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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
ランクシステムとランクアップのすすめ
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決闘翌日

 リコリスちゃんとホリィ、二度目の決闘の翌日。

 TBの談話室では元気の有り余ったノクス、マーネが飛び回り……。

 これまた元気の有り余ったユーミルがその相手をしていた。

 現在ログイン中のメンバーは俺とユーミルだけである。


「来ないな、リコリス」

「だな……」


 昨夜、ホリィとの決闘が終わった直後にリコリスちゃんはダウン。

 へろへろの状態でログアウトしていったのだが……。


「色々とお礼を言いたいから休まずに来る、って連絡はあったんだけどな」

「無理はするなと――」

「伝えたよ。それでも来るって」


 ゲームで私生活に支障を来たすことがないようにする、というのは俺たちの間の暗黙の了解だが……。

 本人が大丈夫だと言うのであれば、信用するしかない。

 ユーミルは頷くと、ノクスのほうへと向き直る。


「そうか……よし、ノクス! インメルマン・ターンだ!」

「無茶振りやめろ。ノクスが困っているだろうが」

「え? 私はできると思うのだが……」


 見解の不一致に俺たちが互いを見ていると、マーネが俺の手の平へと飛び移ってくる。

 当のノクスはユーミルの腕から天井を見つめて、切なそうな目をしており……。


「あ、もしかして天井がないような……広い場所だったらできるのか? ノクス」

『ホー!』


 返事をした……の、だろうか? 凄いな、ノクス。

 その手の単語を認識可能なように調整しているTBもTBだが。

 そんなノクスの様子に、ユーミルが鼻息も荒くどうだと言わんばかりの顔を見せ付けてくる。

 こいつ……。


「みんな揃ったら、二羽を外に出してやりたいな。運動不足だ!」

「神獣に運動が必要なのかは分からんが……うん、その辺の仕様も判明していないしな。今日は生産活動とか、フィールド狩りにでも出るとするか」

「うむ!」


 話をしながら待っていると、やがて次々といつものメンバーがログイン。

 件のリコリスちゃんはというと……。


「はふー……」

「ふわぁー……ねむ」


 随分とフワフワした状態でログインしてきた。

 シエスタちゃんと並んで脱力状態で椅子に腰かけている。


「シエスタちゃんが二人いるみたいだ……」

「本当ですね……まあ、いつも通りの人は別として。リコリスさん、頑張っていましたから」

「うん、こうなるのも仕方ないかな……サイネリアちゃんの話では、いつもならこの状態になってから丸一日もあれば回復するって話だよ。だから明日には元通りじゃないかな?」

「マジですか。回復力高いな」


 リィズ、セレーネさんと共にダレる二人を見ているとサイネリアちゃんが小さく頭を下げた。


「すみません……私も無理をしないほうが、と言ったのですけれど。どうしてもお礼をとリコが」

「――あ、す、すみません! ついボーっと! ええと、昨日は、あの……」


 サイネリアちゃんの言葉が耳に入ったのか、リコリスちゃんが急に立ち上がる。

 それから慌ただしく装備、訓練の手伝い、助言などなど、俺たちに順番に礼を言って回り……。


「ハインド先輩の最後の言葉は効きました! 騎士の誇りっていう言葉の意味はよく分かりませんでしたけど……」

「え」

「先輩……ぷふっ」


 シエスタちゃんは小さく噴き出すと、そのまま笑いを堪えるようにプルプルと震え出す。

 ま、まさか……全然意図が伝わっていなかったのか!?


「何だか、騎士の誇りを! 騎士の誇りを! って頭の中で繰り返していたら、力が湧いてきました! そしたら、体が光って盾に――」

「ま、まあ、スキルって単語を頭の中で念じるだけで発動するからね……」

「酷い天然ぶりでござるな、リコリス殿……」


 どうやらスキルが発動したのは偶然に近い現象だったらしい。

 暴発防止のため、スキルはしっかり意識的に単語を頭の中で唱える必要があるのだが……。

 一歩間違えればあのまま押し切られて負けていた訳か。

 推測するに、リコリスちゃんの記憶の片隅には『騎士の誇り』というスキルの存在が多少は引っかかっていたのだろう。

 そうでなければ不発だったはず。


「騎士の誇りっていうスキルの存在を思い出したのは、今日になってからです。授業中に急に思い出しました! ああ、あんなの取得していたなぁって」

「それでリコ、授業中に急にわたわたしてたんだ……」

「あっはっはっはっは!」


 不意に笑い声が響く。

 笑いといってもその中に嫌味はなく、爽やかささえ感じさせるその声の主は……。


「あ、どうも。弦月さん」

「来たか、弦月!」

「やぁ、ハインド。ユーミル。それに渡り鳥、ヒナ鳥のみんな」

「げ……弦月さん!?」


 片手を挙げ、髪をなびかせながら颯爽と弦月さんが談話室に入ってくる。

 驚いたような声を出したのはリコリスちゃんだ。

 リコリスちゃんは最後にログインしたからな……一人だけ連絡が漏れてしまった。


「さっき、ギルドホームに来てもいいかってメールをもらってさ。すみません、弦月さん。出迎えもせずに」

「いいんだよ、知らせた予定の時間より早く着いてしまったのはこちらだ。こちらこそすまないね、勝手に上がり込んで」


 TB内のローカルルールとして、ホームへの入場許可が出されている場合は勝手に入ってもOKというものがある。

 だからといって遠慮もなしに踏み込むのはトラブルの元だが、弦月さんのように後からでも一言あれば何も問題ない。


「扉が開いていたので聞こえたのだが、相変わらず面白いね。君たちの会話は。それと実は、昨夜私もあの会場――ホリィとリコリスの決闘が行われた場にいたんだ」

「ええ!?」


 リコリスちゃんが二連続となる驚きの声を上げた。

 それに対し弦月さんが優しい笑顔で間を置いてから、再度口を開く。


「あの試合の少し前になるかな? ログインしてポータルを操作していたら、観戦リストに連勝中のホリィの試合が見えてね。ホリィには、どうしてよりによってそのタイミングなのかと怒られてしまったが」

「見ていらっしゃったんですか!? 恥ずかしい!」

「恥ずかしいことなんてないさ。立派な戦いぶりだったよ、リコリス」

「うむ! そうだぞ、リコリス!」

「は、はいっ! お二人にそう言って頂けると光栄です! 幸せです!」

「ふふっ。ウチのホリィ、昨夜は実に悔しそうで――」


 その言葉に、弦月さんの背中からぴょこっと飛び出した一房の髪が震える。

 ……入った時から気になっていたのだが、そろそろ触れてもいいだろうか?


「あの後、何戦もしてリコリスを探したそうだよ。それで――」

「……あの、弦月さん」

「うん?」

「その、後ろに見覚えのある子……というか、サイドのテール的なものが見えるんですけど」


 俺の言葉に、今度はびくりと硬直して動きが止まった。

 一度も顔を見せていないのに、何だかその人柄の一端が分かりやすく表れているような。

 弦月さんは苦笑すると、そろそろ出てきなさいと言ってその背を押した。


「お察しの通り、今夜は私の弟子……のような存在のホリィを引き会わせるためにお邪魔させてもらったんだ。無所属だが、アルテミスのメンバーとは顔馴染みでね。ほら」

「ほ、ホリィです。こんにちは」

「決闘での堂々とした態度とは随分印象が違うな……」

「わ、私は敗者なので……!」


 一瞬セレーネさんのような人見知りかと思ったが、そういう訳でもないらしい。

 恥ずかしさと悔しさ、再戦したいという燻るような熱が入り混じった複雑な表情だ。

 どうにも扱いの難しいホリィの表情に、俺たちが困り果てていると……。


「だったら……」

「!」


 リコリスちゃんがホリィの前に立つ。

 どんな言葉をかけるのかと見守っていると、驚いた様子のホリィに手を差し出してこう続けた。


「だったら昨夜の戦いで一勝一敗ですね! 今から――は無理ですけど、是非近い内に再戦を!」

「あっ……!」


 それはホリィが望んでいたことだったのだろう。

 リコリスちゃんからの歩み寄りに、笑顔でぎこちなく手を握り返す。


「い、いいんですか? では一戦――」

「もちろん! できれば、一戦と言わず何戦でも!」

「えっ? い、いや、私は雌雄を決するため、あと一戦できれば……」

「そう仰らずに! ユーミル先輩だと強過ぎて相手にならないんですよ! 悲しいことに!」

「そ、それは私が弦ねえを相手にした時もそうですけど……」

「じゃあ、えっと……フレンド登録ですね! やりましょう、今すぐに!」

「えっ? えっ?」


 ぐいぐいと進んで行く話にホリィが戸惑う。

 完全にリコリスちゃんのペースだな……。

 だがまあ、こちらはもう大丈夫だろう。

 弦月さんに椅子を勧め、俺はお茶と菓子を用意するために動き出した。

 対面にはユーミル、リィズとセレーネさん、サイネリアちゃんは俺の手伝いに一緒に来てくれるようだ。


「しかし、弦月」

「何かな? ユーミル」

「ホリィが口にした、弦ねえというのは――」

「またかい? 私の呼ばれ方を弄るのはもうやめようか?」

「もうとかまたとか、私には何のことだが分からないのだが……?」

「ああ、そうだったね……失礼。後でリィズかハインドにでも聞いてくれるとありがたい。それを聞いた上で、君は短縮せずに名を呼んでくれると尚ありがたいな」

「む……確か、前にダンジョン遠征でアルテミスのギルドホームに行った時は――」

「美味しそうなマロンケーキだね、ハインド!! 早速いただいてもいいかな!?」

「スルー!?」


 ……こちらはこちらである意味仲が良さそうなので、しばらく放っておくことにしよう。

 やがて飲み物と菓子がテーブルに用意され、決闘イベント談義に花が咲いた。

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