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ゲーム知識の意味と活用法

 馬について学んだ後は、実践だ。

 特にユーミルなら頭で考えさせるよりもこちらのほうが確実。

 グラドタークに乗らせ、少し離れた位置で敵役の俺とヘルシャが待ち受ける。


「行くぞー!」


 ユーミルの声にこちらも手を上げて応える。

 グラドタークの腹を蹴って始動、加速して近付き……。

 俺は一歩前へ、ヘルシャが俺の陰に入るように位置を変更して叫ぶ。


「重戦士!」

「弓術士、ですわ!」

「あ、えっと……こうかっ!」


 俺たちの()()()()横切るようにしてグラドタークを逃がしつつユーミルが着地。

 先程、俺が手本に見せたものに近い逃がし方だ。

 その判定は……


「アウト」

「アウトですわね」

「何でだ!?」


 ユーミルが不服そうに詰め寄ってくる。

 俺がそれに答えようとしていると、近付いてくる気配と足音が。

 一旦手でユーミルの動きを制し、視線をそちらに向けると……。

 トビがユーミルを真似るように、俺たちの前で速度を残した馬から軽やかに着地。

 それも空中で一回転してから……軽業師か、お前は。


「よっと! お待たせしたでござるよ、御三方。遠くから見ていたのでござるが……これは一体何を?」

「トビか。これは――」


 これは相手の職業クラスによって馬の逃がし方を変える練習だ。

 本来なら敵の装備を見て職業を素早く判断しなければならないのだが、俺たちはそれほど多様な装備は持って来ていない。

 故に直前で職を叫び、ユーミルがそれに応じて動きを変える……という形でやっている訳だ。


「ははあ、そういうことでござったか。では、今お二人が宣言した職は?」

「俺が重戦士で――」

「わたくしが弓術士ですわね」

「なるほど。そりゃ、アウトでござるな」

「だから、何でだ!?」


 お、これは楽できそうな予感。

 この前とは違い、自分から入ってきたのだからきっとトビが解説してくれるのだろう。


「……」

「……いや、そのまま解説してくれよ。何でこっち向いてだんまりなんだ?」

「――! おお、そ、そうでござるな。いつもの癖で、つい」

「偶には俺に楽させてくれ。で、何でユーミルの動きはアウトなんだ?」

「仮想敵は重戦士と弓術士。どちらも詠唱なしで動ける職で、片方はリーチが長くもう片方は遠距離型。で、あれば正解は……」


 トビが自分の馬に乗り、距離を取る。

 実演してみせてくれるのだろう。

 馬に乗ったまま俺たちの方に接近、やや距離を置いたところで正面を向いて停止。

 そして間髪置かずにすぐに降りると、武器を構えて馬を守るように前へ。


「こうでござろう?」

「……むう。それだと遠くないか?」

「正解」

「正解ですわね」


 トビなら馬を守らずに『縮地』で跳んで荒らしても良いのだが、模範解答としてはこれだろう。

 馬を無敵まで守り切った後で、攻撃に移れば安定する。


「は!? 納得がいかん!」

「ゆ、ユーミル殿、落ち着いて。ちゃんと解説するでござるから! ……ええと、まず重戦士の多くが持つ長めの武器のリーチを考え、距離はここ。更に弓術士に対して馬の横腹を見せるような……被弾面積を増やすような動きは、ご法度でござるよ。馬の天敵は弓矢と言ってもいいくらいでござるし」

「俺が最初に見せたのと、さっきお前がやった動きが適しているのは遠距離攻撃がこっちを向いていなかった場合だな。ついでに自分が近接職で、すぐに攻撃に移りたいって時用。一応、俺はユーミルのロングソードが届かない距離を横切ったんだぞ?」

「気が付かなかった……しかも、あれを基本にすれば良い訳ではないのか……」


 敵が油断しているか否か、こちらを向いているかどうかなどで条件は変わってくる。

 奇襲成功時は馬の状態は程々に、突っ込んで注意を引けば結果的に馬を守ることにも繋がるだろう。

 ある程度の安定行動はあれど、決して正解は一つではない。

 この練習はそれを知ってもらうためのものだ。


「その思い込みが怖いから、試しに動きを実践してもらったんだよ。お前、得意な型ができると何度か続けて繰り返すことがあるだろう?」

「あるな。飽きたら変えるが!」

「そのスパンが酷く短いから、PVPなどでユーミル殿の相手をする側は混乱するのでござるが……」

「規則性があったりなかったりで、相手としては非常に嫌ですわね……闘技大会のことを思い出しますわ……」

「まあ、要はそういうことだ。ユーミル」

「どういうことだ!?」


 ここまで言ってもまだ分からないか。

 仕方ないな……。

 さっきから作業せずにずーっとこちらを見ているプレイヤーもいるし、そろそろ纏めに入ろう。


「知識を頭に入れつつ、臨機応変にってことになるかな。簡単に言うと」

「それ、今まで通り勘に任せるのでは駄目なのか?」

「勘ってのは、その人の知識や経験の集積が無意識に発揮されているもんだと俺は思う」

「???」


 ユーミルが何を言っているのだこいつは? という顔をする。

 溜め息を吐きつつ視線を逸らすと、ヘルシャが俺に同情するような目をしているのが見えた。


「……知識がないと、自分の動きが正しかったかどうか判断できないだろう? 後から負けたことを振り返る時に、どうして負けたのか分からない状態になるんだよ」

「ああ、それは分かる! 凄く分かるぞ!」

「だからハインド殿なしでユーミル殿が過去にやっていた他ゲーは、ボロボロだったのでござろうし」

「うむ、ボロボロだった! 特に対戦系は途中から負けっ放しだった!」

「そんなあっけらかんと……宝の持ち腐れですわね」

「今は結果が出ているもんな……」


 ポテンシャルとしては、ちょっとの補助を加えてやるだけでトップに食い込めるほどだ。

 それを考えると、ヘルシャの言う通り非常に勿体ない。


「だから、お前の場合は……何となくでいいから、覚えた知識を頭の隅に。で、後は勘に任せて臨機応変に――で、いいんじゃないか? ただし、もし失敗した時は覚えた知識をしっかり思い出そうぜ。それができれば次への改善に繋がるはず」

「うむ、それなら何とかできそうだ。今までのやり方に、多少の知識をプラスする感じで良いし!」

「多少……多少かぁ……完璧にしろとまでは言わないけどさ……」

「困ったらお前に訊く! それでいいだろう!?」

「……いいけど」


 意識改革としては微妙な成果だが……。

 ユーミルの場合は変に考え過ぎてもリズムを崩したり持ち味が消えたりしそうなので、これで良いか。

 グラドタークに触れながら、みんなに視線を送る。


「ま、馬についてはこんな感じだなー。で、トビ。来て早々で悪いけど――」

「あ、全然構わないでござるよ。拙者、ゲーム知識の語り合いは大好物でござるし! 途中からでも参加できたのは僥倖ぎょうこうにござる!」

「そっか。じゃあ、話したことを軽く復習しながら一旦戻ろうぜ。シリウスのホームでみんなと合流して、止まり木からの連絡を待とう」

「ええ。新たな馬の到着が楽しみですわ!」

「一応、何かあったらいつでも駆け付けられるようにしておくとするか!」

「ああ。備えあればって言うしな」


 周辺の台地の景色、そして採掘に勤しむプレイヤーたちを見ながら俺たちは商業都市へと戻ることにした。

 しかし、属性石・宝石関係が採れるフィールドか……。

 後でセレーネさんをここに連れてきたら、もしかしたら喜んでくれるだろうか?

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