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怒れるお嬢様と協力要請

「どうしてたったの三十分で状況が悪化していますの!?」

「どうしてと言われても……って、何で俺に向かって言うんだ?」


 再ログインすると、お嬢様がぷりぷりとしていた。

 全員揃うなり、さっさと椅子に座れと促しての今の発言だ。

 次いで、こちらに向かってびしりと人差し指を突き付ける。


「何か対策を考えなさいな! ハインド!」

「いや、だから何で俺……」

「ハインドッ!」

「お、おう」


 そんな急に言われても、当たり前の――捻りのない普通の意見しか言えないぞ。

 俺は椅子に深く座り直して、円卓を指で軽く叩く。


「うーん……こっちも対抗して、PK通報用のネットワークを築くとか……」

「PK通報……なるほど。ですが、狙われているのは初心者に毛が生えたような――」

「お嬢様」

「……初心者から脱し切れていないような方々ですのよ。交友もそこそこ、ゲームに慣れていないようなプレイヤーたちが、果たしてスムーズに救援を求めることができるのかしら?」


 カームさん、言葉遣いに厳しいな。

 そして確かにヘルシャの言う通りで、狙われているプレイヤーたちを中心にネットワークを築くのは難しそうだ。

 頬を掻く俺に、トビが人差し指を立てて提言してくる。


「それだったら、拙者たちのフレンドに対してだけでも協力を要請しておいたらどうでござるか? 不穏な動きや噂があったら知らせてほしい、的な。そういった緩めのお願いならば、或いは」

「ああ、そうだな。早速やろう。ということで、その連絡を入れる間に何か考えておくから……ヘルシャ」

「……承知いたしましたわ」


 ということで、まずは自分たちのフレンドに協力を依頼。

 一人一人に対して文面を変え、ログインしていない人についてもメールを残しておく。

 各々そんな作業をしていると、しばらくして暇そうになったユーミルが俺の手元を覗き込んでくる。


「……うん? 何してんの、お前? フレンドへの連絡は?」

「終わったぞ。そもそも、私のフレンドのほとんどはハインドと共通ではないか。そいつらに二通送る意味はないだろう? 後は任せた!」

「少しは分担しようって気はないのか……リィズやセレーネさんを見習ってくれ」

「要領を得ない、勢いだけの文章を送りつけてもいいのならやるが!?」

「……やっぱいいや。お前はそこで座って待ってろ」


 ユーミルからメールを送られて喜びそうな相手というと……フォルさん辺りか?

 途中までポル君へのやつと共通の文章にして、最後にユーミルから一言だけもらうことにしよう。

 やがて一通りの送信が終わり……。


「こう見ると、一応俺たちは全地域にフレンドがいるといえばいるのか。ベリがちょっと薄いか?」

「一応、拙者の別ゲーの知り合いもいるでござるが……言われてみれば薄いでござるな」


『ベリ連邦』にはポル君、フォルさん、そしてメイさんがいるが、それは個人であって彼らのギルドそのものに伝手がある訳ではない。

 他の地域のフレンドは大きなギルドのトップだったりが多いので、連絡や情報提供も期待できるが……。


「ヘルシャのほうはどうだ?」

「……」

「……ヘルシャ?」


 ヘルシャに呼びかけるも、妙に反応が薄い。

 それどころか、何か死んだ魚のような目をしていないか……?

 見かねたワルターが小さく手を上げる。


「あ、あの、お嬢様には――シリウスにはですね……下に付きたい、いっそ吸収されたいというギルドは沢山沢山、それこそひっきりなしに来るのですが……」

「和風ギルドくらいですわ……対等な交流があるギルドは……」

「えっ……?」


 まさかのレイドイベントから交流ギルドが増えていない発言。

 何でそんなことになってんの……? ヘルシャ、非社交的って性格でもないのに。

 更に、カームさんが現状を嘆くように小さく首を左右に振ってから付け加える。


「和風ギルドについても、渡り鳥の皆様がきっかけを作ってくださった御縁ですから……」

「……ええ。ですのでシリウス全体と、その他の下部組織への周知徹底をしたらそこで終了ですわ。友人ではなく部下ばかりが増えるのは何故……? 一体どうしてですの……?」


 ちょっと偉そうな態度が基本ではあるものの、そこまで人に避けられるようなやつではないはずだが……。

 俺が言葉を返せずにいると、何やらユーミルが理解を示すように頷いた。


「ふっ、なるほど……ドリル! お前大方、友人の作り方がいまいち分からないのだろう!? 学校でもそうだという話を前に聞いた気がするしな! どうだ!?」

「くっ……否定できませんわ……」

「うっ……」

「……セッちゃん?」


 ああ、そういえばそんなことを静さんが……。

 社交界やら上流階級での付き合いのせいだって言っていたっけ?

 おべっかやら互いの家の権力やらが邪魔をして、幼いころから普通の友人を作れなかったって。

 更にはセレーネさんが流れ弾に当たって苦しそうにしている。

 最近は大学の友達ができたはずなので、少し前までの――高校時代のことでも思い出しているのだろうか?

 リィズがそれを気遣うように見ているが……気付け、ユーミル。


「まあ、ユーミル殿はどこでも大抵人に囲まれているでござるしなぁ……その上でハインド殿を最優先にしているのに、何で女子から嫌われないのでござろう……?」

「さ、最優先になど! し、して……いるが……余計なことを言うな、この馬鹿忍者!」

「ちっ……」


 今度は俺にトビの撃った流れ弾がヒット。

 顔を赤らめるユーミルとリィズの舌打ちが発する居心地の悪さに、無駄に椅子に座り直す。

 そして、そんな話を聞いて震えていたヘルシャがユーミルに噛みつく。


「だ……だったら、あなたはどうやって友人を作っているというんですの!? そこまで言うからには、コツの一つや二つは教示してくださるのでしょうね!?」

「そうだな……」


 ユーミルが腕を組む。

 こいつの行動は大体がフィーリングだと思うのだが。

 上手く友達を作る方法なんて、ヘルシャに教えられるのか?

 やがてユーミルの唇がゆっくりと開かれ……。


「何となく気が合うな、と思ったやつがいたら……」

「いたら?」

「適当に自分の都合に巻き込んで行け! それが終わった時に、余り嫌な顔をしていなかったら――そいつとは多分、友達になれる! 以上!」


 力強い言葉に、やがて横で聞いていたリィズが頭痛を堪えるように額に手を。

 ヘルシャは呆気に取られた後、反発するように円卓を両手でべしべしと叩いた。


「絶っ対に参考になりませんわ!? なったとしても参考にしてはいけないやつですわ!? わたくしの勘がそう告げています!」

「本っっっっっっ当にそうだよな……普通は真似しちゃ駄目なやつだよ……」

「毎度毎度巻き込まれるハインド殿が言うと、物凄い説得力でござるな……」


 やっぱり、こいつのやり方は強引過ぎて参考にならない。

 セレーネさんが感心したように何度も頷いているが……まあ、セレーネさんの場合は強引――というより、もっと積極的なほうが色々と上手く行くと思う。

 どうにもすっきりしない様子のヘルシャに、ワルターが助けを求めるようにこちらを見る。

 また俺か……? あ、いや、分かったからそんな泣きそうな顔をするな。

 ワルターがそういう表情をすると、酷い罪悪感が湧いてくるから。


「あー、まあ、何だ……ヘルシャはそのまま成り行きに任せても、きっと大丈夫だと思うぞ」

「……ですが、わたくしは」

「俺たちみたいな庶民とも友達になれたんだし、時間の問題だよ。それにさ」

「……?」

「ヘルシャは人間的に十分魅力があるし、それに気付く人は今後も沢山現れるって。だから、そんなに心配することはないんじゃないか?」

「――!」


 ヘルシャが先程のユーミルの言葉を聞いた時以上に、長く硬直する。

 ……あれ、元気にならないな。ちょっと言葉の選択を誤ったか?

 何かフォローを入れておかないと。


「そういう訳なんで、ヘルシャは今まで通りドーンと構えて……何だよ? みんなでこっちを見て」

「お……お前が」

「?」

「お前がドリルと今以上に仲良くなろうとしてどうする!?」

「いや、普通に励ましただけなんだが……?」

「ハインド君、だったらもうちょっと当たり障りのない……えっと、今のだと強くツボを突き過ぎているっていうか、薬が強く効き過ぎるっていうか……」

「えっ?」

「私もセッちゃんに同意します。加減を間違えましたね、ハインドさん……はぁ……」

「あっひゃっひゃっひゃっひゃ! ハインド殿、最高! ナイス!」

「……」


 困った俺が従者二人のほうを見ると、ワルターは何故か顔を赤く。

 カームさんは満足そうに小さく頷きを返し……。

 益々混乱した俺は、先程の自分の言葉を振り返る。

 ……あ。


「すまん、ヘルシャ。今のは本心だけど、気障きざで気持ち悪かったな。自分で言っておいて何だが、ほら。思い出したら鳥肌が……」

「そうだが、そうではないぞハインド! そこじゃない!」

「気持ち悪いの部分は否定しないのか……悪かった、ヘルシャ。忘れて――」

「いいえ!」


 硬直状態から復帰したヘルシャが俺の言葉を遮り、歩いて近付いてくる。

 そのまま俺の手を取り――


「わたくし、忘れませんわ。絶対に……」

「……そ、そっか」


 普段の自信に満ちたものとは違う、柔らかな笑みを浮かべた。

 何だこれ、二重の意味で恥ずかしい……。

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