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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
ギルドホームを作ろう

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砂漠のフクロウ亭

 砂漠のフクロウ亭という宿は、街の中でもかなり大きな店だった。

 こういう宿を使えるってことは、儲かってんのかな? クラリスさん。

 砂と土を固めた砂漠では定番の建物で、しっかりした造りでありながら色合いの柔らかさも感じられる。

 入り口からは煌々とした明かりが漏れ、料理の良い香りが鼻腔を刺激――


「じゅるり」

「ユーミル、よだれよだれ」

「おっと」

「……お願いですから、人前ではちゃんとして下さいね?」

「わ、分かっている!」


 満腹度を確認すると、残りは20%を切っていた。

 この分だと食事をしながら話をするのもいいかもしれない。


 受付で名前を告げると、ほどなくしてクラリスさんが現れた。

 どうやら俺達の部屋まで取ってくれたらしく、今夜はこの宿に泊まれるとのこと。

 ゲーム的に寝る必要性は薄いのだが、お言葉に甘えて今夜はそこでログアウトすることにしようか。

 

「お食事も用意してありますから、食堂でお話ししましょう。ハインド様方がどうして砂漠に来たのか、私、とても興味があります」

「俺もクラリスさんが此処に居る目的、知りたいですね。商売の為なんでしょうけど……どうして特に過酷な砂漠を選んだのか」


 そのまま互いに笑みを交わすと、背中を後ろからドスドスと突かれた。

 早く行けってことかい……にしても、刺してきた手の数が一人や二人分じゃなかったような――誰だ、今尻に蹴りを入れたのは!

 それを見てクスクスとクラリスさんが笑い、食堂はこちらですと言って歩き出した。

 ぞろぞろと五人で連なってその後を歩いて行く。




 ゆったりとした個室の丸テーブルを囲んで全員が座る。

 この部屋、VIP用なんじゃないだろうか……待遇が良過ぎて少し不安になってきた。

 しかし、クラリスさんは宿屋の主人と知り合いなので気にしなくていいと終始笑顔である。


「砂漠の民は律義だから、まずはそこで行商の基礎を学びなさい――というのが、おばあちゃんの言いつけなんです。砂漠の過酷な環境に耐えきれば、体力も付くと言われまして。先程お話しした件と合わせれば、砂漠の民の気性についてはご納得いただけるかなぁと」


 彼女は隊商キャラバンに商売に使う商品をいくつか預けていたそうなのだが、魔物の襲撃でそれが散逸。

 しかし、それを護衛していた傭兵団からある程度の補償を受けることができたそうだ。

 社会制度がしっかりしてくる近世以降ならともかく、中世風のこの世界にはそぐわないレベルの対応である。


「律義ですか……。確かに預けていた荷物の損失を補填だなんて、聞いたことがありませんしね」

「言い方は悪いでござるが、一応守るが生死は自己責任! 荷物を失った? 知らん! みたいな護衛が一般的だと思っていたでござる」

「他の国ならいざ知らず、この国でそんなことをしたら信用を失ってすぐに商売が成り立たなくなります。生きるだけでも難しい土地で、だからこそ商売に対してはとても誠実なんですよ。反面、裏切りや詐欺なんかには非常に対応が厳しいです。ここ砂漠の国サーラという土地は」


 クラリスさんによると、これは砂漠の民特有の気質だそうで。

 ついでというか、会話の中で国名がさらりと判別しているのがなんとも。

 どうやらこの国は『サーラ』という名前のようだ。


「逆に、北にあるベリ連邦に行くのは最後にしろと言われました。利益に聡く貪欲で、生き馬の目を抜くような人間が多いのだと」

「となると、次は南に向かう感じですか?」

「まだ分かりません。ただ、暫くはここで商売するつもりだったのですけど……王都に行くまでの道が塞がってしまっているんですよね。あ、みなさん料理を食べながらでどうぞ。冷めない内に」


 その言葉に湯気を立てている料理をざっと眺める。

 全体的に、トマトとソラ豆を使った料理が多い印象。

 限られた材料ながら工夫を凝らしたバリエーション豊かな料理が並んでおり、どれから食べるか目移りして――


「む、この揚げ物うまいな!」


 相変わらずはっやいな、食べるの!

 クラリスさんがどうぞと言った瞬間、ユーミルは直ぐに何かを咀嚼している。

 食べたのは緑色の練り物を固めた様なものの周りに、胡麻の乗った揚げ物のようだった。


「それはターメイヤ。ジャガイモの代わりにソラ豆を使った、コロッケに近いお料理です」

「クラリス殿、こちらは?」

「ターゲンという煮込み料理ですね。材料はトマトをベースにお米、お野菜、お肉、お魚だったかと。そちらも美味しいですよ」


 うん、どれもスパイスが利いていて食欲が増進される。

 味も良く、食べている最中は体が熱かった。

 しかし食べてから少し経つと、トマトの効能かすっと体が冷えてきてこれがまた気持ちが良い。

 話しながら、と言いつつどちらかというと食べる方に夢中になってしまった。

 おかげで満腹度はほぼ100%に近い状態へ。

 腹具合が落ち着いたところで、ぼちぼち話を再開することに。


「……つまり王国の戦士団とやらがそのヌシの討伐に失敗したせいで、王都までの――ルキヤ砂漠に蛇のモンスターがうようよしていると」

「そうなんです。定期的に大型の個体が現れるのですけど、それを倒さないと生態系が支配されてしまうんですよ。子の『ホーンヴァイパー』が急激に増えるので、早く対応しないと手が付けられなく――」

「そっからは俺が話そう、クラリスちゃん」

「?」


 急に低く渋い声が割り込んだかと思うと、片足を引きずった体格の良い男性が料理を持って現れた。

 ええと、宿の主人……かな?

 エプロンを着けていて、体にもスパイスの香りが染みついている様子だ。

 代わりにさっきまで居た給仕の姿が見えなくなっていた。


 セレーネさんが突然の第三者の介入にびくりとしたが、リィズが傍に居て何か言っているので直ぐに落ち着くだろう。ナイスフォローだ。

 今回、主に話をしなければならないのは俺だろうし問題ない。


「あら、ヤイードさん」

「ほれ、デザートのオマーリだ。これは無料でサービスするから、俺の話を聞いてくれないか? お客人」

「あ、この方はこの宿の御主人で、ヤイードさんという方です。王国の戦士団を辞めた後、一代でこの宿を大きくした凄い人です。戦士団では、団長さんまで務められたそうですよ」

「褒め上手だね、相変わらず。昔の話さ、昔の」


 ああ、道理でガタイが良いとは思った。

 細かな傷の多い鍛えられた腕が皿を差し出し、甘い香りのするスープのような物が目の前に置かれた。

 パンをミルクに浸して焼いた料理のようで、一口食べるとレーズンのような甘酸っぱさを感じる。

 それと、この香りと食感はナッツか。


「甘い! 美味い!」

「おお、素直な嬢ちゃんだな。気に入った!」

 

 ユーミルの率直な賛辞に笑顔になったそのヤイードという男性は、俺達に戦士団の窮状を語って聞かせた。

 情報が多いに越したことはないので、これは素直にありがたい。


 曰く、後進の育成が追い付かずに戦士団の戦力が今一つなこと。

 そもそも王国戦士という職に人気がないこと。

 商人の護衛をやっていた方がよほど儲かるという薄給さ。


「薄給に関しては今になって改善が見られるんだけどな。遅いんだよ、ヌシの討伐に失敗してからじゃあ。近年は戦争も無くて、戦士団の存在そのものに疑問の声も上がってたわけだが……なら治安維持はどうするんだって話で」

「現場の人間にだけは、決壊の兆しが見えていたと」

「そうなんだよ。俺が現役の頃に、何度も何度も待遇の改善要求はしたんだけどな。怪我して引退するまで動きは一切無しで、結局は徒労に終わってなぁ」


 そう言うと、ヤイードさんは深い深い溜め息をついた。

 宿を経営している今の方が、よほど儲かっているのだと愚痴る。

 それを見たクラリスさんが笑いながら口を挟む。


「実はその戦士団の名前が、砂漠のフクロウなんですよ。ヤイードさんの戦士団への愛が透けて見えますよね。宿の名前まで同じにするなんて」

「意地が悪い言い方するよな、クラリスちゃんは。まぁ、何が言いたいかってえと……俺は心配なんだよ、後輩のあいつらのことが。で、こんな話を聞いて貰った理由なんだが――あんたらにヌシの討伐をやって欲しいんだな、要は」


 俺達は顔を見合わせた。

 クエスト? クエストだよね、これ? と、そんなことを全員が思っているのは丸分かりだった。

 受けろ受けろとリィズを除く三人が俺に向けて強い視線を飛ばしてくる。

 そんな俺達を気にした様子もなく、ヤイードさんの話は続く。


「無論、俺から報酬は出させて貰う。それと、昔のツテを使って王政府からも相応の報酬を出させる。砂漠の民の通行を妨げる大敵の討伐だ、十中八九無視はできないだろう。どうだ? 受けてくれないか?」

「俺達は最初から王都に行くつもりだったので、引き受けるのは構いませんけど……」

「ああ、もしかしてわざわざあんたらに依頼する理由を知りたい? そうだなぁ……」


 ヤイードさんは席を立つと、クラリスさんの後ろに立って彼女の肩に片手を置いた。

 それから俺の方を見て質問を投げ掛ける。


「あんたの目から見て、このクラリスちゃんはどう映る? あ、商人としての評価な。異性としてじゃねえぞ」

「どうって……行動力が高くて……いや、人脈ですかね。事故にこそ会いましたけど、大商人のキャラバンに同行していた訳ですし。この宿だって、ヤイードさんと知り合っていればこそでしょう? これって、商人としてはかなりの高評価に繋がる点ではないので?」

「ふふ、ハインド様に褒められちゃった」

「……あー、まあ、それは一旦置いといて。前もって釘刺した意味ねーな……」

「えー、置かないで下さいよヤイードさん。せっかく……」


 痛い痛い!

 誰だ、今俺の足を踏んだのは。

 クエストに繋がるかもしれない話なんだから、今はやめろ!


「ともかく、お前さんの言う通りこの娘の人を見る目は確かだぜ。あのキャラバンを率いてた商人のオッサン、アミンっていうんだけど。宝石じゃらじゃらつけて太ってるから下品そうに見えるが、商売に関してはクソ真面目でな。あれでも結構信用できる奴なんだよ」


 クラリスさんの荷物の補償をしてくれた護衛の傭兵団も、アミンという商人の子飼いの組織だそうだ。

 彼女がこの国を訪れてからまだ僅かな日数しか経っていないそうなので、恐るべきはヤイードさんの言う通り、人を見る目と彼女自身が気に入られるスピードいうことになるだろうか。

 商人としては言うまでもなく有用で、天才的な素養と言い切ってしまって問題ないと思う。


「噂の来訪者自体がほとんどこの国に来ないってぇ都合もあるが、このクラリスちゃんがあんたはすげえって言う訳だ。俺も期待せざるを得ないわな? 理由としてはそんなところだ」


 そう言うと、いつか見たクエストの依頼書をひょいと渡された。

 詳細はここにあるといった様子で、それ以上ヤイードさんは何も話さない。

 俺がそれを手に取ると、パーティメンバーの四人全員が一斉に依頼書を覗き込む。

 いやいや、狭いって。見辛い。

 依頼書を眺めてまず目に付いたのは、大きく書かれた依頼内容『砂漠の主・バジリスクの討伐』という大仰な文面だった。

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