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協力プレイのお誘い

「メイド服は、基本的にヴィクトリアンメイドとフレンチメイドというものに大別されるそうですよ」

「ほう……その二つはどう違うのだ?」

「っていうか、まだ続けるのか? この話題。ゲームの中でまでさぁ……」


 TBにログインしたら忘れてくれるかと思ったら、未だにメイド服の話をしている。

 今はイベントのない時期なので、談話室で座りながらのんびりと集合待ちだ。


「まあまあ、いいではないか。折角なのだし!」

「何が折角なのかは分からんが……シュルツ家のはヴィクトリアンメイドに近いやつだな。伝統的で上品な」

「おお、そうなのか。では、フレンチメイドというのは?」

「あー、それは……」

「露出が多かったり、機能よりデザインに重点が置かれたものをそう指します――という説明で良いですよね? ハインドさん」

「うん、良いと思う」


 当たり障りのないナイスな説明だ。

 フレンチスタイルは踏み込んだ説明をすると色々と面倒である。


「……? そうか。では、ミニスカートのメイド服とかはそっちなのだな」

「そうなるな」

「メイド喫茶とかのも?」

「あれは――」

「あれは海外からはジャパニーズメイドと呼ばれるスタイルでござるよ! 日本独自のアレンジが加えられた、その二つとはまた違う種類のものと言ってもいい可愛らしさのみを追求した極上のスタイルぅ!」

「うわっ!?」


 ログインの光をキラキラさせながら、トビが全力で会話に加わってくる。

 ちなみに俺のメイド服に関する知識はこいつから得たものだ。得たというか、吹き込まれたというか。

 リィズはログイン前にスマホかPCで軽く調べたのだろう。


「拙者は断然ジャパニーズメイド! 中でも色気を残しつつ、ちょっとヴィクトリアンスタイルに寄せたやつがベスト! いや、マスト!」

「そこまで聞いてないのだが……?」

「マストって……他のスタイルを否定するなよ。見識が狭いぞ」

「純粋に気持ち悪いです」

「フハハハハハ! 気持ち悪いは褒め言葉にござるよ! ……あ、みんなこんばんは」

「ああ、うん……」


 俺の隣へと座り、話を続けたそうにするトビ。

 しかし、空気が冷え切っていてそんなムードではないんだが……。

 仕方ないな。


「……実際に日本では余り存在しない職だよな、メイドさん。マリーのとこは海外から出向だから別として」

「日本で近いものというと、家政婦や女中になるでしょうか?」

「あー、着物に割烹着もいいものでござるなぁ。あれはあれで趣が」

「何でもアリだな、お前」

「ところで、どうしてメイドさんの話をしていたのでござるか?」

「うむ、それはだな!」

「待て待て、ユーミル。お前が説明すると絶対にややこしいことになる。ここは俺が」


 トビに簡単に経緯を説明する。

 司の名誉のため、あのメイド服は発注ミスで出たものだということにしてある。


「なるほど。ハインド殿、そのメイド服……」

「見たいなら早めに来ないと、ただの高級な布になっちまうぞ」

「いや、それもあるのでござるが。折角だから、解体する前に誰かに着せないのかと思ったりしたのでござ……あれ?」

「ふふ、ふふふふふふ……どう返事をしたらいいか分かっているな? ハインド……」


 ユーミルが暗い笑みを漏らし始めたのを見て、トビが表情を引きつらせる。


「……ハインド殿、どゆこと?」

「……サイズが小さめなんだよ、そのメイド服。仮にあれを着られるとしたらリィズだな……」

「ああ……」

「ついでに言うと、俺がメイド服を好きだっていう疑惑をかけられていてな……」

「なーる。拙者としては、本当にそうなってくれてもウェルカムでござるが? 語り合おうぜ!」

「無理。俺もメイド服は可愛いと思うが、お前ほどの熱量はねえよ」


 ひそひそと早口でトビと話し、ユーミルが不審に思わない内に声の大きさを戻す。

 今ので十分、トビには事情が伝わっただろう。


「まあ、そもそもオーダーメイドだからリィズにだってきちんと合うかどうか。だから、あれは誰にも着てもらう気はねえよ」

「残念でござるなぁ……」

「もし着てみたいなら、このTB内でサイズが合ったものを作ればいいんじゃないか?」

「――それだ!」

「あれ、意外と乗り気だな……」


 そんなにメイド服を着たかったのか? と思ったら、どうやら違うらしい。

 リィズが一つ頷いて、珍しいことにユーミルの援護に回る。


「ユーミルさんといえど女子ですからね。色々な可愛らしい服を着てみたいのでしょう、ユーミルさんといえど」

「貴様!」

「私も興味がない訳ではありません。もちろん、ハインドさんがお望みになる服が一番ですが」


 まあ、毒が混じっているのはいつも通りだが。

 メイド服だからという訳ではなく、可愛い服は着てみたいという素直な欲求らしい。

 しかし、そうだよな……TB内なら、無料で色々な服を着ることができる。

 そういったものも仮想空間ならではの楽しみ方の一つだ。


「そっか。じゃあ、カームさんにTB内のメイド服の作り方を教えてもらうか……」

「ハインド殿なら、見様見真似で作れるのではござらんか? ほら、今ならログアウトすればリアルなサンプルもあることでござるし」

「服の構造はそうだが……どうせ作るなら、防御力も持たせてみようかと」

「あー、そういえばあの執事メイド軍団は戦闘力も高かったでござるな。なるほど」


 さすがに最新式のものは教えてもらえないだろうが、基礎的な作り方ならば。

 タダでという訳にもいかないので、何か必要なものや要求がないかを訊ねつつがいいか。


「まだセレーネさん来ないし、メールしてみる。カームさん、ログイン中みたいだし。お前らは、えーと……」

「では、お二人には私の回復薬の開発を手伝っていただきましょうか。止まり木からの依頼もありますし」


 リィズが俺の言葉を引き継いで、そんな提案をしてくれた。

 そういえば、取引掲示板に出回っている回復薬に効果が負け始めているとパストラルさんが言っていたな。


「じゃあ、ユーミルとトビはリィズを手伝ってやってくれ。場所は?」

「ここで問題ありません。道具も用意してありますから――お二人とも、お願いしてよろしいですか?」

「うむ、分かった」

「了解でござるよー」


 メールを作って送信すると、それほど待たずに返事が戻ってくる。

 どうやら、幸いなことにカームさんは手が空いていたようだ。

 何度かやり取りをしていると……。


「……うん?」

「どうした、ハインド!」

「ちょ、ユーミル殿、こぼれてるこぼれてる!」

「あなたは話しながら作業なんてできないんですから、どちらかにしてください」

「あー……」


 ユーミルがすり鉢の中身をテーブルの上に落としている。

 ……声を上げるタイミングが悪かったな。

 少し落ち着くのを待って、俺はみんなにメールのやり取りの内容を要約して話した。


「結論から言うと、メイド服の作り方は教えてくれることになった」

「おお! それで? すぐに作れるのか?」

「いや、詳細はまだ。で、お返しに何か必要なものとかありませんかって訊いたら……なんか手を貸してほしいって頼まれてな。カームさんじゃなく、ヘルシャがそう言ったみたいなんだけど」

「ふむ、手を……?」

「協力プレイのお誘いでござるか!?」

「だと思う」


 カームさんのメールの文面は丁寧で、率直だ。

 ただしやや簡素なので、書いてあること以上の情報を推測するのは難しい。


「つまりそれは、グラド帝国に来いという話と思って良いのでしょうか?」

「多分……ちょっと待ってな。今、メールで詳しい話を訊いてみるから」


 ゴリゴリと潰される薬草の香りが漂う中で、俺は再度メールに文章を打ち込み始めた。

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