シリウスのホームへの再訪
その後、俺たちは商業都市内の店を見て回った。
都市内の店は本当に多様で、商品の値段も質もピンキリである。
初心者エリアからは少々遠いが、もしここまで到達できれば色々と融通が利きそうだ。
途中で連絡が来たので掘り出しものなどは見つからなかったが……先のPK戦で失った物資のほとんどは調達することができた。
無論、焙烙玉などの特殊なアイテムは無理だったが。
そして、相変わらず巨大なシリウスのギルドホームへ。
「「「ようこそお越しくださいました」」」
「増えてる……執事もメイドも」
ギルドホーム前で、同じ格好で決めた男女が一斉に頭を下げてくる。
ユーミルがそれを見まわしてから何とも言い難い表情で呟いた。
「ほとんどはゲーム内だけのなんちゃって執事・メイドだけどな」
「現実のハインド殿と同じでござるな」
「ああ、まあ、その通りだ」
屋敷内の本職の人間でヘルシャと一緒にゲームをプレイしているのは、ワルターとカームさんだけだ。
この場にいるのはその雰囲気だけを味わいたい・執事やメイドをやってみたい人たちである。
故に……。
「お久しぶりー、ハインド」
「あ、先程はどうも。助かりました」
「勇者ちゃん、装備変わった?」
「む? いつの時との比較か分からんが、基本的にマイナーチェンジだけだぞ?」
「トビ殿、トビ殿。前に約束した女王様のスクショなんだけど……」
「あるでござるよぉ、スピーナ殿から譲り受けたとっておきが! ってか、殿はやめて。拙者と被ってる被ってる」
「セレーネさん、ナイフ系の武器のおすすめって何かありませんか?」
「あ、な、ナイフ系? ナイフ系ですか。ええと……」
「リィズさん、ダークネスボール吸着能力なんですけど……」
「検証しておきましたよ。そこまで極端なものではありませんが、多少は魔力の高さと連動するようです」
「それでは、お嬢様のところにご案内――お前らうるさい! 一斉に喋るな!」
最初の整列しての挨拶が限界で、後はこんな感じだ。
レイドイベントの時からの付き合いなので、何人かとはそれぞれ結構な交流があったり。
そのまま賑やかに通路を移動し、ギルドマスター用の専用ルームに到着。
中には会議にでも使えそうな円卓テーブル、部屋の奥の方にあたる位置にヘルシャが座っている。
挨拶もそこそこに俺たちが席に着くと、険しい表情のヘルシャが――
「ログアウトなさい」
「……は?」
「ログアウトですわ!」
開口一番、ログアウトを促してくる。
何事かと俺たちが怪訝な表情で応えると、静さん――カームさんが嘆息。
「お嬢様。いくらハインド様がお相手でも、それでは伝わりませんよ」
「ええい、じれったいですわね!」
「どうしたんだ、えーと……ワルター。ヘルシャのやつ、随分とささくれ立っているけど」
比較的近くに立っているワルターに小声で問いかける。
すると、やはりというか先程のPKが原因らしく……。
「ほとんどのPKに逃げられてしまいまして……それも、今回で二度目ですし……」
「ワルター、何をこそこそ話していますの!?」
「あ、はいっ、申し訳ございませんお嬢様! そ、それではこのままボクがご説明いたしますね!」
ヘルシャから雷が落ちる。
俺はワルターに「とばっちりを受けさせてすまん、それと説明ありがとう」という意図で目礼をしておいた。
ワルターが小さく笑んでから話を続ける。
「先程の集団PK、実はとあるPKのための情報サイトが原因とのことで……」
「とあるPKのためのサイトっていうと……セレーネさん?」
「複数候補はあるけど、一番大きなところは前にハインド君に話した……闇ギルド・マリス、になるかな?」
先程のPKの人数などから考えるに、それなりに力を持った元締めがいることは明らかである。
ということで、俺の視線を受けたセレーネさんは最も大きなサイトの名を挙げた。
ワルターが驚きを含んだ微笑を作りつつ、頷く。
「ご存知でしたか、さすがです。実はそのサイトで、襲撃場所だけを指定してPKの参加を募る、お祭りのようなものが催されているらしく……」
「ははあ、なるほど。それでログアウト――つまり、ログアウトしてそのサイトを見てこいと言いたかった訳でござるな」
「そう、そうですわ!」
「端折り過ぎだろう……いくら何でも」
「全くだ!」
「お前が言うな。ってか、いい加減に自覚しろっての」
「!?」
説明不足系女子・筆頭のユーミルが心外そうな表情をする中、俺はヘルシャに向き直った。
ちょっと話を整理しないと。
「ヘルシャ」
「何ですの?」
「大前提として、今回招かれた理由はこのPK撃退の手伝い……だと思っていいのか?」
「肯定いたしますわ!」
「……」
引き受けるのが当然と言わんばかりのヘルシャの態度に対し、カームさんが能面のような表情を向ける。
ここからだと横顔しか見えないけれど……す、凄い圧を感じる。
それを正面から見ていたヘルシャの表情が、分かりやすく引きつった。
「……で、ではなく……あなたたちにPK撃退の助力をお願いしてもよろしいかしら? 渡り鳥のみなさん」
そして言い直す。
うん、まあ、普段のヘルシャならしないような礼を欠いた言い方だったな。凡ミスと言ってもいいような。
余程PKのことが腹に据えかねているらしい。
あれだけ引っ張った依頼内容も、やけにあっさりと明かしてきたし。
俺たちは顔を見合わせると、それぞれが頷いた。
「……俺たちはブループレイヤーだし、特にPKを幇助するようなつもりもない。しかも襲われたのはサーラ国内なんで、シリウスに協力するのは全然構わないぞ」
「そ、そう……ですの」
ヘルシャが安堵と羞恥の混ざった赤い顔で僅かにそっぽを向く。
こういうところがシリウスの人員が増え続けている所以だよな……素直で分かりやすく、人間的に可愛らしいというか。
それを俺たちが生暖かい表情で見守っていると、ヘルシャは小さく咳払いをしてからこちらに向き直った。
「感謝いたしますわ。それで、話は戻りますけれど」
「ログアウトして、サイトを見てこいというお話ですね? それを見てから本題に入りたいと?」
「その通りですわ、リィズ。ということですので、今から三十分ほどあとにまた――」
「ここに集合だな! ログアウトはここでして構わないのか?」
「ええ、システム設定で許可にしておきますから。それでは」
ヘルシャの言葉を皮切りに、俺たちはバラバラとログアウトしていった。