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視線と異変

 シリウスが馬を変えてからというもの、PK軍団の撃退率は劇的に改善した。

 速度が上回ったことで討ち漏らしが減り、追い込み・誘導も随分と楽になった。

 土系魔法をメインに、生かさず殺さず……。

 混乱するほど追い詰めると敵の移動を制御できなくなるので、この段階でのやり過ぎは禁物だ。

 仕留める時は一気に。


「ユーミル、ヘルシャ! 行ったぞ!」


 今夜の戦場は岩が多いので、場所によっては馬を降りての移動も必要だ。

 だが、それも馬の性能によっては乗り越えることが可能である。

 敵は団子状態、お膳立ては全て整っている。

 合図を受け、名馬に乗るギルマス二人は悪路を軽々と走破して再接敵。


「バースト……」

「レイジング……」


 力を溜めるような動作と共に呟く二人を見た瞬間、嫌な予感が全身を駆け巡る。

 馬上の二人は互いを見ておらず、しかもその視線を追ったところ……狙っている場所は一緒か!?


「ま、待て! 待てっての、そこのアホ二人! 止まれ!」

「エッジィィィ!」

「フレェェェイム!」


 大火球と共に馬から跳び下りたユーミルが敵集団に突入していく。

 二種の異なる爆発が同時に発生し、PKたちが紙きれのように四方に弾け飛んだ。

 白煙の中心でユーミルがゆらりと立ち上がる。


「フハハハハ! 全・滅!」

「全・滅、ですわ! ……あら? 今の、どちらの撃破に入りますの?」

「……さあな」


 もう喋る気力すら残っていないっての。

 残光を発する『支援者の杖』を下ろして、溜め息を吐く。

 そんな俺を見かねてか、リィズとカームさんが二人の前に進み出る。


「同時に範囲攻撃を行うなんて……はぁ。少しは反省してください」

「危うくユーミルさんが戦闘不能になるところでしたよ、お嬢様。もっとお気を付けになってください」


 ユーミルに合わせ、二人が馬から降りながら忠告した。

 高揚した気分に水を差された形のギルマスコンビが動揺を見せる。


「ぶ、無事だったのだから別に問題ないだろう!」

「それはハインドさんがホーリーウォールを張ってくれたからです。気付いていなかったんですか? 馬鹿なんですか?」

「誰が馬鹿だ!? 大体、攻撃タイミングを被らせたドリルが悪い!」

「何ですって!? あなたが後からわたくしの攻撃に割り込んで来たのでしょう!?」


 二人はリィズとカームさんに任せ、俺は負傷者の治療へと向かった。

 優先順位はまず襲われていた初心者たち、次いで俺たち同盟の中で傷の深い者の順。

 今回は範囲攻撃後の追撃が必要なかったので、第二陣のメンバーはひょっとしたら退屈だったかもしれないな。

 次も上手く行くとは限らないが……ゲームだから、効率よりも楽しさを優先しないとな。

 配置が最適にならない場合もあるだろうけど、何人かは第一陣と交代させることをヘルシャに進言してみるとしよう。


「ハインド君、お疲れ様。MPは足りている?」

「あ、セレーネさん。ありがとうございます」


 グラドタークに乗り直して移動していると、セレーネさんが並走して『MPポーション』を俺に振りかけてくれる。

 彼女のほうは……あ、やっぱり無傷か。MPもほとんど満タンだ。


「凄かったね、二人の最後の攻撃……私の出番がなかったよ。念のため、MPは回復しておいたんだけど」

「タイミング被りはともかく、二人とも狙う箇所は最適でしたね。後は順番を譲り合って撃つようにしてくれたら、言うことがないんですけど」

「そ、そうだよねぇ。でも、これも競争心が生んだ結果かもしれないから……完全に役割を分けちゃうのも、どうなのかなって」

「ええ。ですから、初撃と二撃目を固定したりできないんですよね。位置によっては片方しか攻撃できなかったりもするんで、そっちの都合もあるんですけど」

「ハインド君は考えることが多くて大変だね。ええと……私じゃあんまり頼りにならないと思うけど。できることがあったら言ってね?」


 おお、MPと一緒に心まで癒されていく……。

 武器・防具の作製以上に、セレーネさんに声をかけて良かったと思える瞬間だ。


「ありがとうございます。相談事がある時は、お願いしますね。それと今夜はもう一戦ありそうなんで、ユーミルたちにもそのことを伝えておいてくれませんか?」

「うん、分かったよ。ハインド君は、この後どうするの?」

「俺は――」

「やあやあ、ご両人。ラストは見事な爆発でござったなぁ。しかし、追撃なしはちと物足りないでござるなー」

「こいつと一緒に治療を続けつつ、シリウスの分隊長に声をかけてきますんで」

「へ?」

「そっか。ユーミルさんたち、ちょうど口論が終わったみたいだから……早速行って、伝えておくね?」

「はい」


 馬を反転させ、移動を始めようとするセレーネさん。

 ――あれ、またか? 何だろうなこれ、気のせいか?


「あの、セレーネさん。ちょっと」

「? どうしたの?」


 俺はセレーネさんを呼び止めると、周囲を窺いながら声を潜める。

 あ、気配が消えた。


「何か、妙な視線を感じませんでしたか? 戦闘中とか……もしくは、今とか」

「特にそういうのはなかったと思うけど……」

「そうですか。すみません、引き止めて」

「ううん。でも、ハインド君がそう言うなら周囲に気を配ってみるね? 何か危険があるかもしれないから」

「ありがとうございます。お願いします」


 視線に敏感なセレーネさんが何も感じなかったということは……うーむ。

 今度こそセレーネさんを見送ってから、俺はトビと共に移動を開始。

 しばらくして治療が終わり、分隊長探しに移ったところでトビが何かを訊きたそうにこちらを向く。


「そういやハインド殿。さっきの話は何なのでござる?」

「さっき?」

「セレーネ殿と話していた、視線がどうとかいう」

「あー、あれか。実は戦闘中と、さっきも一瞬だけ妙な視線を感じてさ。何かこう……じっとこちらを観察するような」


 その言葉にトビは束の間、考えるように腕を組む。


「ハインド殿を熱心に見る人物というと……犯人はリィズ殿では?」

「それは普段からあるもんだから、違うな」

「お、おう……そ、そうでござるか」


 今も背中に感じるこれは、リィズのもので間違いないはず。

 戦闘中と感じたそれは、もっと刺すような……冷たい感じがするものだった。

 俺のそんな説明に対し、再びトビが腕を組んでうなる。


「単なる気のせいかもしれないけどな。武術の達人でもあるまいし、俺の感覚なんて当てにならん」

「それだったら、余裕ができた初心者の誰かに見られていたのでは? 技を盗もうと、こう……ギラッとした目で見ているから、冷たい感じになったとか」

「そういうのだったら別にいいんだけどな」


 ――と、そんな話をしていたところでグラドタークが妙な動きを見せる。

 岩の真横を通ろうとすると突然、何かを避けるように蛇行して進み……。


「何だ? どうした?」

「――ハインド殿っ! 後ろぉっ!」


 直後、俺が知覚できたのは勝手に加速するグラドターク、焦ったように叫ぶトビの声、そして……。

 布を思い切り捲り上げるような音と、何かが鋭く空を切る音だった。

 走り出したグラドタークを、手綱を引いて円を描くように反転させ、異常の原因へと向き直る。

 すると、そこには……。

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