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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
ランクシステムとランクアップのすすめ
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Sランクへの道

 そこからの戦いについて、憶えていることはそれほど多くない。

 一々詳細を憶えていられないほどに連戦を重ねている。

 ただ、全員の気力が異常なまでに充実していたこと。

 そして陣形が全く崩れなかったことは確かだ。


「陣形が崩れなければ、イン前に話していた戦術変更も必要ないでござるな……」

「まあな。当然、こうなるのが一番だけど――」

「よーし、まだまだ行けるな!? 迷うことなく連戦だ!」


 ユーミルが連戦しますか? というメッセージウィンドウに対して『はい』を連打する。

 相も変わらず、驚異的なスタミナだ。

 こういう時は放っておいても勝手に活躍してくれるのだが。


「……あいつの動きの質が気分に左右される以上、いずれ必要になる時も来るだろう」

「今夜に限っては大丈夫そうでござるが……確かに。その時に備え、準備しておくに越したことはないでござるな」


 TBの対人戦イベントの頻度はそれなりに高い。

 それらを見据えて色々と考えておくことはきっと無駄にならない。

 ただ、トビがいった通り今夜はその必要がなさそうだ。

 何故なら……。


「げっ、渡り鳥……」

「折角ここまで連勝してきたのに……」

「またかよ!? さっさとSランクに上がれよ!」


 本日二度目の対戦となる相手の発言がこれである。

 イン数の多いゴールデンタイムでも被るのは、分母の少ない五対五ならではだろう。

 彼らの態度に対し、ユーミルが思わずといった様子で眉をひそめる。


「戦う前から勝負を投げるな! それでもAランクか貴様ら! ――くだないことを言っていないで、全力でかかって来い!」


 挑発とも叱咤激励とも取れる言葉に、相手PTの面々が顔を見合わせる。

 そしてこちらに向き直ると、数秒前とは少しだけ雰囲気が変わっていた。

 ユーミルの言動が知れ渡っているせいか、怒りや苛立ちはなく開き直ったかのような笑みすら浮かべている。


「おいおい……相手をその気にさせてどうする」

「馬鹿ですね。諦めムードの相手に、わざわざ全力で来いだなんて……全力で馬鹿ですね」

「馬鹿とは何だ、馬鹿とは!」


 先程のサイネリアちゃんといい、本音がこもった言葉には人を動かす力があるらしい。

 とはいえ、一度勝っている相手だ。

 油断なく戦い、しっかり俺たちが前進する糧としたいところ。

 カウントダウンが始まり、両パーティのプレイヤーが次々と武器を構えた。

 確か、この相手パーティと戦ったのは連戦の序盤……記憶の糸を必死に手繰り寄せる。

 重戦士、騎士、軽戦士、魔導士、神官というバランスの良い構成。

 先程は絶好調のユーミルが軽戦士を一瞬で打ち倒し、前衛の数を同じにして勝ったのだが。


「行け、勇者ちゃんは俺が!」

「分かったわ!」

「ぬおっ!? いかん、ハインドが!」

「ちょちょちょ、やっぱりリーチ差が酷いでござる! ハインド殿、しばらく持たせられるでござるか!?」

「ああ、やってみる」


 ユーミルに大剣の重戦士を、トビに槍を持った騎士を、俺に片手剣を持った軽戦士がそれぞれ向かってくる。

 セレーネさんは神官の詠唱妨害、リィズと相手の魔導士のみがフリーという振り分け。

 一対一が四つできるという、相手にとっては狙い通り。

 俺たちにとっては非常に悪い流れだ。

 しかし、先手を取られた以上まずは耐える必要がある。


「非スキル時のユーミル相手には、重戦士のほうが持つって判断か……やるな」

「さすが本体ね! 均等型バランスタイプじゃないんだから、魔力が絡むバーストエッジにだけ気を払えばいいの――よ!」

「うおっ!?」


 この女性軽戦士、速いぞ!?

 さっきはユーミルに瞬殺されていたから分からなかったが、実力は相当なものだろう。

 ここはとりあえず……。


「避けるだけなら……!」

「な、あっ、このっ! ちょこまかと! ええい、だったら――」


 目の前の軽戦士が俺に強めの一撃を加え、ガード発生のヒットストップによる停止を利用して進路を変更。

 ――相手の作戦は非常に分かりやすい。

 前衛二人を足止めしている間に、この軽戦士が後衛の誰かを倒す。

 もしくはリィズの魔法を一度でも止めれば、それだけで戦況が傾く可能性が生じる。

 集団戦のどの戦いでもそうだが、自発的にMPチャージを行える魔導士の初手によって有利不利は大きく分かれる。

 一般的なパーティ戦序盤は如何に味方の魔導士を守るか、そして相手の魔導士を止めるかに集約されていると言っても過言ではない。

 俺は落ち着いて一瞬だけMPチャージを行うと、バラバラと派手に魔導書が躍る……詠唱中のリィズに迫る背中を追った。

 セレーネさんは次矢の装填中、リィズは横目で迫る軽戦士を見つつも詠唱を止めない。

 走りながら『シャイニング』軽戦士の背中にぶち当て、今度はこちらがヒットストップを利用して接敵。


「!?」


 杖を使い全力で相手を吹き飛ばす。

 ダメージは低いが腕の振りの速度や力の入れ具合などのモーション次第で、ノックバックの距離に僅かだが差が出る。

 俺たちにとっては幸運なことに、後ろからの攻撃に対して軽戦士は前のめりに転倒。

 リィズと俺が一瞬だけ視線を交わし、頷き合う。

 反転攻勢に出るならここしかない。


「ユーミルさん!」

「応っ!」

「――がっ!? ぬあああ、ダークネスボールうぜえええ!」


 ユーミルのバックステップと同時に、闇に拘束された重戦士の雄叫びがこだまする。 

 そのままユーミルがこちらに駆け戻り、溜まったMPで軽戦士に向けて『ヘビースラッシュ』を発動。

 軽戦士の紙耐久を示すように、HPバーが激しく明滅して0と表示される。儚い。


「ハインド君っ!」

「――!」


 セレーネさんの声に周囲を確認すると、リィズの詠唱の隙を突くように相手魔導士の詠唱が終わりに近付いていた。

 MPチャージの長さからして、中級以上の魔法を準備できているはず。


「トビ、ユーミルとスイッチ! 上手いこと相手の後衛二人を封じてきてくれ!」

「中々に難儀な注文でござる――なっ!」

「消え――!? 縮地か!?」

「隙ありっ!」

「何のっ!」


 一人減っても極端に崩れたりしないところは、さすがAランクといったところか。

 この間に俺はせっせとMPチャージ。トビが詠唱妨害を失敗したら、みんなを逃がして俺が魔法を受ける。

 ここは回復よりも『エントラスト』を使用しての短期決着が望ましい。

 相手に残った騎士・重戦士という前衛構成に比べ、こちらはダメージを請け負うことができる職に乏しい。

 精々ユーミルが全般のダメージをそこそこに、俺が魔法受けをできる程度だ。

『ダークネスボール』の効果が解け、重戦士が周囲を確認し――


「本体ぃぃぃぃ!」

「こっちか……怨嗟の声が怖いぞ」


 騎士と一緒にユーミルを挟撃すればまだ勝機はあるのに、愚策を取ったか。

 ここに来て、俺は半ば勝ちを確信しつつある。


「ダークネスボールを放ったのは私なんですが」

「てめえの機転とか対応力さえなければぁぁぁ! ド畜生がぁぁぁ!」

「……だってさ」

「全く……MPさえあれば、もう一度闇の中に放り込んでやるのに……」

「は、ハインド君? リィズちゃんのほうがあの重戦士さんより怖いんだけど……?」

「……それについては、ノーコメントで。来ますよ」


 どの対戦相手でも割とそうなのだが、俺はこういった恨みを買いやすい傾向にある。

 特に向こうが劣勢になり、一か八かの突撃を仕掛けてきた時……そのターゲットになるのはいつも俺だ。


「後衛組、散開! セレーネさん、後は任せます」

「あ、うん、今回は私なんだね。やってみせるよ、ハインド君」


 この任せるという言葉は、向かってきている重戦士を任せるという意味ではない。

 重戦士をMPチャージしつつギリギリまで引き付け、『エントラスト』を詠唱しながら走る。

 鎧・大剣装備で鈍重な重戦士であれば、戦闘エリアの隅に追い詰められない限り捉まることはない。


「ま、待て……」


 息切れする重戦士をよそに、セレーネさんに向けてMPを譲渡。

 大スキルの『ブラストアロー』には届かないが……俺はトビに呼びかける。


「トビ、一旦退けそうか!?」

「ぬ、おおうっ!? 少し待って下され、何かこの二人接近戦が上手い!? 自衛が上手い!? やばい、普通に負けそう! 拙者、前衛職なのに後衛二人にボコられそう!?」

「駄目か……さすがに一人で二人の足止めは、無茶な注文だったか?」

「大丈夫だよ、ハインド君。私に任せて」

「セレーネさん……?」


 セレーネさんがトビの窮状に対し、足を止めて深呼吸。

 腰だめに構えた大型のクロスボウを固定すると、『スナイピングアロー』を長距離から放った。

 トビの真横をすり抜け、敵神官の少年が吹っ飛びつつ仰向けに崩れ落ちた。


「ひえぇっ!? マジでござるか、セレーネ殿……!」

「お、おかしくない……? その命中精度。この距離でヘッドショットって……しかも神官とはいえ、たった一撃で……?」

「……」

「……」

「……あ、えっと……お命、頂戴仕る!」

「ま、待った! えっと、降参! 降参します!」


 魔導士の少女が降参を宣言。

 気が付くと重戦士の青年は再度『ダークネスボール』に捕らわれ、騎士の少年はユーミルに滅多打ちにされている。

 その二人からも、魔導士の少女の降参に対して特に反対の声は上がらなかった。

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