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奇襲の検証とその対策

「大丈夫か!?」


 ユーミルたちが駆け付けたのは、俺たちがエルガーを取り逃したすぐ後のことだった。

 HPがごっそりと減った俺を見て、ユーミルが転がるように馬を降りる。


「くっ! 私がドリルなんぞに構っていたばかりに……!」

「誰が構って欲しいと言いましたの!? 本当に失礼な人ですわね!」

「私がユーミルさんごときに構っていたばかりに……とんだ失策です。大丈夫ですか? ハインドさん」

「貴様!?」

「負の連鎖じゃないか……やめてくれ。別に誰のせいでもないだろう?」


 べたべたとリィズに全身に触れられながら、俺は自分に回復魔法を使用した。

 以前のようにポーションの無駄使いに走らないだけマシなので、されるがままにしておく。


「矢も届かない距離だったから……ごめんね、ハインド君。折角、視線を感じるって教えてくれたのに」

「いえいえ。それよりも、また襲ってきそうな気がするんですよね。あいつ……」

「対策を練る必要があるでござるな。シリウスの誰かが撃破できれば、それで問題ないでござるが……」


 やがて、エルガーがシリウスの包囲を突破したことがメールで知らされ……。

 それを受け取ったヘルシャが怒りに震える。


「ぬぐぐぐぐ……これは後で反省会ですわね……!」

「……あんまり責めないでやってくれよ。今回は相手が悪い」


 戦闘終了後ということもあり、配置もガタガタだった。

 一瞬とはいえまともな戦闘になっただけ、シリウスのメンバーは優秀だと思う。


「わ、分かっていますわよ! わたくしなんて、接敵すらできなかったのですから……」

「強敵相手の訓練も必要ですね。足止めを優先しつつ増援を待つ、といったように」


 カームさんの言葉はおそらく的確なのだろう。

 事前に様々なケースを想定しておかないと、瞬時に頭を切り替えるのは難しい。

 今まではプレイヤースキル的に格下のオレンジネームばかりを「撃退」する動きだった。

 特にシリウスのような大きなギルドだと、指令の伝達も大変そうだしな……。


「それにしても、そんなに強かったのか? そのレッドネームとやらは」


 ユーミルの問いに、俺とトビは同時に頷いた。

 正面切っての斬り合いに向かない職の俺たちではあるが、それでも圧倒されたことに変わりはない。

 共有しておくべき情報なので、戦闘の経過を事細かにみんなに話して聞かせる。


「――で、最後は初撃で仕留めるつもりだった、なんて本人も言っていたからな。自信があったんだろう」

「その自信に見合った強さでござったよ。包囲が完全に狭まる前、瀕死まで追い込んだハインド殿をあっさりと放って逃げた辺り……かなりの本格派、手練れでござるな」

「普通は倒してから逃げようか、と欲をかきそうな場面なのにな。……さて、逃げられてしまったからには、次に備えてやつの動きを検証しておく必要があるな」


 まずはどうやって隠れていたのかだな。

 確か、そっちの岩陰から出てきたはず。

 その付近を探ると……岩場に溶け込む色をした見覚えのある布が。


「これ、フィリアちゃんが使っていたあの布だよな?」

「拙者も持っているでござるよ? 取引掲示板でも、それなりの数が売られているものでござるな」

「アイテム名は、カモフラージュクロス……でしたね」

「カームさんもご存知でしたか」


 ただ、こいつの色合いを見るにかなり精度が高い。

 取引掲示板で大量に流通しているものとは違うような気がする。


「このフィールドのためだけに用意したって雰囲気があるな。こうして広げてみると……ああ、こりゃ言われないと分からないな」


 ざっくり岩場といっても、色合いは場所によって違うのだ。

 雨が降ったりしていても変わるだろうし、微調整は大変だろう。


「……これだけのアイテムを使い捨てですか。確かに、並々ならぬものを感じますね」

「恨み、みたいなものは特に言動からは汲み取れなかったが。隠れるタイミングも難しかっただろうし、奇襲の手間はかなりかかっているよな」


 レッドネームは目立つのだし、襲われた初心者たちが来る前から――ということになるか。

 そして、気になっていたネームの隠し方だが……。


「どうだ?」

「もうちょい右だ、ンドが飛び出ている!」

「ンドって……じゃあ、こう?」

「今度はレベルがはみ出していますわよ」

「難しいな……よっと」

「あ、今度はギルドネームが出ているよ? ハインド君」

「ってことは、上にズレたかな……?」


 試行錯誤の後、横になって位置を調整することで岩の中にネームを隠すことに成功した。

 ブルーネーム以外はネームを非表示にできないが、こうすれば見えないようにはできるようだ。


「こんなもんか。振り返ってみると、かなり手のかかった高度な奇襲だったっぽいな。戦闘中に仕掛けてこなかったのは、俺が孤立するのを待っていたからか? PK軍団の中に紛れるにしても、オレンジネームの中に一人レッドネームだと目立つしな」

「狙撃のほうについては射線が通らなかった、もしくはエルガーが自らの手でハインド殿を倒したかったから――など、色々と考えられるでござるな」

「自らの手で、か。どうだろう? さっきの矢は牽制なんかじゃなく、普通に命を取りに来ていたような気もするが」

「そうでござったか……拙者のほうには飛んでこなかったでござるしなぁ。ただ、腕前からしてあちらも並のPKでないことは確かでござるな」


 今回限りのコンビでないのなら、調べれば何か分かるかもしれない。

 エルガーと違い、姿も確認できなかったのは痛いが……。

 奴らが逃走する際に目撃したシリウスのメンバーから、話を聞くしかないな。


「いずれにせよ、集められる限りの情報を集めておいた方が良さそうですね。有名なPKなら、手口なども知られていそうですし。ハインドさんの身の安全は、他の何よりも優先されます」

「そ、そうなんですか? 師匠」

「そこで俺に訊き返すのは反則だろう、ワルター……」


 リィズの言葉は嬉しいが、そこは触れずにそっと流しておくべきところだろう。

 その後、シリウスの分隊長が集合したところで彼らを交えた話し合いへと移行。

 エルガーの乱入によってやや戦意が削がれたが、最終的には次の襲撃に向けてその日は警戒を続けることにした。

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