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国境の異変

 何度か通って慣れた道のりであること、それから馬が育っていることもある。

 移動にそれほど時間はかからない。


「おー、本当にレベル二十前後が多いな」


 国境付近まで来ると、初心者・準初心者といったプレイヤーが爆発的に増える。

 フィールドの取得が容易な素材が豊富なのはルストなので、あちらはもっと多いのだろう。

 国境砦が見えた辺りで、俺たちは通行の邪魔にならないよう馬を降りた。


「ハインドさん、そういえば集合場所はどこになったのですか?」

「普通にシリウスのホームがある、商業都市アウルムだ。この辺りまで迎えに来るって言っていたんだけど、馬足の差がな」

「そういや拙者たちの移動速度、冷静に考えるとゲーム内でも屈指でござるな」

「うむ。サイネリアが競馬イベントでそれを証明してくれたし、遠征の度に快適になっているからな!」


 サイネリアちゃんが中心となってみんなで育てた馬も、グラドタークを最大値とした際の……大体六割くらいの速度は出るようになった。

 スタミナも減り難くなり、途中の町や村で休ませる回数も少なくて済んでいる。


「では、さっさと国境を越えて――」

「逃げろぉっ!」


 ユーミルが声をかける途中、誰かの警告の叫びが響いた。

 次いで、多数の馬の足音と更に避難を呼びかける声が。


「PK! PKだっ! しかも数が多いぞ!」

「くそっ、例の初心者狩りだ! そこのPT、ヘラヘラ笑って見てないで逃げろ! 狩られたいのか!」

「迎撃する! レベルの高いやつがいたら手を貸してくれぇ!」


 そんな声に俺たちは顔を見合わせる。

 蜘蛛の子を散らすように、一部は国境に引き返し……。

 また、砦から遠いものはフィールドの四方へと散って行く。

 俺たちはその場で立ち止まり、馬を避難させてから武器を手に取る。


「……セッちゃん、見えましたか?」

「PKの数は……凄いね、三桁はいそうだよ。レベルの平均は……うん。揺れてて確認が難しいけど、結構レベルカンストが多い印象だね」

「マジでござるか。となると、カンストプレイヤーがこのエリアでPKする旨味は薄い故……憂さ晴らしの連中でござるな。おそらくは」

「そんなことをして――まあ、楽しいって人も中にはいるのか」

「どのゲームにもいるもんでござるよ。特に規約違反でもござらんし。マナー違反ではござろうが」


 そうは言いつつも、トビは俄かに騒がしくなった状況を見て楽しそうにしている。

 少し前に他のゲームでの似たような体験を話していたし、これもオンラインゲームの醍醐味ということなのだろう。


「俺たちはどうするんだ? ギルマス」

「正義だなんだと御託を並べる気はないが……自分よりレベルの低いプレイヤーを狙うという、その根性が気に入らん! 叩き潰すっ!」

「オレンジネームを倒せば賞金も出ますしね。いいでしょう」

「リィズちゃんは相変わらずドライだね……」

「……よし。みんな、囲まれて袋叩きに会うなよ? 相手のほうが数が多いんだ。状況が悪い時は俺たちも砦内に撤退するからな」

「分かっている! ……行くぞ!」


 襲われているプレイヤーを助けに入るユーミルに続き、俺たちも前へ。

 砦へと逃げるプレイヤーたちを援護しつつ、敵の機動力を奪っていく。

 馬上からの腰の入っていない攻撃でも、装備もステータスも差が大きいのだ。

 掠っただけでも致命傷になる。


「ハインド、私たちは馬で応戦しなくていいのか!?」

「統制の取れていない雑な突撃だから、下馬して迎え撃ったほうが確実だ! ――リィズ!」

「はい」


 逃げるプレイヤーとPKたちとの間にリィズが設置した『ダークネスボール』に、次々と馬と敵が吸い込まれていく。

 こういった状況ならリィズの闇魔法が非常に有効だ。


「お、おおお……掃除機か何かでござるかな?」

「俺らはゴミじゃねえぇぇぇっ!」

「あ、聞こえてた……そういう意図はなかったのでござるが。失敬!」

「ハインド君、フィールド側に走っている人たちは……」

「有志が何人か向かっていますから、そちらに任せましょう。PKの主戦力はこっちですし、俺たちは砦方面に集中で。それよりも、ちょっと数が……」


 倒しても倒してもキリがない。

 セレーネさんに答えつつ、俺は『エリアヒール』を近くのパーティの足元に設置。

 自PT以外への回復……いわゆる辻ヒールには『エリアヒール』が最適だ。

『ヒールオール』は自PTが自動的に指定されて発動するので、辻ヒールは不可。

 後は狙いを付けられる『ヒーリング』、それと『ヒーリングプラス』も辻ヒールには使えるがこれらはいざという時のために取って置く必要がある。


「ありがとう、本体! ……本体!? 本体じゃないか!? 何でこんなところにいんの!?」

「は、はい? 何でって……」

「ばっか、二度見してる暇はないって! 前! 前! 折角回復してもらったんだから!」

「うおおおお、PKのアホ! アホォ! 渡り鳥がどんな装備してるのか、直に見たいのにぃぃぃっ!」


 ……うん、騒がしい。余裕があるようで何より。

 レベル40台のパーティなので踏ん張るのは辛いだろうが、もう少し一緒に頑張ってくれ。

 俺たち以外に近くで戦っているのは、レベルカンストの三人パーティが一つと、後は……あっ!?

 いかん、あっちのパーティが半壊している!


「トビ、あっちが危ない! 頼む!」

「承知!」


 トビが『縮地』を使用して加勢に入る。

 神官は――残っているか。

 トビがアイテムで一人を蘇生させたので、どうにか立て直せそうだ。

 このPKたち、プレイヤースキルは程々だがレベルが高い上に数が多い。

 ……くそ、まだ逃げ遅れているプレイヤーがいるのか!?

 とにかく保護、保護だ!


「――どうするでござるか? ハインド殿。焙烙玉パーティしちゃう? みんなで一斉投擲しちゃう?」


 役目を終えたトビが再び『縮地』を使用して戻ってきた。

 どこもかしこも乱戦で、残念ながら既に何人かの低レベルプレイヤーが犠牲になってしまっている。

 俺たちがここまで爆発系の投擲アイテムを使っていないのには、理由がある。


「まだ駄目だろう。乱戦だけに、PK以外のプレイヤーを巻き込みかねないしな……俺たちの周囲にPKしかいなくなって、いざとなったらありだけ――どっ! 近いな!? 寄るなっ!」

「急所いただきっ!」


 俺が杖で押し出した敵の背をトビが斬り裂く。

 このPK軍団は統制が取れていないのか、攻めに法則性がない。

 それだけに、効果範囲の広い攻撃を行う際は注意が必要だ。


「……では、普通の投擲アイテムはどうするでござるか? あちらなら――」

「どんどん使え! 手裏剣なんて、後でいくらでも補充してやるから!」

「おっ、お許しが出たでござるな! それでは、いざ……」


 トビが『大型手裏剣』を投げ、PKが乗った馬の体勢を大きく崩す。

 ブーメラン仕様のそれは、大気を切り裂きながら唸りを上げて戻り――あ、珍しくキャッチに成功した。

 転びつつ全身で受け止めるようにしながら、だが。


「危なぁっ!? 危なぁっ!!」

「練習が不完全なもんをぶっつけ本番で使うな!? 他にもっと手軽なやつが色々あるだろ!」

「そ、そうでござるな!」


『大型手裏剣』をしまい、トビが攻撃に投擲を混ぜつつ駆け出した。

 使用しているのは体の各部に仕込んだ『棒手裏剣』だ。

 手数が増え、良い感じに撤退するプレイヤーの援護になっている。


「……牽制にはもってこいですが、物凄い消費量ですね」

「WTも短いしな……しかし、投擲アイテムや回復アイテムはこういうところでこそ使わんと。ケチっても仕方ない」

「では、せめてPKをもっと……もっと、もっと戦闘不能にして、所持金、装備、首にかかった賞金をむしり取ってやりましょう。戦いを終えた時に、収支がプラスになるように」

「お、おお。随分とやる気だな? リィズ」

「口では何だかんだ言っても、やっぱり優しいなぁ……気に入らないんだ、あのPKたちのやり口が」


 リィズが静かに燃えている。

 それに対し、バックステップを踏んだユーミルが剣を構え直しながら笑みを浮かべる。


「珍しく意見が合うな! ギルド戦に比べれば、この程度の集団戦はなんてことあるまい! 全員私の剣の錆にしてくれる! せやぁっ!」

「ユーミルさんはいつも通りだね。でも、あの――」

「拙者の手裏剣が唸るぅぅぅ! やばい、楽しい! 縮地と投擲を混ぜると超楽しいでござるっ!」

「ええと……」


 思いの外燃え上がる三人の闘志に、セレーネさんが困り顔をこちらに向ける。

 どうしたのだろう? 今の状況なら、三人をこのまま乗せておいてもどうにかなると思うのだが。


「……セレーネさん、どうかしました? 何か――」

「あっ、ハインド君。その……私の目が正しければ、PKの増援があっちから来ているように見えるんだけど……」

「「「……えっ?」」」


 その言葉に耳を澄ませば、響く多数の馬蹄の音、そして……。

 視線を向けると、馬の上下に合わせて揺れるオレンジ色のプレイヤーネームの塊がそこにはあった。

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