表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
555/1113

神獣・グレンの現在

 室内の空気は冷え切っていた。

 目の前にはキラキラした表情のヘルシャ、そして突き刺さる三人分の視線の圧力。

 誰か何か言ってくれ……そんな俺の願いをかなえてくれたのは、


「鳥肌といえば――」


 カームさんだった……が、その話題の振り方はちょっと。


「か、カームさん? 鳥肌から話題を製造するの、今はやめてほしいっていうかですね……」

「……これは大変失礼を。ですが、フクロウの――」

「ノクスですか?」


 気を利かせてくれたのだろうから、ここは乗っからないと。

 もちろん、ノクスは遠征に連れてきている。


「ノクス!」


 窓から名を呼んで指笛を拭くと、敷地内にいたノクスが飛来。

 ちなみに馬を呼ぶ際も指笛だが、馬は一回。神獣は二回連続で吹くことで、近くに呼び寄せることが可能だ。

 パーティが満員の場合でも、こうして神獣を連れ歩くことはできる。

 その様子を見たカームさんが、その場で手を上げたり下げたり。

 ……触りたいのだろうか?


「どうぞ、カームさん」

「よ、よろしいのですか?」

「もちろん」


 俺の意図を察し、腕を伝ってノクスがカームさんの腕の中へ。

 抱きとめたカームさんが驚きに目を瞠る。


「賢い……ですね」

「うむ、そうだろう! 何せ――」

「言っておきますが、ユーミルさんに似た訳ではないですからね?」

「!?」


 カームさんがノクスの羽をもふっと撫でる。

 ノクスが目を細める。

 それを見て問題ないと判断したのか、そのまま撫でる、撫でる……。

 もしかしたらカームさん、気を利かせてくれたのではなく、自分が撫でたかっただけなのだろうか……?


「可愛いらしさと気高さの同居……ですね」

「はい?」


 そして不意にそう呟いた。

 ノクスを褒めたのだと思うが……。

 俺たちが不思議そうな顔をしていると、カームさんはノクスを見つめたまま今の呟きについて解説を始めた。


「……猛禽類といいますと、凛々しさに振り切った容姿の鳥が多いですよね?」

「そうですね……タカ、ワシ、コンドルにハヤブサ……」

「どれも強者の雰囲気がマシマシでござるな。顔も鋭角的というか」

「えっと……フクロウはその点、丸っこくて可愛いってことですか?」

「はい、その通りです。セレーネ様」


 なるほど、丸っこいフォルムが可愛いと言いたかったのか……随分と間接的な表現を使ったなぁ。

 ともあれ、場の空気はそれで変わった。

 ノクスを撫でくり回すカームさんに、ヘルシャが苦笑する。


「カーム、程々にしなさいな。構い過ぎるとまた逃げられますわよ?」

「お嬢様もお触りになられたいのですか?」

「なっ……そそそ、そんなことは!」

「……分かりやすいやつ」

「ハインド!? 聞き捨てなりませんわ! そこの猪女と一緒にしないでくださいます!?」

「私はまだ何も言っていないだろう!? 何なのだ、リィズといいさっきから!」


 ユーミルを指差して叫ぶヘルシャに、当人が不満を露にする。

 ……俺へのプレッシャーはなくなったが、このまま放っておくのは駄目だろうな。

 PK対策の話に戻る前に、できればもう少し和やかに。


「――そうだ、ヘルシャ」

「何ですの!?」

「ノクスのお披露目が済んだところで、グレンを見せてくれよ。神獣選手権では見たけど、折角だから生で見たい」

「おおっ、それはいいでござるな。ヘルシャ殿、是非!」

「ぬ、ぐっ……も、もちろんよろしくってよ! グレン! グレーン!」


 ヘルシャが呼びかけるも、特に反応はない。

 来るのに時間がかかるというワルターのフォローを受け、少し待つことに。


「神獣選手権は拝見させていただきましたが……本当に大きくなりましたね、ノクス」

「あ、見てくださったんですか、カームさん」

「ボクも見ました! とてもドキドキする戦いで……!」

「わたくしも見ましたわよ! どうして一対一ではなく二対二に出場したんですの!?」

「いや、マーネと一緒に出したかったんだから仕方ないだろう……それよか、そっちはベスト4おめでとう。凄いじゃないか」

「やるではないか、ドリル!」


 前にメールでお祝いの言葉は送ったが、こうして直接言うのは初めてだ。

 リィズ、セレーネさん、トビも口々にグレンとシリウスの健闘を称える。


「あ、あり、がとう……そっ、そちらはベスト8でしたわね! 優勝できるだけの実力があったのに、スタミナ切れとは情けない!」

「何だと!? 実質前の試合が決勝戦みたいなものだっただろうが!」

「言い訳ですわね!」

「はっ、偉そうに! お前らだって準々決勝で文字通り燃え尽きていただろうが! 何だ、炎を纏って突撃って! 格好良いではないか!」

「えっ、あの……えっ!?」

「落ち着け、ユーミル。途中から普通に褒めてる」


 照れ隠しを含んだヘルシャの言葉を皮切りに、口を挟む暇なく言い合いが続いた。

 それが終わると、ちょうど何かの足音が……。

 やがて扉の下側にあった、色の違う部分がぱかっと開く。


「あ、グレン! こっちにいらっしゃい!」

「そこ扉だったのでござるか!?」

「犬とか猫用の扉みたいだ……」


 扉を通ったグレンの、細い楕円形の黒目がぎょろりと動く。

 こちらも大きくなったが、特に変わったところはというと……。


「普通にドラゴンに仕上げてきたよな……ファイアドレイクだっけ?」


 背に生えた小さな羽、短い二本の角。

 グレンはトカゲの姿を脱し、見事に竜へと変貌を遂げつつあった。

 神獣なので、共通の特徴としてミニサイズではあるが。


「ファイアドラゴンとはどう違うのだ?」

「さあ? そちらよりもレアらしいということしか分かりませんわね……」

「ファイアドラゴンよりも細身というか、あっちのほうがずんぐりむっくりでござるな」

「普通にファイアドラゴンに勝っていましたし、強いことは強いのでしょう」


 謎が残ると言えば残るが……グレンはキョロキョロと周囲を見回すと、のんびりとその場に屈んだ。

 あ、あれ?


「ヘルシャ……?」

「ぐ、グレン? グレン! ……駄目ですわ。ああなると、ほとんど言うことを聞きませんの……」

「き、気難しいんだね?」

「それで良く選手権を戦えたな、お前たち……ドリルが指示を出していたのだろう?」

「そうですわよ? バトルになると言うことを聞いてくれるのですが……はぁ」

「グレン」


 カームさんが短くグレンの名を呼ぶ。

 すると、屈んで目を閉じていたグレンが立ち上がり……今度は目を開き、ヘルシャの傍で指示を待つように座り込んだ。

 おぉう……。


「ドリル、お前……」

「……何も、何も言わないでくださいまし。どうもわたくし、カームよりも下に見られているようですわね、ええ。全く、この馬鹿トカゲは……!」

「でも、戦闘中はきちんと言うことを聞くんだろう? それを考えると、気のないふりしてヘルシャに甘えているだけ――とも取れるんじゃないか?」

「そ、そう言われると、可愛げがあるように感じないこともありませんわね……」


 ヘルシャが満更でもなさそうな表情でグレンに手を近づける。

 すると、グレンはふいっと首を避け……。


「……ハインド?」

「……すまん、俺もちょっと自信がなくなってきた」


 ドラゴンだし、普通の生き物とは感情表現が違うのかもしれない。

 しかし、撫でられるのを拒否しつつもヘルシャから離れたりしない辺り、嫌われている訳ではないのだということは間違いない……と、思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ