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王都への到達と旅の終わり

 ユーミルが『バジリスク』の眉間に突き刺した剣から、光が迸る。

 やがてそれは巨体の全身に回り――やがてバジリスクは粉々に砕け散った。

 強敵だったことを示すように、天に光が昇っていく。

 パーティメンバー全員が、肩で荒い呼吸をしながらそれを茫然と見ていた。

 ……。


「うおぉぉぉぉぉ!!」


 真っ先に我に返ったユーミルが叫ぶ。


「おあぁぁぁぁぁっ!!」


 続けてトビも叫ぶ。


「おっしゃああああ!」


 そして俺も叫んだ。

 そのまま三人でハイタッチを交わし、笑顔のセレーネさんと握手をして激しく手を上下し、俺達の様子に戸惑っているリィズを抱き上げた。


「え、あの……う、嬉しいですけど、その――」

「あはははは! 勝った、勝ったぞリィズ!」

「兄さん、凄く楽しそう……ふふ」


 そのままお姫様抱っこでくるくると回っていると、不意に背中に重みが加わった。

 二人分の体重は支えきれず、俺はリィズを下敷きにしないように庇いながら柔らかい砂の上に倒れ込んだ。

 誰だ! と、問うまでもない。

 ユーミルだけだ、俺にこんなことをしてくるのは。


「ハインドォ! お前オーガの時は淡泊だったくせに、今回は随分と嬉しそうではないか!」

「あの時とは掛けた苦労の桁が違うって! てか重い、重いから!」

「何だと! 私はそんなに重くない!」

「体重の話じゃねえよ! 装備してる防具の分も考えろや!」

「では拙者も」

「わ、私も……」

「な、何で全員でのしかかって――ぐええっ!」


 安全を確認したのか、戻ってきたラクダ達に「何やってんだこいつら」という顔をされるまで、俺達は勝利に酔っていつまでも騒ぎ続けた。




 気分が落ち着いたところで、ラクダに乗り直して再び砂漠を進む。

 マップ上では岩場が砂漠の中央付近だったので、俺達はマイヤに引き返さずこのまま『王都ワーハ』を目指すことに。

 クエストの証拠品となる『大蛇のトサカ』は、予想通りドロップアイテムとしてインベントリの中に入っていることを確認済みだ。

 更にクラリスさんから聞いた通り、バジリスクを倒した後は『ホーンヴァイパー』の姿が一斉に消え……。

 今は『ヤービルガ砂漠』にも居た『デザートスコーピオン』が偶に出現するだけで、非常に快適に移動できている。


「それにしても酷い敵だった。まさかあれだけの瞬間火力を強要してくるとは」

「んー、クエスト詳細に推奨レベルとか、推奨パーティ人数の記載がある時点で気付くべきだったかなぁ?」

「かもしれません。でもこのゲーム、ちょいちょい理不尽な初見殺しが見られますよね。期限も短かったし、結構えげつない部類のクエストですよ。今回のは」


 余裕ができたので、雑談しながらラクダをのんびり歩かせる。

 モンスターが見えたら少し加速して離れればいいだけなので、スピードのある新種でも現れない限りはこのまま戦闘を避けつつ進めるだろう。


「耐久戦で安定した戦いをしたいプレイヤー的には、最悪の部類の敵でござるな」

「火力が不足している時点で詰みだからなぁ。ダメだった場合はレベルを上げる、武器の強化をする、最終手段として火力職でパーティを固める、って感じか。報酬の金額が破格だから、難易度に関しては仕方ないと思うしかないか」

「初見でクリアできて良かったな」

「二度も戦いたい敵ではありませんしね……死体が残らなかったのが残念です」

「残ったとして、死体に何をする気だったのだ貴様は……」


 話している内にマップ上ではそろそろ終点が近付いて来た。

 クラリスさんに情報を聞いた時点で、街の場所は記載されている。

 この距離からして、あと数分もすれば王都が見えてくるだろう。


「今回はリィズがお手柄だったな。ダメージ調整と、石化でバジリスクの回復までの猶予を作れたのは大きかった」

「それを言うなら、事前に鏡を作製したハインドさんのおかげです」

「あー……ははっ、まあなんだ。褒め合いはこそばゆいからやめるか。――で、そろそろ王都だけど、まずはクエスト報告か? 王宮って俺らでも入れるもんかな?」

「どうだろうね。マイヤの街からルキヤ砂漠を通って来たって言えば、それだけで騒ぎになりそうだけど……ヤイードさんに連絡を取って、繋いでもらうのが良いんじゃないかな?」


 セレーネさんの言う通り、その方が穏当かな。

 『ルキヤ砂漠』側から街に入れば、どの道状況は知れてしまうだろうけど。

 元は王宮勤めらしいヤイードさんに何とかしてもらおう。

 足が悪いので、本人が来るかどうかは分からないが。


「そうですよね。移動が面倒だから、王都からマイヤに手紙でも書きますか。ラクダ便とかいうのがあるらしいし」


 砂漠の安全確認が終わってからじゃないと運んでくれないだろうけど。

 それでも、王都に着いたばかりでまた戻るのは正直しんどい。


「おお、ならその間にホーム候補を探せば良いではないか!」

「そうすっか。ホームは街の空き家の中から選ぶんだったよな?」

「そうでござるよ。中は異空間で広いので、建物や部屋の大小は考慮せずとも大丈夫でござる。ただ、立地や初期設備の良い物件は相応に高いそうな」

「そこは現実と同じなんですね。王都の家は高そうです……」


 逆に安くホームを構えたい場合は、外れにある田舎の村などを選べばいいそうだ。

 もちろん人が少ない分だけ特殊なクエストは起きないし、NPC相手の商売なども当然ながらやり辛くなる。

 そういう場所では店売りの商品の種類も今一つだ。


 ただし悪いことばかりでなく、農業だったり畜産だったりに関しては田舎の方が場所を確保しやすく便利なので、それぞれのプレイスタイルに合わせればいいとのことだ。

 俺達の場合は深く考えずに、何となく王都にホームを構える予定だが。


「じゃあ、着いたらホームの場所選びに――あれ?」


 何かを忘れているような。

 しかし砂漠の小さな丘を越えたところで王都が見え、その思考は中断された。

 パーティメンバーが感嘆の声を上げ、ラクダが小さく喉を鳴らす。


 『王都ワーハ』は予想以上に巨大な都市だった。

 見渡す限りの砂漠の中にあって、土色をした四角い建物がニョキニョキと密集して建っている。

 蜃気楼が邪魔でその全景を窺うことはできないが、奥には荘厳な宮殿が鎮座しているのもうっすら見えた……気がする。


「着いたー!」


 ユーミルがラクダの上で両手を上げて叫ぶ。

 俺達もその言葉に長かった旅が終わりを告げようとしているのを感じ、顔を見合わせて笑い合った。

 ――その時だった。

 ボコン、という音と共に近くの土が盛り上がる。

 中から『デザートスコーピオン』より一回り大きく、毒々しい色をしたサソリが現れた。

 レベルは37、名前は『ヴェノムスコーピオン』。


「う、うん? ええと……ハインド君? 何、このモンスター?」

「あ、そうか……これかぁ、引っ掛かってたの。すまん、みんな。言い忘れてたけど、この砂漠は通常フィールドなんだ。だから――」

「お、おう……なら居るだろうな、フィールドボス……」

「空気を読まないモンスターでござるな……」

「……いえ、向こうも困惑していると思いますよ。普通に登場したのに、こんな反応をされて」


 一向に武器すら構えない俺達を見ながら、ヴェノムスコーピオンはシャキンシャキンと鋏を鳴らした。

 ここが大型フィールドでないなら当然、出口付近にはフィールドボスが居る訳で……。

 完全に存在を忘れており、全員が王都を見た時点で「もう終わり」という気分になっていた。


 微妙なやる気と空気の中、ラクダを避難させての戦闘が始まる。

 しかしやはりというか『バジリスク』よりも強いということはなく、俺達はそれをあっさり倒して街へと到達したのだった。

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