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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
ランクシステムとランクアップのすすめ
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全力模擬戦とAランクの戦い

 時刻は午後八時、週末ということもあり今夜はたっぷりとプレイ時間が取れる。

 ログインするや否や、早速といった様子でユーミルがリコリスちゃんの前に立つ。


「さあ、特訓だリコリス!」

「へっ?」

「こらこら、程々にしとけって言ったばっかりだろうが……リコリスちゃん、ちょっとこっちに」


 俺は困惑するリコリスちゃんに事のあらましを伝えることにした。

 弦月さんとホリィの関係、弦月さんをユーミルがライバルとして意識しているらしいこと。

 ユーミルを待たせ、談話室の部屋の隅で小声でそれらを説明していく。


「ほら、あいつ弦月さんとはギルド戦で引き分けだったから……」

「ああ、はい。あれは凄い戦いでした……」

「だからユーミル、妹分のリコリスちゃんには負けてほしくないんだと思う。あくまで君たちの戦いだから、本人たちの勝敗に関係してくるわけじゃないんだけど……そう割り切れるもんじゃないしね」

「わ、私が妹分ですか!?」

「そこ!?」


 リコリスちゃんが食いついた部分に思わず面食らう。

 こうなると、ちゃんと話が伝わっているのかいないのか不安になってくるな。


「今更じゃない、そんなの。リコリスちゃんはユーミルの妹分だし、俺たちにとってもそうだよ。もちろん、サイネリアちゃんもシエスタちゃんも」

「私たちが妹分……光栄です!」

「……そういう訳だから、悪いけどユーミルに付き合ってやってよ。決闘に障りが出ないように気を付けるからさ」

「分かりました!」


 後ろからユーミルが焦れる気配が伝わってくる。

 俺は妙にニコニコしているリコリスちゃんの背をユーミルに向かって軽く押した。


「えへへ……」

「む、どうした?」

「いえいえ! それで、特訓って何をするんですか?」

「簡単なことだ。決闘に行く前に、私と模擬戦……いや、真剣勝負を行う!」

「真剣勝負?」


 リコリスちゃんがこちらをちらりと見る。


「真剣勝負といっても、今までの模擬戦と変わらないよ。要は、今まで以上にギアを上げてやろうって話だろう? ユーミル」

「うむ、そういうことだ!」

「今まで以上って……今までは手加減していたんですか!?」

「いや、こいつにそんな器用な真似は無理」


 うんうんとリィズとトビも頷いた。

 それにユーミルは若干表情を引きつらせたものの、黙って話の続きを促してくる。


「ちゃんと全力だったと思うよ、あの時はあの時で。ただ、今はホリィと弦月さんの話を聞いて気合が入っているから。自然とこの前の模擬戦よりも力が入るだろうし、それに――」

「それに?」

「あの時よりもリコリスちゃんの実力が上がっているから、充実した内容になると思うよ。だから決闘前に一戦、どうかな?」

「ふおお……」

「ふおお……?」


 リィズがリコリスちゃんの奇妙な感嘆の声に疑問符を浮かべる。 

 すっかりやる気を出したリコリスちゃんは、


「了解しました! 参りましょう、ユーミル先輩! ビシビシお願いします!」

「おお、やる気だな!? ホリィに勝つぞ、リコリス!」

「はいっ!」


 談話室の扉を勢い良く開け、二人は慌ただしく出て行った。

 俺たちがそれを見送る中、近くでログインの光が舞う。


「こんばんはー。あれ、リコ来てません?」


 シエスタちゃんの疑問の声に応えるように、跳ね返った扉が小さく鳴った。




 やがてセレーネさんとサイネリアちゃんもログインし、二人の熱の入った模擬戦を見届けた後。

 俺たちはまず、リコリスちゃんの戦いを数戦見守ることにした。

 勝ったり負けたりだったリコリスちゃんが連勝し、Aランクに昇格したのが昨夜のログアウト直前。

 イベント終了までに、果たしてホリィに勝てるレベルに仕上がるかどうか……。


「それ以前に、Aランク中位と下位でもまた層が違うよな……」

「何の話でござるか? ハインド殿」

「ああ、ホリィちゃんと対戦できるかどうかの話だよね? ハインド君」

「ええ、そうです。Bランクでもそうでしたけど、同ランクの中にも層がありますよね?」


 セレーネさんが頷く。

 それから指で三角形を作りながら、分かりやすく説明してくれた。


「ランクはピラミッドみたいに、上位にいくほど人数が減るけど……細かく分けるとハインド君の言った通り、同ランクでも当たらないレートの人はいるはずだよ。一番人数の多いランクほど顕著だろうけど」

「その点、さすがに人口の少なくなるSランなら上位も下位もあまり関係ないでござろうが。あ、あとプレイ時間も重要でござるな」

「平日の日中は人数が少なく、今日のような……週末のゴールデンタイムは人が増えますから、対戦者同士のレート差は減ることになるでしょうね」

「――あ、リィズ」


 話を聞いていたらしいリィズが、決闘エリアを見ながら俺の隣に並ぶ。

 他の三人はリコリスちゃんに声援を送りながらの観戦だ。


「ってことは、この時間帯に戦う限り……」

「ホリィさんのいるAランク中位から上に当たるには、まだ少しかかる……ということになるかと」


 掲示板の書き込み時間や内容から察するに、ホリィはリィズの言う通りAランクの中では中位から上位だと思われる。

 繰り返しになるがレートは表示されないので、全ては推測だが。

 対するリコリスちゃんはAランクに上がりたて。

 こちらは間違いなくAランクプレイヤーとしては下位レートで、ピカピカの新人だ。


「それこそ、平日昼間なら無差別マッチみたいになることもあるそうでござるが。ランクを跨いだりとか」

「だよな。まあ、マッチングに関しては最終手段もあることだし。今は――」


 言葉を切ってリコリスちゃんの動きに目を凝らす。

 元気一杯、跳ねるような動きは変わっていないが、ランクマッチ初日の姿と比べるとまるで別人だ。

 手数を出し、相手を追い込み、そして……『シールドカウンター』で相手を打ちのめす。


「ユーミル先輩に比べたら! ユーミル先輩に比べたらぁぁぁ!」

「なーんか叫んでんな……」

「ユーミル殿、模擬戦にどれだけ熱を入れて戦ったのでござろうか……?」

「ゲームで高難度のステージをやってから普通のステージをやると、とても簡単に感じることってあるよね……?」

「ユーミル、欠点もありますけどSランク相当の力がありますしね……」

「リコリスさんの潜在能力を引き出すには、ちょうどいいのかもしれません……力技ですけど」

「そこだ! 行けぇぇぇ、リコリス!!」


 そうしてAランク初戦、リコリスちゃんは意外なほど余裕の勝利を収めた。

 ただし内容の割に本人の息が上がっており、スタミナ切れが心配になるところであるが。

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