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輝く恒星の御旗

 残った手段は『閃光玉』による目くらまし位だが……。

 タイミングがシビアだ。

 手元にいるリィズはともかく、ユーミルとセレーネさんにそれをどうやって伝えるか。

 しかも、相手に悟られないようにそれを為す必要がある。

 ああ、こんな時のために何か合図でも作って――


「――ハインド!? まだか!?」


 包囲が迫る。

 一歩踏み出したPKに対し、セレーネさんがクロスボウを向けて牽制。

 しかし、もう大技を放つMPは残っておらず……それが精一杯のハッタリであることが分かる。

 ――ええい、もう考えている時間がない!


「みんな、目を閉じ――」


 俺が『閃光玉』を手に叫びを上げた直後、爆炎が広がった。

 不意打ちの攻撃は多数のPKを戦闘不能にし、包囲の一角を突き崩す。

 この高威力の火属性魔法は――


「オーッホッホッホッホ!」

「そしてこのテンプレートに沿った笑い声は!」

「誰の行動がテンプレですの!?」


 ユーミルに劣らず、通りの良い声がしたほうへ顔を向けると……。

 金の豪奢な髪に真っ赤なドレス、碧い瞳の白馬に乗った少女と目が合う。

 鞭を持った手と逆、掲げた手には魔法の余波らしき火の粉がチラついている。

 今の、『レイジングフレイム』か? リィズに向けて放たれたものとは威力が段違いじゃないか。

 そしてその後ろには、執事・メイド軍団がこれまた騎乗状態で登場。


「ヘルシャ!」


 それはギルド・シリウスの援軍だった。

 ほぼ全員で来たところを見るに、俺たちの迎えではなくPK出現の報を聞いて駆け付けたのだろう。


「ドリル! ドリルじゃないか!」

「ドリルじゃないといつも言っているでしょう!? この猪女!」


 これだけ離れた距離でスムーズに会話できるのも中々に凄いな。

 言い換えると、二人して声が馬鹿でかいということになるが。


「お嬢様、そのぅ……律儀にツッコミを入れている場合ではないような……」

「はっ!?」


 ワルターの言葉に、ヘルシャが視線を走らせる。

 シリウスの人員は、サブも含めて総勢七十名超。

 この場にいるのは全員ではないのだろうが、平均レベルもイベント参加率も非常に高い。

 その結果、PK軍団は……。


「逃がすんじゃありませんわよ! 追いなさい!」


 素早く逃げ散って行った。

 低レベルプレイヤーを狩ろうという連中なのだから、この判断は当然のものである。

 ――だが、それ以上に出足が……ヘルシャの姿を見た瞬間に逃げていなかったか? 一部の連中は。


「もう逃がしませんわよ! 観念なさい!」

「もう?」

「頭を抑えなさい! 同じ轍を踏むんじゃありませんわよ!」

「同じ轍……」


 ということは、このPKたちとシリウスが対峙するのは初めてではない?

 何だろう、段々と話が見えてきたような気がする。

 ヘルシャの頼みごとっていうのは、もしかしてPK(これ)関連のものなんじゃないのか……?




 バタバタと両陣営のプレイヤーたちが壮絶な追いかけっこを始める。

 馬に乗り損ねて戦闘不能にされるもの、味方を踏みつけて逃げるもの……PKたちは逃走手段を選ばない。

 絶対に自分だけは生き残る、といった必死の逃げっぷりだ。

 対するシリウス側は組織立った動きでPK軍団を追い込んで行く。

 遠距離攻撃で足を止め、近接で仕留めるという基本に沿ったやり方だ。

 PKの集団が四方に散ってしまった後は、今後の被害を減らすためか一人ずつ確実に葬っている様子がここから見える。

 どうも、頭を抑えろというヘルシャの指示は失敗に終わった模様。


「……」


 周囲に誰もいなくなり、俺たちは一様にその場で立ち竦んでいる。

 目まぐるしい状況の変化に置いていかれ気味だ。

 しかし、念のため回復はしておいたほうが良いような……。

 回復薬はもうないので、MPチャージをしながらになるが。


「全体的に速いよな、あのPK軍団……」

「うむ、確かに……ドリルたち、微妙に速度で負けているな」

「うん……あ、ありがとうハインド君。一応、私も周囲を警戒しておくね」

「お願いします」


 転移魔法やアイテムが存在しないこのゲームでは、足の確保が重要だ。

 即ち、PKたちが追撃を免れるかどうかは『所持している馬のランク』にかかっている。

 セレーネさんが周囲を確認して、大丈夫そうだとクロスボウをゆっくりと下ろした。


「……PKのデスペナルティは重いからね。PKにとって、馬はお金のかけどころなんだと思うよ」

「やっぱりそうですよね。俺も同意見です」


 資金源はPKで奪ったものなのか、それとも案外真面目にイベントには参加しているのか。

 分からないが、トビやセレーネさんによるとPK独自の支援組織なども存在するのだそうだ。

 以前話題に出たPK向けの情報サイトなどもあることだし……。


「一々癇に障る連中だ……自分たちの逃げる足だけはしっかり確保してあるのか」


 ユーミルが憤慨した様子でシリウスの追撃を見守っている。

 追撃の成果が程々に収まりそうなところから察するに、あのPKたちの沈静化にはやや遠いか。

 すぐにでもユーミルはグラドタークを使った追撃に加わりたいのだろうが、俺たちはとてもこれ以上戦える状態じゃない。

 遠くなっていく馬影を見ていたユーミルだが……急にこちらを向くと、今度はまた違った怒りの表情を向けてきた。


「――それはそれとして、だ。いつまでハインドに抱きついているのだ、貴様は!」


 俺に引っ付いたままのリィズに手をかける。

 リィズは意に介した様子もなく、益々深く抱きついた。


「はふ……幸せです……」

「幸せですぅ――じゃないっ! 離れんか! もしくは、そ、その……私と交替――」

「しません」

「貴様!? 転んで足を引っ張った上に独占する気か!? 許せん!」


 回復を終えて一息つくと、トビが砦から顔を出す。

 手を上げて安全が確保されたことを伝えると、トビは頷いて一度砦の中に戻っていった。

 他のプレイヤーたちに外の状況を知らせに行ったのだろう。

 少しすればこちらと合流するはず。


「何はともあれ……良かったよね、ハインド君。戦闘不能にならずに済んで」

「……そうですね」


 もうボルトがすっからかんだよ、と呟くセレーネさんと笑顔を交わす。

 ここで戦闘不能になった場合、間の町を経由していない俺たちは王都ワーハまで逆戻りだ。

 馬の休憩が必要なくても、一瞬だけでも町や村に立ち寄っておくのは大事だな……。

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