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商業都市と初心者の関係

 移動時間だけならそれほどでもなかったが……。

 PK迎撃、ログアウト、今後の相談と続いたため、結構遅い時間になってしまった。


「じゃあ、フレンドのみんなに今の話を纏めた内容のメールを……送っていいよな? ヘルシャ」


 最後にメールを送り、今日は解散ということに。

 内容としては情報はできるだけ共有、そして各自、自分たちの地域を守ってくれるとありがたいというものだ。


「ええ。そうすることに決めた経緯を含めて、詳細に伝えてしまって構いませんわ」

「ふむ、グレンがお前に懐いていないこともか?」

「そこじゃありませんわよ!! PKと何も関係ないでしょう!?」

「おおっ!」

「おおっ! ――じゃありませんわ! 全く!」

「神獣のお披露目を間に挟んだから、ごっちゃになってやがる……」


 この二人の会話に付き合っているといつまで経ってもメールが完成しない。

 程々にして、本文の書き込みに戻る。

 ええと、ここは定型文でいいとして……前後の部分はやっぱり、相手によって変えないとな。


「どうぞ」


 ――と、カームさんが紅茶を出してくれる。

 今の凄いな、動きが静かなのに作業に集中していた俺が驚かないような出し方だ。

 どうやったんだ? あえて事前に視界に入るように向かって来ていた? それとも……いや、今はいいか。


「ありがとうございます」


 カームさんは一礼すると、他のメンバーにも紅茶を勧めて回っていく。

 この時間にカフェイン入りの飲み物を飲めるというのも、VRならではの贅沢だ。

 少し置いてから一口――うん、俺が淹れたものよりも断然美味い。

 それからしばらくは、各自思い思いに過ごし……メールの送信を終えた俺は一息つく。


「お疲れ様でした、ハインドさん」

「リィズもな。調合の具合はどうだ?」

「この商業都市で新しく買った素材を使用してみましたが……私の手持ちでは今一つ活かせなくて。やはり、ある程度は自分の足で探しに行く必要がありますね。都市内で揃えることができれば、手間が省けたのですが」

「そっか。セレーネさんはどうです?」


 俺は続けて、買った鉱石類を吟味していたセレーネさんに声をかけた。

 彼女は少し高めのレアメタル系の素材もどんどん購入していたのだが……。


「うん、商業都市を名乗るだけあって売っている鉱石の質は高いよ。ただ、ここって完成品の売買のほうが盛んみたいだから……普通の鉄鉱石とかの量が、ちょっと」

「痒い所に手が届きませんか。この傾向って前からなのか? えーと……ワルター」


 ユーミルとヘルシャは未だに二人で雑談を続けているので、俺は視線を彷徨わせてからワルターのほうに向けた。

 ワルターは一瞬「えっ」という顔をしたが……。


「そ、そうですねぇ……完成品が多いのは前からですが、特に素材系の流通が厳しくなったのは周辺にPKが増えてからかと」


 すぐに丁寧に説明してくれた。

 PKが増えてから……?


「あ、もしかして薬草とか鉱石系の素材をここで売っていたのって――」

「他国を経由せずに、グラドで活動していた初・中級者かもしれません。少し行ったところに、低レベルでも入れる鉱山がありますし」

「借り店舗とか露店、知り合いへの委託を使えば取引掲示板を利用するよりも儲かるもんな。しかし……それが減っているってことは、もう実際に悪影響が出ているんじゃないか」

「そう……ですね」


 ここ『商業都市アウルム』は、PKが出没するエリアに比較的近い。

 だからこそヘルシャがそれを見咎めて、大手ギルドの中では早期に動き出したのだろうが。


「こりゃあ、益々締めて取りかからないと……」

「商業都市が名ばかりになってしまいますね……ボクも頑張ります!」

「ああ。動くのは明日からだけど、他の地域にいるフレンドにもちゃんとメールを送ったことだし。今日のところは――」


 ――と、早速返信が来た。

 ワルターに一言断ってから開いてみると……。


送信者:弦月

件名:PKの件、了解したよ

本文:私たちのほうでもPKの活動が活発になっているのは気が付いていたよ

ここルスト王国は、

ギルド戦の不甲斐ない結果もあって今では初心者を最も多く受け入れている地域だ

当然、彼らのやり方は到底受け入れられるものではないし、

アルテミスとしては全力を挙げて対応させてもらう

君たちのおかげで、奴らが現れるだろうフィールドの絞り込みは容易になった

感謝しているよ

この件で私たちの力が必要ならば協力を惜しまないので、その時は連絡を


「……だそうだ」

「はぁー……毅然としててかっけえ! 物凄い安心感でござるな! アルテミスに任せておけば、ルストはもう大丈夫な気すらしてくるでござるよ」

「文章からカリスマ性がにじみ出ているよな。しかし……」

「その結果があのギルド戦な訳ですからね。頼りになるからと言って、頼り切りはよくありません」


 リィズが言うように、また、俺たちがそう広い地域をカバーできないように、アルテミスだけでは無理だ。

 ルストのフレンドといえば、もう一組。


「ハインドさん、ローゼさんは何と?」

「今はログアウト中だけど、ガーデンはPKからの女性プレイヤーの保護もやっているから。動いてくれると思う」


 勢いを取り戻したギルド・ガーデンがある。

 あちらは総動員となるかどうか分からないが、活動傾向からして期待できるだろう。


「他のフレンドからもまだ返信は来ないが……まあ、これは弦月さんの反応が速いだけだし」

「――終わったのか!? そろそろログアウトして寝よう!」

「おわっ!?」


 ユーミルが俺を使って移動の慣性を殺し、椅子が斜めになる。

 それに巻き込まれたリィズが酷く迷惑そうに不機嫌な顔をした。


「分かったから走るな。睡眠を提案する人間がしていい動きじゃねえぞ、それ」

「そうか? ……む、そのメールは?」

「ああ、これは弦月さんからの――」

「私への果たし状か!?」

「うん。違う」

「!?」


 どうしてこの状況でそんな推測ができるのか。

 ユーミルの思考は時々、訳の分からない方向へ飛んで行くな。


「ある意味、PKへの果たし状と言えなくもないでござるが……」

「何の話をしていますの?」


 今度はヘルシャか。

 馬鹿馬鹿しい話ではあるが、ユーミルが弦月さんのメールを果たし状と勘違いしたことを話すと……。


「……あなたのライバルはわたくしでしょう?」


 などと、急にお嬢様がふくれっ面の不機嫌に。

 それに対するユーミルの答えは、


「お前は競争相手! 弦月はライバル!」

「……へ?」


 ヘルシャ、困惑。そりゃそうだ。

 見かねたセレーネさんとトビが俺へと目を向ける。


「えっと……同じような言葉に聞こえるんだけど……」

「……どう違うのでござるか?」

「ライバルよりは競争相手のほうが友達寄りかな……」

「そうなんですの!?」

「うむ!」

「合っているのでござるか……さすが幼馴染……」


 そんな話をしたところで、そろそろログアウト。

 ノクスを待機状態に――


「……あの、カームさん。そろそろ」

「……はい」

「まだノクスと触れ合ってましたの!?」


 膝に乗せてノクスを撫でていたカームさんが、名残惜しそうにこちらに返してくる。

 それにしてもさっきから驚いてばっかりだな、ヘルシャ……。

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