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支援型神官の本分

 TB、小神殿内は往時に比べ人が少なく快適だ。


「ってな訳で、リコリスちゃんと二人で決闘に行ってくる」


 今日はリコリスちゃんとの約束を果たすべく、イベントが終わって落ち着いたここに足を運んでいる。

 俺が杖を片手に、もう片方の手を上げながら告げると……。

 何故かユーミルは返事をしない。

 俺の横を通って、リコリスちゃんの両肩に手を置く。


「あ、あの? ユーミル先輩?」

「――今日だけだぞ、リコリス」

「えっ?」

「ハインドを貸すのは今日だけだからな!」

「えーと……」

「分かったな!? 今日だけだからな!?」

「は、はいっ!」

「よし!」

「何がよしですか、何が」


 リィズがリコリスちゃんの肩に置かれた手をどかしながら渋面を作る。

 俺は完全に事態から置いてけぼりだ。


「ハインドさんはあなたのものではないでしょう?」

「相棒権を主張する!」

「相棒権って何だ……? まあ、とにかく行ってくるよ。お前たちはどうする?」

「普通に二人の戦いを横で見ているぞ」


 ユーミルに続き、他の面々も同意するように頷く。

 何だかんだでフルメンバーなんだよな、今日も。


「特にすることもないでござるし」

「先輩とリコが組んだらどうなるのか、興味あります」

「あ、私も興味あるかな」

「そうですね。リコをお願いします、ハインド先輩」


 予定としては二、三戦ほどやってみるつもりだ。

 俺はサイネリアちゃんの言葉に頷くと、リコリスちゃんに視線を合わせる。


「じゃあ、行こうか」

「ははは、はい! わ、私では力不足かもしれませんが!」


 何でこんなに緊張しているんだろう、リコリスちゃんは……。

 俺とコンビを組むなんて、全然大したことではないと思うのだが。


「リコリスちゃんはもう完全に一線級のプレイヤーだよ。だから力不足だなんて、そんなことない――っていうか、今はむしろ俺のほうがどうなんだ? 最近は専ら五対五ばかりだったからなぁ……」

「やっぱり人数が変わると、勝手が違うんですか?」

「そりゃそうだよ。具体的には――」


 話しながらポータルを操作しながら、立ち回りの違いについて簡単に解説しておく。

 するとユーミルがじれったそうに、トビが暇そうに、シエスタちゃんが眠そうにしていたので……解説は程々に、全員揃ってポータルへと突入。




 パーティを組んだメンバーのランクやレートに差がある時は、平均値を参照して対戦相手が決定されるそうだ。

 だから俺とリコリスちゃんの場合は、Aランクの上位……もしかしたらSランク下位のコンビがギリギリ選ばれるかも、といったところ。

 初戦の相手はどちらもAランク、大体リコリスちゃんと同程度だろうか?

 レート的には格下ということになるので、これに負けた場合は俺一人のレートだけ極端に下げられるだろうが……。


「あいたっ! ――あれっ、当たったのにHP減ってない……」

「リコリスちゃん、早めに片付けて救援を! 救援をぉぉっ!」


 接近戦が不得手の俺が、敵と近距離で対峙しながら『ヒーリング』を唱えることができたのは奇跡に近い。

 この弓術士も接近戦が苦手のようで、今のところどうにか均衡を保てている。


「リコリス、一人でなく二人とも止めるつもりで行け! でないと、ハインドの持ち味が活きないぞ!」

「あっ……そっか、そういうことですか!」


 ユーミルの助言に、リコリスちゃんの動きが変わる。

『シールドバッシュ』で目の前の武闘家を下がらせると、こちらの弓術士に対しサーベルを振り下ろす。


「ハインド先輩!」

「ああ、任せるよ!」


 リコリスちゃんに一対二を強いることになるが、支援型サポートタイプの神官は魔法を唱えてこそである。

 最近練習していた中衛の動きはいわば緊急時の対処用、俺の職業からすると邪道だ。

 溜まったMPを用いて、矢を躱しつつリコリスちゃんに各種バフを次々と投入。

 ステータスの底上げにより、劣勢に立たされていたリコリスちゃんが二人を相手に互角に。

 仕上げに……。


「わっ、エリアヒールです! HP満タン! 元気も満タン!」

「補充しなくても元気は大概満タンじゃん、リコの場合」


 シエスタちゃんのそんな呟きが耳に届く。

 戦いはそのまま『シールドバッシュ』による大きなノックバックを利用しつつ、リコリスちゃんが脆い弓術士を戦闘不能に。

 残った武闘家から降参が宣言され、初戦は勝利に終わる。

 更に二戦、三戦と続けて行くと……


「楽しい!? 全然HPが減らなくて楽しいです! ユーミル先輩みたいに、突撃し放題です!」

「それは結構だけどリコリスちゃん。段々動きが雑になっているよ」


 こうやって傷を癒しつつ、個の力を極限まで増大させることこそが支援型サポートタイプ神官の本分だ。

 ヒーターシールドとサーベルを振り回すリコリスちゃんは、バフを受けつつ雑ながらもきちんと二人を抑え込んでいる。

 相手は重戦士二人の攻撃的な組み合わせ。

 ……なのだが、リコリスちゃんの盾が非常に効いているな。


「す、すみません! 集中、集中……そこっ! ハインド先輩には近付かせません!」


 サーベルで一撃を浴びせ、SAを剥がしてからの『シールドバッシュ』。

 そして突破を図るもう一人にはサーベル、サーベル、反撃を誘って『シールドカウンター』。


「OK、盤石! その調子!」

「な、何てこと言いやがる本体! うげぇ、マジで近付けなくて吐きそう……かといってリコリスちゃ――リコリス狙っても、ダメージより回復力のが上とか……」

「俺、シールドバッシュが強スキルに見えてきた……」


 相手は既に諦めムードを漂わせてはいるが、最後まで戦い切る方針のようだ。

 こちらの隙やミスだけは絶対に見逃すまいと、目をぎらつかせている。

 その意気や良し。


「たあっ! ……これが癖になったら駄目なんでしょうけど、何だか新感覚です! 機会があったらまたお願いします、ハインド先輩!」

「ああ、構わな――」

「こらーっ!」

「「!?」」


 ユーミルの大声がやや遠くから届く。

 そんな位置でよく俺たちの会話を聞き取れたな……。


「地獄耳……」

「こらー……つまり大喝を使えということですね!? 分かりました!」

「ちっがーう!!」


 二人組は最終的に「ランペイジチャレンジ!」とわざわざ叫んでからチャージを始め、リコリスちゃんにチャージを中断されて撃沈。中々に愉快な連中だった。

 そしてリコリスちゃんがユーミルからの一方的な約束を思い出したのは、この戦いが終わってからである。

 謝り倒すリコリスちゃんに、結局何だかんだで「偶になら構わん! ……偶にだぞ!? 偶にだからな!?」という言葉で締めた辺り、ユーミルらしいといえばらしいが。

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