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集団PKの余波

「うへへへへ……」

「……どうしたのだ? こいつは」

「どうしたんだろうな……」


 砦に戻ってトビと合流すると、何故だか妙にニヤついていた。

 砦内のプレイヤーたちは、既に各々の目的の場所に向かって移動を始めている。

 明らかに落ち込んだ様子の一部に関しては、おそらくデスペナルティを受けてしまった人なのだろう。

 復帰位置は砦内ではなく、グラド領内のここから一番近い町だろうが……PT内でも逃げ切れた人、逃げ切れなかった人。

 仲間を見捨てて逃げたパターン、或いは殿を請け負って一人だけ犠牲になったり。

 分断されたPTが、ここ国境砦を合流場所として集まっている。


「良くも悪くも、PKが切っかけで人間関係に刺激が……」


 フィールドに出ての喧嘩に砦内での口喧嘩、かと思えば成立したてのカップルのようなものまでいて中々にカオスだ。

 俺たちにも助けたプレイヤーからのお礼、助けられなかったプレイヤーからの逆恨みに近い声、一緒に戦ってくれたプレイヤーからの労いの言葉などなど、色々あったが……。


「ああいった場面では人の本性が出ますからね。ええ、出ますから」

「貴様、何だそれは……あそこでお前を庇ったハインドが、お前のことを一番大事に思っているとでも?」

「違いますか?」

「思い上がるな! 転んだのが他の――仮に私やセッちゃんだったとしても、ハインドはああしたに決まっている!」

「え、わ、私も?」


 セレーネさんが巻き込まれた……。

 俺は今の内に、トビの話でも聞いておくとするか。


「……で、どうしたんだ? お前」

「あ、実はさっき助けた武闘家の子とフレンドに……」


 それで浮かれていたのか。

 役得ってやつだな……。


「なるほど。そりゃあ良かったな」

「しかも結構可愛い子でござったし! ここは、是非ともお近づきに!」


 トビは未だに覆面を付けたままだ。

 もし多くの女子を魅了した素顔を見せずに、フレンドになれたのなら……。

 吊り橋効果だの諸々を差し引いても、今後のやり方次第でひょっとしたら脈があるかもしれない。

 トビはその子を助ける際にあまり格好いいところを見せた訳でもない。

 それどころか、思い出せる限りではちょっと格好悪いくらいだった。

 護衛に向かって囲まれ、最後はセレーネさんに吹っ飛ばされるオマケ付きだもんな。


「お近づきは結構だけど、鬱陶しくならない程度にな。お前、いつもそれで失敗するんだからさ」

「男女の距離感、それは永遠の命題なのでござるよ……」


 何だろう、トビの言動からいつも通りの失敗の気配が漂ってくる。

 これは駄目そうだ……。


「はいはい。ところで……」

「?」

「さっきのPK軍団、お前はどう思う?」


 俺の問いに、トビが少し真剣みを帯びた態度に変わる。

 こいつは他のゲームで大規模なPKKに参加した経験があるので、何か参考になる意見をくれるかもしれない。


「そうでござるなぁ……シリウスが駆け付けてくれたのでござったな? 最終的には」

「ああ、さっき話した通りだ」

「で、あればヘルシャ殿にお訊ねするのが一番早いでござろうが……装備のばらつき、所属ギルドのばらつき、襲撃時のフィールド侵入方向のばらつきを考えると……」


 トビの言葉一つ一つに俺は頷きながら聞いた。

 そして覆面を取り、「ここまで言えば分かるんじゃない?」という顔を向けてくる。


「PKの連合……ではないか。一応俺も、どのPKギルド主力なのか確認しようと思ったけど、異常な数のギルドですぐに諦めたからな」

「二十や三十は軽く超えていた気がするでござるな」

「ってことは……襲撃場所だけを決めて、不特定多数のPKに呼びかけた感じか……?」


 トビが大きく一度頷いた。

 どうやら同じ結論に辿り着けたらしい。


「拙者はそう読んだでござるよ」


 ゲームのこととなると本当に頼りになるな、こいつ。

 淀みなく言葉がポンポンと返ってくる。

 しかし、今はそのPKの性質が……非常に、非常にたちが悪い。


「そうだとすると、これは厄介なことになりそうだな……」

「左様にござるな。ヘルシャ殿の依頼がPK関連なら、誠に厄介でござるなぁ……」


 二人で唸っていると、背中に衝撃が走る。

 振り返ると、ユーミルが俺の背に突進してから肩に手を置くところだった。


「ハインド、どうなのだ!?」

「な、何が!? 何の話だ!?」

「あれは兄心……いや、父性――じゃなく、母性のようなものの現われだろう!?」

「どういう話の流れでそうなった!? っていうか、言い直すにつれて納得のいかないものに変化していないか!?」


 ユーミルの後ろからは言い争っていたのか、顔が少し紅潮したリィズと……二人の仲裁に入っていたのか、疲れ切った様子のセレーネさんが。

 すみません、セレーネさん……。

 と、とりあえず、この場を上手く纏めないと――


「あ、メールが……」

「ドリルからか!?」

「いや、ワルターから」

「同じことだろう! 何と書いてあるのだ!?」


 ナイスタイミング、ワルター……メールに助けられた。

 メールには予定通り『商業都市アウルム』で合流したい旨、それと、もしかしたら自分たちの帰還が俺たちの到着よりも遅くなるかもしれないことを謝罪してあった。


「――だってさ」


 一通りそれらの内容を伝えると、女性陣は顔を見合わせた。

 そして同時にこちらを向くと、順番に口を開く。


「では!」

「商業都市で――」

「ショッピング、だね」

「やっぱりそうなるか」

「商業都市でござるし、回復薬の補充も必要でござるし。買い物をしながらシリウスの帰りを待つとするでござるか」

「……うん、いいな。買い物、いいな!」


 商業都市は直接売り手と顔を合わせての買い物が可能だ。

 ということは、取引掲示板と違って色々と融通が……!

 俺が激しく同意しながら拳を握ると、それをユーミルが上から掴んで解いていく。


「……何すんだよ?」

「ハインドは気合を入れ過ぎるな。程々で良い」

「凄くありがたいんだけど、値切りも程々で大丈夫だからね……?」

「一つの店舗に時間をかけ過ぎないでくださいね?」

「遠征中でござるし、ウチの生産物の方が……とかいう考えはナシでござるよ? 妥協も必要でござる」

「ひっでえ!? 人を何だと思っているんだ!」


 状況に合わせた買い物くらい、ちゃんとできる。

 そんなこんなで、俺たちはシリウスのホームがある『商業都市アウルム』へと移動を再開した。

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