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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
ランクシステムとランクアップのすすめ
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リコリスの決戦 前編

 どんな状況であっても、決闘スタートまでの時間は変わらない。

 あっという間にカウントダウンが始まるが、リコリスちゃんは未だ固まったままだ。

 このままでは……。


「……ユーミル」

「うむ! リコリス! リコリス!」


 よく通る声に、リコリスちゃんだけでなく他の観戦プレイヤーまでもがユーミルに注目する。

 あ、セレーネさんが一瞬で逃げた。

 過剰な注目ではあるが、ともかくリコリスちゃんがこちらを向いた。


「思い切って行け! どんな結果になろうと、お前は私たちの大事な妹分だ! それは変わらん!」


 ユーミルらしくシンプルに変換されてはいるが……。

 それはつい昨日、サイネリアちゃんから俺たちに贈られた言葉とほとんど同じもの。

 拳を突き出しての言葉に、リコリスちゃんが深く頷いた。

 ……もう大丈夫そうだな。


「おっ、二人が近付いていく」

「何か話しているようですが……」

「あっ、握手したでござるよ!?」


 意外とフレンドリーである。

 もしかして、向こうもリコリスちゃんのことを憶えていたのだろうか?


「ライバルだって言っていたけど、険悪にならなくて良かったね」

「……おかえりなさい、セレーネさん」

「た、ただいま。ごめんね? 逃げちゃって」


 セレーネさんの言葉に、俺たちは問題ないと各々言葉なり仕草で返した。

 むしろ、よくあの流れに対応できたと思う。

 隠れる場所がないと見るや、他の観客の陰に紛れたものな……。

 そして肝心のリコリスちゃんのほうだが、握手をした時点でもう試合はもう始まっている。

 スタート直後から、以前の戦いとは違った様相がそこにはあった。


「どちらも慎重だな……」

「リコリスちゃんが絶妙な間合いを保っている……ように見えるな。ホリィは攻めたそうにしているけど」

「ステップに合わせてサイドテールがぴょこぴょこと……確かにこれは印象に残るでござるなぁ。掲示板で話題になる訳でござるよ」

「お前はどこを見ているんだ。それよりも、どうなんだ? 同じ軽戦士の目から見て」

「同じと言っても、タイプが違うでござるし……あれ? みんな、どうしてそんな目で拙者を……」


 役に立たないやつだな、という視線を受けてトビが居住まいを正す。

 これは先程の魔王ちゃん発言が尾を引いているな……みんなからの当たりが厳しい。


「え、ええと……そ、そうでござるなぁ。軽戦士って、基本的に少ないMPで立ち回れるように設計されているのでござるよ」

「ああ、言われてみれば大技ってあんまり見ないな。近接系の大型スキルは騎士や重戦士に多いか?」

「その通り、武闘家も軽戦士と同じく低燃費なスキル構成にござる。で、そういった職は序盤ほど優勢故……」


 トビがリコリスちゃんたちに目を向ける。

 二人はまだ動かない、睨み合いを続けたままだ。


「こうして自然回復で相手にMPが溜まっていくのは、軽戦士的にあまり宜しくないでござるな。ホリィ殿が攻めたそうにしているのも、そんな軽戦士の習性故でござろう」


 序盤からペースを握っていくのが大事との説明に、納得したような声が何人かから漏れる。

 それに対し、何とか面目を保てたといった様子でトビが息を吐く。


「ということは、今の状態はリコリスが有利なのか? トビ」

「うーん、騎士の防御型はまた特殊でござって……ハインド殿、後は任せた!」

「途中で投げるなよ……騎士の防御型ガードタイプの大技って、リベンジエッジだろう? 今のレベルで習得できるのは」

「む、そうだったな。しかし、それの何が問題なのだ?」

「あれって、一撃限りのシールドカウンターをより極端にした……盾を構え続けて、受けた合計ダメージを剣に乗せる技だからさ。対人戦じゃまともに使えないぞ、HP回復手段もないし」


 ボスの大火力を回復してもらいつつ引き受け、プレイヤーたちだけでは出し得ないダメージを返す。

 そんなイメージの特殊なスキルだ。


「PvE向きのスキルということか……」

「PvPで使えないこともないんだろうけど、完全に動きが制限されちゃうからな。対人戦で長時間、全く剣を振れないってのはいかんでしょう」

「うむ、いかんな……」


 ということで、トビに話を戻す。

 ここまで語れば、後は結論を述べるだけだろう?


「今の状況は五分と五分……いや、攻めあぐねている分だけややリコリス殿が有利ではござるが。騎士の中でも、防御型の対人戦は――」

「細かくシールドカウンターを決めて勝つ!」

「余裕があったら大喝を入れておきたいな」

「つまり、どちらも低燃費スキルの応酬だから……同じ土俵ってことですか? 要約すると。小技でテクニカルに殴り合う感じ?」


 シエスタちゃんが欠伸混じりに手を上げつつそう問いかける。

 それに対し、トビと俺は同時に答えた。


「序盤から中盤まではそうなるだろうね」

「終盤までもつれこまなければ、そうなるでござろうな」

「はあ……?」


 疑問顔になるシエスタちゃんに対し、ユーミルがピンときた様子ではいはいはいはいと喧しく挙手する。

 お前は一緒に掲示板を見たからなぁ……。


「どうしてそうなるか分かったのでござるか?」

「言ってみ? ユーミル」

「ホリィにヒートアップとかいうスキルがあるからだろう! そうなれば、大技を撃っている状態と変わらん!」

「五十点」

「五十点でござるな」

「五十点ですね」

「増えた!? しかも辛い採点をわざわざ言いに来るとは、貴様……」


 しれっと混ざって来たリィズにユーミルが歯噛みする。

 もちろん軽戦士・攻撃型アタックタイプの『ヒートアップ』もあるのだが……。


「リコリスちゃんが上手く条件を満たしてくれないから、知らないのも無理ないけど。こっちにはヒートアップと性質の違うスキルがあるんだよ。騎士の誇りっていう、ピンチで発動できるやつが」

「何っ!? ……ちなみに、リコリスがそれを発動させたことは?」

「0……だよな? リィズ」

「0ですね、私が知る限り」

「シエスタちゃん?」

「見たことがないです」

「……サイネリアちゃん?」

「騎士の誇りですか? 確かにリコは習得していますけど、大抵ピンチになると発動前にそのまま沈むので……」

「り、リコリス……お前というやつは……」


 このゲーム、ピンチに強いのは防御型二職(重戦士、騎士)の共通項だったりするのだが。

 ユーミルが絶句する中、遂に決闘中の二人が間合いを詰める。


「――始まったか! ……ハインド!」

「何だ?」

「結論!」

「ええと……今のリコリスちゃんの調子の良さなら、ピンチで踏み止まることも十分可能だろう。後は……」

「後は?」

「リコリスちゃん本人が、一度も使っていないこのスキルのことを忘れていなければ……」

「!?」


 また珍しい表情に……。

 ユーミルが不安と動揺の入り混じった顔でリコリスちゃんを見守る中、ヒーターシールドから甲高い音が鳴り響いた。

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