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ゲーム内情報の活用

「拙者、今時は全ての攻略情報をサイトや掲示板で得られるものと思っていたのでござるよ」

「メジャーなゲームならそうかもな」

「ああ、確かに過疎ゲーだと……って、そうではなくて」

「分かってるよ。ネットが普及して結構経つしな。で?」


 翌日、俺とトビは二人で時間を合わせてログイン。

 今夜は来られないメンバーが多く、纏まっての活動は休みにする予定だったのだが……。

 トビにログインするよう促され、俺は家事を手早く終わらせてからログインした。


「中学生の頃でござったかな? とあるゲームで、運営が裏ダンジョンを用意したとの噂が実しやかにささやかれ……」

「ほう、裏ダンジョン」


 単語の意味としては、一定の条件を満たすと解放される普段は入場不可のダンジョン……ということになるか。隠しダンジョンという呼び名でもよかったはず。

 オフラインゲームなどでは主にクリア後に挑戦できる高難易度のものが。

 オンラインゲームではオフラインと同じものに加え時間、期間限定のものもそれに該当するか?


「どの攻略サイトを巡っても掲示板を巡っても答えが見つからない中、どうしてもそのダンジョンへ行ってみたかった拙者はゲーム内で情報を集め始め……」

「ほうほう。それで?」

「仲間たちの協力もあり、遂に辿り着いたのでござるよ!!」

「おおっ!」


 拳を握るトビに釣られ、思わずこちらも前のめりになる。

 どんな裏ダンジョンだったんだ!?


「……まあ、実態は開発が消しそびれた没データが残っており……とある条件を満たすとそこに飛ばされる、というオチだったのでござるが」

「お、おお……」


 最後は締まらないが、中々に興味を惹かれる内容だ。

 シリウスのホーム内を歩きながら話していると、ギルドの活動がなくてもインしているメンバーがちらほら。

 手を上げて挨拶を交わし、俺たちはエントランスホールに向かって進んで行く。


「ちなみにそのダンジョンとやらは、どんな感じだったんだ? もしかして、作りかけで見れたもんじゃなかったか?」

「それが、完成度80パーといった様子で。宙に浮かび上がる神殿で、グラフィック担当の頑張りが見える感じの素晴らしい出来でござったよ? 階段が途中で消失していて、手前までしか入れなかったのでござるが」

「勿体ねえなぁ……」


 没データが製品版でも残ってしまっている、というのは時々耳にする話だ。

 どういう経緯でそうなるのかは分からないが、何故だろう……ゲームをやっている人間としては、不思議と浪漫のようなものを感じる。

 俺がそんなことを考えていると、トビが過去の話を懐かしむように目を細めた。


「綺麗でござったなぁ、あのダンジョン……違反行為に認定されても困るので、ダンジョンを出た拙者は仲間たちと共に運営に一報を入れ、裏ダンジョン探しは終結。そして次のメンテ明けには、そのダンジョンのあるエリアには入場不可になっていたのでござるよ……」

「色んな意味で幻のダンジョンだな」

「正直、苦労に見合った成果ではなかったでござるが……そこは神殿の美しさに免じて、ということで」

「スクショは?」


 正直、そのダンジョンとやらは是非見てみたい。

 しかしトビはフッと笑うと、ポーズを取りつつ呟く。


「裏ダンジョンの神殿、それは拙者たちの心の中に……」

「誰も撮らなかったんだな?」

「い、今も、目に焼き付いて……」

「……まあ、撮るのも規約的にまずかったかもしれないしな。本来、プレイヤーに見せるべきものじゃないんだし」

「そ、そうそう! そうでござるよ! この話はここで終わりでござる!」


 話が一方的に打ち切られる。

 そして、結局最初の話にどう繋がるのかだが……。


「つまりお前は、こう言いたい訳か? ディープな情報はゲーム内でしか手に入らない場合もあると?」

「その通りでござるよ! 特にTBみたいにシステムの多くをAI任せにしているゲームは、情報が流動的且つ煩雑でござるし」

「主にクエストなんかはそうだよな。要は情報の種類の違いってことか」


 固定のものはともかく、一度しか起きないクエストなんてのもザラにあるものな……。

 そういう「終わったクエスト」に関しては、人に教えても仕方がない面も。

 トビが言いたいのは、場所によって得られる情報が違うということなのだろう。


「そうそう、そうなのでござるよ。簡単に説明すると、攻略サイトには変わることが少ないシステム面――初心者指南なども含む基本事項を記載。TBだとスキルの性能一覧、なんてものが代表的でござるな。閲覧数的にもこれが大抵トップでござるよ」

「武器・防具、アクセサリなんかの装備品も、店売りの基本的なものの性能は載っているよな。それと、一部設計図産の基本数値。TBはアレンジ装備という名のオリジナル装備が多いから、古株にとってはあくまでも参考程度だけど……」

「それでも、初心者には十分役に立つ情報でござるよ。前にちょろっと触れた、確度の高い情報というのはそういう類を指しているのでござるなー」


 トビが説明しつつ、二度ほど頷く。

 自分がやっている職以外のスキルは忘れやすいので、閲覧数トップは納得だ。


「次に掲示板。まあ、ここは玉石混淆ぎょくせきこんごうでござるな。この辺の話も――」

「したな、かなり前に。稀に鮮度が高い情報が落ちているけど、真偽の確認が大変だよなって話をした記憶がある」

「それに加えて、受動的なのでござるよ。書き込み待ちだし、レスが付いた瞬間に立ち会えないと質問もできないという欠点が」

「確かにそうだな。質問スレも、結局は相手の書き込みがあるかどうかだもんな」

「そして、話は結論へと至る次第で!」


 満を持して、といった様子でトビが人差し指を立てる。


「積極的に情報を、それも普通は出ないようなものを得るならゲーム内で! ということでござるよ!」

「真偽の確認についても相手の顔色、人柄、聞いた際の状況などを考慮すれば掲示板よりは楽になるな」

「その通り!!」

「なるほどね。だから俺をこうして呼び出した訳か……って、ちょっと待てよ」

「?」


 ここまでの話の全てが正しいとは限らないが、筋は通っているし説得力もある。

 俺個人としては特に異論もないのだが……。


「俺、この場に必要か?」


 トビ先生のゲーム情報講座は非常にためになったが、そこまで分かっているなら一人でいいじゃないか。

 俺に疑問をぶつけられたトビは、数秒間沈黙。

 やがてぎこちない動きでこちらを向いた。


「た、単に拙者が一人で行くのが寂しいから……だけど?」

「お前……またかよ」


 そんな気はしていたが……。

 いざ理由を聞くと、さすがにそれ以上の言葉が出ない。

 俺の微妙な反応を受けてトビが慌てる。


「あ、いやいや! ハインド殿も知っておいたほうがいいって、ゲーム内での情報の探り方! 副ギルマスがいたほうが色々とスムーズなこともあるし! それに、洞察力とかも――」

「分かった分かった。お前に任せっぱなしってのも悪いしな。いいよ、別に」


 とりあえず外に、と言うトビに連れられてシリウスのホームを出る。

 しかし、具体的に何をするのかは聞かされていない訳で……。


「それで、どこに行くんだ?」

「遠くには行かないので、大丈夫でござるよ。この都市内でござる」

「……商業都市の中?」


 住宅街を抜け、この都市の中心である商業区画へ。

 トビはぐいぐいとその中を進んで行き……。

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