:WJe87PF
PKのおかげで有名どころは大体見られたぞ!
一番可愛かったのは……渡り鳥のリィズちゃんかな!
663:名無しの騎士 ID:RBiQVca
有名どころ(女性プレイヤー限定)
664:名無しの弓術士 ID:WJe87PF
何故バレたし
665:名無しの騎士 ID:FnHHYDH
自分中級者くらいだけど、
PKに泣き寝入りするよりは全然いいと思う
ただ、野次馬根性が高じて救援を邪魔するような真似だけは勘弁な
666:名無しの騎士 ID:RBiQVca
節度は大事だよな、何事も
667:名無しの重戦士 ID:YJspi5V
名の知れたおっきいギルドもいいけど、
小さいとこで助けてくれるとこもいいよ
その縁でギルドに入れてもらったりしやすいし
668:名無しの神官 ID:zEH9ZSz
でかいギルドは欠員が出ないと入れなかったりするしな
初心者お断りってところは意外と少ないけども
669:名無しの武闘家 ID:pptYw4E
初心者お断りっていうと、ラプソディとか?
670:名無しの軽戦士 ID:R3DhAHb
あそこはガチガチの選別ギルドだね
ガチガチな代わりに入れれば快適だそうだよ、入れれば
671:名無しの弓術士 ID:xSKgd6M
初心者スレでは関係ない話……でもないか
上を目指したい人は入れるように頑張ってみてもいいかもしれない
702:名無しの魔導士 ID:nndNt6s
魔導士協会ってまだ募集してる?
703:名無しの騎士 ID:M7sWn8b
してるみたい
でも、見てると職専ギルドはPvP系のイベントがしんどそうね
704:名無しの神官 ID:5KHfJkN
魔導士協会はレイドでは滅法強いからいいんじゃない?
魔法に強いボスが来たら……だけど
705:名無しの重戦士 ID:ZaRm5cL
とりあえず入りたいんだったら、やっぱり「明日から頑張る」で
来るもの拒まずだし、その中で気の合った何人かを連れての独立もOKらしい
それでいて幹部は普通に強いという
706:名無しの弓術士 ID:CSQCNXP
あそこは緩いし人も多いけど、
言い換えるとあんまりちゃんと管理してないギルドだから
積極的に交流したいって人は他のほうがいいと思うよ
710:名無しの軽戦士 ID:74hWDe6
和風ギルドが親切だったからそのまま入ったわ
刀とか好きだし、ラッキーだったかも
PKとの戦いに太鼓とか法螺貝使ってて本格的だった
あ、もちろん旗持ちもいたよ(必要性があるのかは不明)
711:名無しの騎士 ID:F4zP7fa
へー、あそこそんなことしてるんだ
楽しそう
712:名無しの神官 ID:6fy6BfS
マールは釣りギルドとかあるよね
海が好きならあそこが一番
713:名無しの神官 ID:aPJmAkk
そうそう、TBは移動の関係で地域縛りがあるのがなぁ
行きたい地域に入りたいギルドがあるとは限らないのが難点
714:名無しの武闘家 ID:DjzPWiE
いっそ自分で作っちゃうのもありよ
715:名無しの重戦士 ID:RGYJG7E
そもそも新規メンバーを募集してないところもあるからして
渡り鳥なんかはどんなに入りたくても入れない……
716:名無しの弓術士 ID:gjDQ3p2
渡り鳥といえば、誰かエルガーとの戦いを見た人いる?
サクリファイス合戦をしたとか聞いたんだけど
717:名無しの軽戦士 ID:7sZwEMD
え、マジ? 正気?
718:名無しの弓術士 ID:d95VQ5M
違う違う、エルガー側だけだよサクリファイス使ったの
終盤に複数人がサクリファイス付きで突っ込んで来たらしい
719:名無しの神官 ID:Se34ssm
ひええ……
720:名無しの重戦士 ID:KCRbQXt
サクリファイスっていったら
どうしても本体が使ってるイメージがあるから勘違いしても仕方ない
721:名無しの魔導士 ID:CPzBmpE
そんなのを受けて勝ったんだよね?
どうやって捌いたのか気になるなぁ
722:名無しの弓術士 ID:gjDQ3p2
サクリファイスって自動で神官のHP減るんだよね?
防御側は回復だけしていれば、その内自滅するんじゃないの?
723:名無しの重戦士 ID:KCRbQXt
そんな生温い攻めをするPKが、
賞金首10位になんかなれるかなぁ?
下手に回復受けなんかしようとすると崩壊するんじゃ?
724:名無しの武闘家 ID:8NbQmdE
相手の攻撃力が高過ぎて、全然受けられないね
物好きが検証したサクリファイスのステ上昇幅を見れば分かるよ
笑えるくらいの爆上がりだから
725:名無しの騎士 ID:F4zP7fa
シリウスの職分布ってどんな感じだっけ?
それによって採れる手段も変わると思うんだけど
726:名無しの軽戦士 ID:MNjGAhM
ちょいスレチ気味になってきたので、そろそろ……
727:名無しの弓術士 ID:gjDQ3p2
あ、じゃあ申し訳ないけど、
最後に誰か詳細が分かるスレを教えてくれると嬉しい
728:名無しの騎士 ID:xgEYgdd
勇者ちゃんスレとかお嬢様スレ……は例によって暴走気味で微妙なんで、
PKKスレでエルガー撃破翌日辺りを見たらいいと思うよ
本体がやりそうな戦術の考察も含めて、議論もしてるから
729:名無しの重戦士 ID:Gx8KDcw
暴走って……
ま、まあ、その二つはそれで平常運転だから
確か総合雑談スレにも見てたって人がいたと思う
730:名無しの弓術士 ID:gjDQ3p2
>>728-729
ありがとう!
「……おお。思ったよりもずっと逞しいな、TBの初心者」
「でしょ? 集団戦やらイベランカーを見るチャンスってことで、装備とか所持金、アイテムを空っぽにしてフィールドに出るプレイヤーもいたみたい」
「あー、確かに戦闘不能になっても別にいい、みたいな態度のプレイヤーが何人かいたな。装備も軽装だった」
「本気で助けを求めている人の邪魔になるから、自粛する動きもあってそんなに沢山はいなかったらしいけど。少なくとも、わっちが心配するようなことは起きていないから安心するといいよ」
「これはこれで、別の問題が発生していたとも取れるけどな」
「まぁねぇ」
俺たちが必死に助けた初心者の何割かは、ただの野次馬だった可能性もある訳か……。
もう終わったことなので、気にしても仕方ないのだろうが。
「……さて、じゃあそろそろ帰るか。他にどっか寄りたいところあるか?」
「あ、ゲーセン出る前にパンチングマシンやりたい! 俺の拳が唸りを上げるっ!」
「え、そんなに自信あんの? どっちかっていうと非力だろ、お前?」
こいつの運動能力はゲームで言うと敏捷性に全振りしたような感じだ。
パワーは全然なかったと記憶しているのだが。
――そして案の定、ほどほどの打撃音と共にパッドが倒れる。
記録は……。
「70……3㎏!」
「73㎏? ……高校生男子の平均を割ってるじゃねえか」
「あっれえ?」
マシンによって測定値は違うそうなのだが、このマシンには年齢・性別毎の平均値が表で記載されている。
それによると高校生男子の平均は90㎏、成人男性で100㎏前後となっているので、秀平はそれ以下ということに。
「じゃあわっちもやってみてよ!」
「俺もか……手を痛めないようにしないとな……」
受け取ったグローブを嵌める前に、先にコインを投入。
ちょっと蒸れやすそうなグローブに利き手を入れる。
そして起き上がってくるパッドに対し、腰を軽く落とし、なるべく真っ直ぐに手首を痛めないよう拳を突き出した。
秀平が出した打撃音よりも幾分か大きなものが周囲に響く。
「むお、何でそんな綺麗なフォーム!? おかしくない!?」
「司に教えてもらった。正拳突きよりも、ちょっとだけ体重を乗せているけど」
「ズルくない!?」
手の痛みも……うん、特になさそうだ。
そんなこんなで、記録は――
「108㎏か。成人男性の平均ちょい上だから、高校生としてはまあまあなんじゃないか?」
「……家事筋?」
「家事筋」
秀平の言葉、というか造語に適当に頷く。
家事で培った筋力があるので、俺の記録はそこそこといったところだ。
「……ああ、そういえば前に未祐が殴り方にコツがあるって言っていたぞ」
「へ? 未祐っち、こういうのでどんくらい出るの?」
「あいつは――」
「私を呼んだか?」
はきはきとした声が割り込み、俺と秀平はマシンに向いていた視線を慌てて後ろへ。
そこには未祐が立っており……。
「未祐っち!?」
他所行き用の少しだけかっちりした服装だ。
笑みと共に手を上げると、傍まで寄ってきてそのまま俺の肩を叩く。
「未祐……あれ、章文おじさんは?」
「父さんなら、あそこでクレーンゲームの沼に嵌まっているぞ」
未祐が示す方向を見ると、非常に真面目な顔でクレーンを前後左右から見つつ操作をする中年男性が。
お、おじさん……。
「GPSで確認したら、亘が近くにいるみたいだったのでな。来てみた!」
「この近くで食事をしていたのか……今日はあまり遠出しなかったんだな」
「あ、わっちたちは位置情報を共有してるんだっけ……ところで、未祐っち?」
「微妙に聞こえていた話から察するに、パンチングマシンのコツか? ふむ……まずは、百聞は一見に如かず!」
必要もないのに、両方の手にグローブを装着してやる気満々で拳を打ち鳴らす。
そうして未祐が自己流のフォームで繰り出した拳は……。
「――95㎏!? え、一応女子なのに!?」
「一応……?」
「あ、嘘嘘! 未祐っちは超女の子ですたい、はい!」
「……それはそうと、章文おじさんはあのまま放っておいていいのか?」
お菓子がセットになっている箱に、ムキになって全力で挑んでいるようだが……。