獲得賞金ランキング
「どうして全てドリルの手柄のようになっているのだ!? 納得いかん! 納得いかぁぁぁん!」
ユーミルが叫ぶ。
シリウスのホームで叫ぶ、叫ぶ。
オーラが無駄に弾ける、唸りを上げる。
それを見た俺は後ろを振り返りつつ問いかけた。
「おい、誰だこいつにさっき見た掲示板の内容を教えたの。言うなって釘を刺したよな?」
まずトビのほうを見ると、首を左右に振る。
にやけ面もしていないし……嘘はついていないな。
続けてヘルシャに視線をやると――
「……」
露骨に目を背けた。
……お前か。
そういえば、掲示板の書き込みで褒められて喜んでいたっけな。
「このヒートアップっぷり……さてはヘルシャ、自慢交じりに報告しただろう?」
「な、何のことですかしら?」
格好つけて髪を掻き上げるんじゃないよ。
誤魔化そうとしても笑みが引きつっているから、どんな心理状態なのか丸分かりだ。
「ハインドぉ! 私も何か異名が欲しい!」
「何だよ。異名ならもうあるじゃん、昔からのやつが」
「勇者ちゃんは異名ではない! ただのあだ名だぁ!」
「そう言われると、ニュアンスが違うといえば違うのか。でも、共同で事に当たっているんだから実際の手柄はみんなのものだろう? 掲示板の評価なんて気にすんな」
「理屈はそうだが!」
うぅむ、収まりそうもないな。
宥める方向性で駄目となると……いっそ、競争心を煽った方が良いのだろうか?
それだったら、おあつらえ向きのものがある。
「じゃあ、獲得賞金ランキングでもっと上でも目指してみるか? お前が目立てば、渡り鳥もPK討伐に参加しているってみんなに知ってもらえると思うぞ」
「む? 初めて聞くな。何だそのランキングは?」
ランキングと聞いて、勝負事に目がないユーミルがあっさりと食いつく。
矛先が逸れたことにホッとしつつ、ヘルシャも話題に乗ってくる。
「読んで字のごとく、PKを倒して得た賞金額を競うランキングですわ。累計額については、サービス開始初期からPKKとして活動しているプレイヤーには敵いませんが……」
「一定期間を集計したもの――例えば週間なんかだと結構良い位置にいるぞ、二人とも。集団PKの構成員は賞金首的には微妙な額のやつばっかりだけど、何せ倒している数が数だからな。塵も積もればってやつだよ」
「おお、そうなのか! そのランキングはゲーム内でも見られるのか?」
「メニューの中にあるんじゃないか? 探してみるといい」
俺はログイン前に公式サイトで見てきたところなので、ゲーム内でどうなのかは知らない。
ユーミル、ヘルシャがランキングを探している間に、残った六人のメンバーでフィールドに出る準備を整えておく。
「――あった! ええと、週間……週間……私が29位で……」
「わたくしが27位ですわね! ふふん!」
「たったの二つ差ではないか!? 威張るなドリル!」
「お、あったのか。ちなみに弦月さんがお前たちのずっと上、14位にいるぞ」
「「は?」」
笑顔を引っ込め、一瞬で険しい表情へと転じる。
こいつら、全く同じ動きを……。
こちらを睨みつけてくる二人に対し、座って見ていたトビが肩を震わせ、俺の隣に立ったリィズが睨み返した。
「いや、は? じゃなくて。キレるなキレるな」
「事実でしょう? どうしてハインドさんを睨むんですか。お門違いも甚だしい」
セレーネさんがオロオロしているが、俺は手を軽く振って大丈夫だと示した。
このくらいはじゃれ合いの範疇なんで、特に問題ないですよ。
「むぅ……しかし、どうしてそんなに差ができたのだ?」
「弦月……さんのアルテミスも、ハインドがメールを送ってからPK討伐に動き出しましたわよね?」
「そりゃ簡単な話だ。お前ら二人が撃破数を食い合っているのがまず一つ」
「複数理由があるんですの……?」
時間節約のため、俺はリィズと共にアイテムを補充しながら会話に応じることに。
遠征中はいつもアイテム補充が鬼門となる。
今回は止まり木が馬を届ける際に物資を補給してくれたので、数は十分だが油断は禁物。
特にここグラドはショップ売りアイテムが高いので、暇があれば素材から回復アイテムを作製しておかないと所持金がガリガリ減っていく。
まあ、実は限られた素材を用いて何とかする……このやり繰りが楽しかったりもするのだが。
と、話を戻そう。
「アルテミスは、良くも悪くも弦月さんが中心のギルドだからな。本人のスペックも異常に高いから、自然と撃破も弦月さんに集まっているものだと推測される」
「賞金の分配など、ギルドメンバーの活躍度合いに応じてきっちりしていそうですよね……」
「しているだろうな。あの人の性格上」
リィズの言葉にその様を想像すると、何の抵抗もなくその光景が頭に浮かんでくる。
そういうところもきっちりしているので、メンバーから不満も出ないという。
そんなエース兼ギルマスという点においては、弦月さんもこの二人も同じなのだが……。
「私たちは得た賞金を、ギルド資金として適当にぽーいしているだけだというのに……」
「わ、わたくしはちゃんとメンバーに還元できるよう、用途まできっちり決めていますわよ! ……ざ、ざっくりですけど……」
「お前らはそれが許されるキャラクターだから、別にいいんじゃないか? で、みんながサポートして撃破を集めている点までは弦月さんと一緒。でも、こっちは同じ戦場にそれが二人いるからな」
二人分の獲得賞金を合計すれば、多分弦月さんの順位を越える。
集団PKの出没数は、ルストよりもグラド国内のほうが多い。
「共闘ですから、もちろんユーミルさんにバフをかけているメンバーもいましたしね。ボクもサポートに入ることがありましたし、カームさんもユーミルさんにバフを使っていましたよね?」
「ええ。お嬢様の状態を確認してから、ですが」
「!? 何ですって!?」
「いやいや、当たり前だろう。俺だって、タイミング次第ではヘルシャにバフをかけたりしてるんだし」
「何だと!?」
「お前ら……」
使用する対象を個別指定できるスキルは、パーティ外のプレイヤーへの使用が容易だ。
支援バフはその最たるもので、被っても使用者側のWTが短く、使われた側も効果時間が上書きされて伸びるので、どんどん使って行くことが可能である。
「ともかく、そんなダブルエース状態だから撃破数が二つに割れているんだよ。そんな中でヘルシャばかり話題になるのは……まあ、やっぱ集団戦の時のギルメンの人数差だよな」
「百近いシリウスに対して、拙者たちは五人でござるし」
「オーラを出して精一杯目立っているのに……」
「勇者のオーラは確かに目立つけど、執事とメイドが一杯いるのも大概目立つからさ……レイジングフレイムのエフェクトもでかいし、埋もれちゃったんだろう」
「貴様のせいか、ドリルぅ!」
「言いがかりですわ!?」
「で、そこで話は戻る。ランキング上位になれば嫌でも衆目に触れるから、やってみたらどうか――となる訳だ」
「なるほど!」
そもそも、助けられた際に何が印象に残っているかはその人次第だ。
探せばユーミルについて触れている書き込みくらい、いくらでもありそうなものだが……。
折角やる気になっているのだし、今更指摘する必要もないか。
「それと、もう一つの理由は二人の取りこぼしが多いことかな。どっちも大技の範囲に敵をもっと多く入れるように意識してみるといいと思うぞ。後は……追撃か。そっちも丁寧にやれば、今よりももっと撃破数が増えるはずだ」
「何っ? その辺りはちゃんとやっているつもりなのだが……」
「その証拠に、ほら。同じランキングの200位付近……180位くらいだったかな? 見てみ?」
「「……」」
二人が顔を寄せ合ってランキング画面を注視する。
俺が見て欲しかった名前はすぐに見つかったようで――
「セッちゃぁん!」
「セレーネさんっ!」
「は、はいっ!?」
突然名前を呼ばれたセレーネさんが立ち上がる。
二人が口にした通り、そこにはセレーネさんの名があり……。
「その数字が二人の取りこぼしをセレーネさんが倒してくれている証だ。思った以上に多いだろう?」
「こんなに……ですの?」
「乱戦のまま終わる時は仕方ないけど、上手く敵を誘導できた時はもっと頑張れるってことだと思う」
二人が大型スキルを撃った後にセレーネさんが『ブラストアロー』で掃除をするのが、俺たちの中で一つの型になっている。
後は単体攻撃スキルを使いつつ追いかけっこで終了、というのが大まかな撃退の流れだ。
「ちなみに、その周囲には和風ギルドのメンバーが何人か入っていたりするぞ。十人くらいか?」
「あー。バランスの良い普通のギルドは、そういうばらけかたをするでござるな?」
「ああ、アタッカーが満遍なく活躍できている感じで良いよな。もちろん、エースを据えるギルドが悪いって訳じゃないから――」
「バーストエッジの範囲は完全に把握したつもりだったが……むう、まだまだ甘いということか」
「レイジングフレイム後に素早くファイアウォール……いえ、使用MPと詠唱時間を考慮するとファイアーボールかしら? 位置取りももう少し考えないと……」
……聞いていないな、こいつら。
俺が呆れた目をしていると、トビが無駄に優しい手つきで肩を叩いてくる。
うん、まあ……そうだな、伝えるべきことは伝えたし。
もう放っておいて、こちらはこちらでアイテム生産に集中するとしようか。