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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
ランクシステムとランクアップのすすめ
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リコリスの挑戦 その7

「焼肉っ! カレー!」

「きゃっ!?」

「ハンバーグ、エビフライ! 迷う時間も贅沢、至福の一時っ!」

「け、剣が昨日よりも重くて……わわっ!?」

「どうしたどうした、リコリス! そんなことではAランクで勝ち残れんぞ!」


 今のところ、ユーミルがリコリスちゃんを圧倒していた。

 それも昨日までの模擬戦以上の勢いで、である。


「本当、底が知れない方ですね……ユーミル先輩は」

「サイ、それはいいんだけどさ。何か、叫んでいるメニューの内容が……お子様ランチ?」

「あいつ、親父さんに高い店に連れて行ってもらってる癖にああなんだよな……まあ、急に高級料理とかが食べたいって言われるより遥かにいいんだけど」

「そもそも、食事のメニューを叫びながら戦っていること自体おかしくないでござるか……?」


 おかしいかおかしくないかで言ったら断然おかしいが、剣筋は鈍るどころか鋭さを増している。

 対するリコリスちゃんはそれに対し、必死に歯を食いしばって防戦。


「おおっ、防御が崩れない!」

「しかも壁を背負わないように上手く回っているね……」

「成長しましたね、リコリスさん」


 セレーネさん、リィズがリコリスちゃんの動きをそう評する。

 一番それを感じているのは、今まさに対戦相手を務めているユーミルだろうけれど。


「やるな、リコリス! だが、守っているだけでは――」

「そこっ! ……かな?」

「ぬおっ!? もっと自信を持って振らんか、気が抜ける!」

「は、はい! すみません!」


 ……こういうところは変わらないが。

 リコリスちゃんのカウンターが、あわやユーミルを捉えるかといったところだった。惜しい。


「しかし、今のは良かった! どんどん狙ってこい!」

「はいっ!」


 模擬戦はそれから数分ほど続き……。




 その後、決闘の臨んだリコリスちゃんの動きは今夜も好調だった。

 初戦、概算では中間あたりのレートになっているにも関わらずやや余裕を残しての勝利。

 続く二戦目、三戦目と危なげなく勝利を重ねていく。

 四戦目、相性の悪い武闘家・気功型チーゴンタイプとの対戦。

 特に防御を無視できる『発勁・破』を受けるとピンチになるので、リコリスちゃんはそれまでに決着をつけなければならない。


「先輩、ちょっと」

「うん? どうしたの、シエスタちゃん」


 そんな戦いを見守っていると、シエスタちゃんが俺の服の袖を引いてくる。

 いつも通りの眠そうな表情……のようにも見えるが、普段よりも少し真剣な――いや、これは深刻そうな表情か?


「リコ、もしかしたら今が調子のピークかもしれません」

「……良いことじゃない?」


 絶好調の何がいけないのか、と思わなくもないが……シエスタちゃんは「ピーク」という言葉を使った。

 そして今しがたの表情を見るに、そんな返しで終わる訳にもいかないだろう。


「――と言いたいけれど、何かマズいことがあるんだね?」

「やっぱ先輩は話が早くていいですねー。リコって、ちょっと頑張り過ぎるところがありまして」

「決闘再開初日のこともあるし、それは知っているつもりだけど……まさか、シエスタちゃん。この状態は長続きしないってことを言いたいの?」

「まあ……だよね? サイ」


 シエスタちゃんが後から近付いてきたサイネリアちゃんに話を振る。

 サイネリアちゃんは戦いを続けるリコリスちゃんを気遣うように見てから、こちらに向き直って頷いた。


「はい。残念ですが、このままですとその通りになるかと」

「大真面目に決闘してますけど、基本は楽しいゲームなので。余計に熱が入り過ぎるっていうか、疲れに鈍くなるっていうか。倒れたりはしないでしょうけど、限度を超えるとガクッと集中力が落ちますよ。多分」

「おおう……」


 それは如何にも宜しくないな。

 例のサイドテールの少女、ホリィとの再戦まで持てばいいが……。

 そういえば、こんなに決闘を頑張っている陰でプレゼント用の編み物もしているんだよな。

 折角ホリィと戦うことができた時には、スタミナ切れでヘロヘロでした――という事態は避けたいところだ。

 リコリスちゃんの努力が報われない。


「……分かった。今夜のところは細心の注意を払いつつ、このまま対戦をしてもらおう。明日、弦月さんに俺が話をしてみるよ。今は不在みたいだから」

「どーもです、先輩。リコのやつ、明日まで持てばいいんですけどねー……」

「そうだね……何か私たちにできることは……」

「できること……できることかぁ……」


 シエスタちゃんが目を閉じて左右に揺れる。

 やがてその動きを止めると、目を眠そうに半分開いて小さく頷いた。


「うん。祈ろっか、サイ」

「祈るの!?」

「だって、応援以外はそれくらいしかできないじゃん」

「そ、そうだけどぉ!」


 シエスタちゃんの言葉に、サイネリアちゃんが思わずといった様子で向き直る。

 普通に考えたら、適度に休憩させてやるとかそういう意見だと思うが……。

 とか考えていたら、シエスタちゃんは俺のほうにまで視線を向けた。


「先輩も、ほら」

「えっ? いや、祈るっていっても……具体的にはどういう?」


 あ、リコリスちゃんが『シールドカウンター』を急所に叩き込んだ。

 落ちる時が怖いとはいえ、ピークというのは本当らしい。

 相手が消えて小さくガッツポーズをすると、そのまま連戦することを宣言。


「続けて行きますね!」

「頑張れー。あ、訂正。ホリィ以外は程々に頑張れー。で、やり方は……今のように対戦相手をサーチする時に、あのサイドテールが現れるようにみんなで念を送るだけです。さあ、先輩もご一緒に! レッツ・プレイ!」

「えー……ま、まあどちらにしても見ていることしかできないから、別に構わないけど。ホリィが出るよう念を送ればいいんだね?」

「その話、私も乗った! 気休めだろうと、何もしないよりずっとマシだ!」


 既視感のある割り込み方でユーミルが手を挙げる。

 更にはトビもやると言い出し、あまり乗り気ではなさそうだったリィズとセレーネさんも……。


「サイドテール……サイドテール……」

「ホリィ来い、ホリィ来い、ホリィ来い……」

「………………」

「お願い、来て……!」

「魔王ちゃん魔王ちゃん……」

「おい」


 不真面目な忍者を一斉に睨みつけて黙らせると、俺たちは再度念を送る。

 やがて現れたのは、なびく長い髪を持った……長髪の魔導士の男性。


「「「違う!!」」」


 魔導士の男性が俺たちの声にびくりと肩を震わせた。

 あ、すみません……。




 その後、二度の敗戦と一度の休憩を挟んでリコリスちゃんは決闘を続けている。

 順調に勝ちを重ねてはいるものの、残念ながら中々ホリィは現れず……。


「届きませんね、祈り……」

「レート的にはそろそろ良い感じだと思うんだけど……」

「弦月殿がゲーム内にいないでござるし、一緒にお休みということもあるのでは?」

「その可能性は捨てきれないな。ただ、弟子とはいってもギルドは別だし決闘で組んでいる様子もないし……トビ、その辺はお前が一番分かっているだろう?」

「ああ、言われてみれば確かに。決闘の一対一でしか目撃情報がない以上、別行動が基本と推測可能……希望を捨てるには早かったでござるな」

「……試合、無事に終わったみたいですね」


 リィズが静かにそう告げる。

 何だか、段々とギャラリーが増えてきているような……俺たち以外にも、リコリスちゃんの連戦を見守っているプレイヤーが何人か。

 そしてリコリスちゃんが、本日十数度目となる連戦ボタンに指をかける。

 俺たちは思い思いのポーズでホリィが現れるよう祈った。


「頼む、そろそろ来い……!」

「まだリコリスは元気だ! さあ、出ろ! 出てこい、ホリィ!」

「ユーミル先輩ならそういうの、さっと引き寄せそうなんですけどねー。ま、でもそれがリコにも多少影響を及ぼしてくれれば……」

「来る、かな? ううん、来て! 出て来て!」


 マッチング中の文字が消え、入れ替わりでマッチング完了と表示が浮かび上がった。

 移動させられたのはこちら側……この場合、あちらも連戦状態ということなのでプレイ時間の長いホリィが来たかもしれないという期待が持てる。

 移動先の観客席で誰かと座標が被る場合は、自動で少しずつ移動させられ――うん?


「Aランクの割に人が多いな……これって……」

「あっ! み、みんな、あれ!」


 セレーネさんが少し興奮した様子で決闘エリアを手の平で示す。

 するとそこには、身を硬く緊張した様子のリコリスちゃん。

 そして俺たちが念じ、探し求めていた――


「「「出たぁぁぁぁっ!!」」」

「――!?」


 サイドテールを揺らしながら、俺たちの声に少女がたじろいだ。

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