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戦果と改善点

「わ、私の出番は……?」


 PKたちが煙を上げながら倒れる中で、ユーミルが呆然と呟く。

 ほとんど残敵掃討の必要すらないほど、ヘルシャは敵集団を綺麗に焼き払った。

 後はセレーネさん一人のスナイプで事足りる程度だ。

 ユーミルもずっと『バーストエッジ』発動の機を窺ってはいたようだが……。


「ふふふ……まっ、わたくしの炎にかかればこんなものですわ!」

「馬が間抜けなことになっていた癖に……飼い主に似たのではないか?」

「なっ!?」


 ユーミルの挑発的な言葉に、飛びかからんばかりに前に出るヘルシャ。

 肩を掴んで止めたが……危ないって、落ちるぞ。


「しかしな、ユーミル。あの馬を育てて渡したのは俺たちじゃないか。忘れたのか?」

「はっ!? そ、そうだった……つ、つまり――」

「盛大なブーメランだな」

「くっ!」

「おーっほっほっほっほ!」

「とはいえ、ミスはミスだ。ヘルシャ、次からは馬の位置にも気を払ってくれ」


 下馬する際の馬の頭の向き、事前の指笛による位置調整などなど。

 馬は放っておくと自動的に戦場から距離を取って離れて行くので、頻繁に乗り降りする際は注意が必要だ。

 それを伝えると、ヘルシャは即座に頷く。


「へえ……そうなんですの。覚えておきますわ」

「割と素直に自分をかえりみるよな、ヘルシャって……」


 そういうものには反発しそうな性格なのに。

 するとヘルシャは、いつもの胸に手を当てて仰け反るポーズを取った。


「部下からの忠言を聞き入れるのも、次期当主たるものの役目ですもの!」

「俺はヘルシャの部下じゃないけどな」

「もちろん、ハインドはわたくしの大切な友人ですわ! あなたなら分かっていると思いますけれど、今は寛大な心のありようについて話をしたに過ぎな――」

「というかだな……いつまで同乗しているのだ、ドリル! 降りろ! さっさとそこから降りるのだ!」

「な、何をしますの!?」


 下馬したユーミルにヘルシャが引っ張られる。

 慌てて駆け寄ったワルターと共に、俺はヘルシャを地面に降ろした。

 続いてセレーネさん、カームさんが近寄ってきたところで自分もようやくグラドタークから降りる。


「あ、二人とも。お疲れ様」

「お疲れ様でした、ハインド様」

「お疲れ様、ハインド君。渡り鳥ではトビ君だけまだ戻ってきていないみたいだけど……」

「あいつは浅瀬を通らなかった連中を追っています。シリウスの一部のメンバーと一緒に。そろそろ戻ると思うんですけど」

「――ハインドさん?」

「!?」


 突然、背後――それもかなり近く、至近距離から声をかけられる。

 慌てて振り返ると、そこにはにっこりと笑うリィズの姿があった。


「り、リィズ? リィズもお疲れ。どうした、わざわざ背後から」

「ハインドさん。何も言わずに目を閉じてください」

「え? 何で――」

「閉じてください」

「でも――」

「閉じてください」

「……いいけど」


 こうなると何を言っても無駄なので、言われた通り目を閉じる。

 すると、シュッという何かを吹きかけるような音が数度鳴った。

 許可が下りたところで目を開けると……。


「……何か、服がちょっと湿っている気がするんだが?」

「すぐに渇きます」

「……何か、ちょっとスースーするんだが?」

「ええ」

「後、この香り……」

「ハッカ油をかけましたから」

「何で!? いや、ほんとに何で!?」


 俺が戸惑いを露にしていると、ユーミルと言い争っていたヘルシャが割って入ってくる。

 何やらショックを受けたような顔だが……。


「わ、わたくし、そんなに匂いますの!? 臭い!?」

「いえ、むしろ逆です。適量の高級香水を使った、上品な良い香りがします。全く鼻につきませんし、ソツがなくて腹立たしいくらいです。現実でお会いした時もそうでしたし……TBの再現能力は凄まじいですね」

「で、でしたら――」

「だからこそ消しませんと」

「なぜですのっ!?」


 あー、そういう……確かにいい香りで――あ、いやいや。

 俺がようやく事態を理解したその時、複数の馬蹄の音が鳴り響く。

 頭巾で目しか見えていないが、戻ってきたトビの表情は冴えないもので――。




 商業都市に戻り、シリウスのホームへ。

 場所は前回と同じ円卓が設置されているあの部屋だ。

 トビによると、湖を横断するルートを選ばなかったPKたちの逃げ足は速かったらしく……。


「レベルの割に戦闘は今一つなようでござったが、軽戦士の罠や閃光玉やらを巧みに利用され……」

「逃げられたのか。惜しかったな、あと少しで殲滅できたのに」

「面目ないでござる。しかし、まきびしはずるくないでござるか?」

「忍者のお前が言う台詞か? まあ、ともあれお疲れさん。……ところで、逃がしたPKの馬の速さはどうだった?」

「逃がした三人ほどの内、二人の乗っていたものはおそらく駿馬かと。拙者を除いて、シリウスのメンバーは誰も追いつけなかった故」


 それを聞いたヘルシャの表情が険しくなる。

 すぐにカームさんとワルターを呼び寄せ、何事か相談を始めた。

 馬の新調でも検討しているのだろうか……?


「……ヘルシャ、今夜はこれで解散でいいか?」

「――あら、そうですわね。もう遅い時間ですし……ただ、シリウス側はちょっと」

「ハインド。そっちはそっちで放っておいて、私たちはログアウトの準備をしよう。報告は今のトビのもので全部だろう? ――ということで、諸々の話は次回でいいか? ドリル」

「ええ。ログアウトはここでも、ホーム内の好きな場所でも、どこでも構いませんわ」

「そっか。それじゃあ、おやすみ」


 挨拶を交わすと、ヘルシャたちは部屋の外へ。

 やはりシリウス内で話し合いを持ちたいようだ。

 残された俺たちはすぐにログアウトせず、力を抜いて椅子に座った。


「何だ、ユーミル。珍しく気が利くじゃないか」

「うむ。実は正直、既にちょっと眠くてな!」

「そんなことだろうと思いました。存分に戦えなかったせいで、普段よりも退屈だったのでしょう?」

「ああ、そうか……次はもっとユーミルが動きやすい配置を考えるよ」

「頼んだぞ! あと、お前はドリルとの相乗り禁止!」

「あれは緊急措置だろうが……それよりも、今夜はシリウスの移動力の不足を結構感じたな。三人とも、解決策を検討するための話し合いに行ったんだろうし」


 PK襲撃の連絡を受けてからの配置場所への移動、そして最後の追撃。

 シリウスメンバーの作戦への参加率、そして統制の取れた動きは心底凄いと思ったが。


「そうでござるな。ヘルシャ殿、ワルター殿、カーム殿の馬は問題ないでござるが」

「あれだけのメンバーがいると、全員の馬の質を上げるのは大変そうだね……」

「もしシリウスが駿馬を揃えられそうにない場合は、どうするのですか?」


 リィズが最低駿馬は必要だろうということを含めて、問いかけてくる。

 TB内の駿馬はまだまだ数も限られるし、金を出せば手に入るものでもないからなぁ……。


「俺たちが遊撃専門のパーティになるしかないだろうな。主戦場はヘルシャたちに任せて」

「むっ、いい案のように聞こえるのだが……その割に渋い顔だな? ハインド」

「トビが理由を説明してくれるってさ」

「何で急に拙者!? え、えーと……今回のような戦いなら拙者たちが遊撃隊で問題ないでござろうが、相手の数、フィールドの地形、相手の強さで諸々変わってしまうのでござるよ」

「……ふむ。つまり?」


 トビがまとめきれずにこちらに助けを求めてくる。

 うーん、ちょっと無茶振りだったか……言葉にできないだけで、頭では理解できていると思うのだが。


「五人じゃ無理な時もあるんだし、シリウス全体の馬が速いに越したことはないってこと。場合によっては、余力のある味方全てが追撃隊に化けてもいいんだし」

「特に今夜行ったような誘導・殲滅に失敗した時ですね。PKたちの練度が高い――というと変ではありますが。基本的に烏合の衆ですし」

「うん、まあPKたちに暫定リーダーみたいなのが一人いるだけで違うしな。その場合はパーティ単位なりシリウスの分隊単位なりで追撃、分散した敵をできるだけ倒す――って感じになるんじゃないかな」

「そういうことか!」

「どうなるにせよ、ヘルシャたちの結論待ちだな。ってことで、今夜は解散しよう」

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