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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
ランクシステムとランクアップのすすめ
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夕食とイベント総仕上げに向けて 後編

 今の内に話しておくことというと、自分たちのこととリコリスちゃん個人のことの主に二つ。

 より大事なのは、今回のイベントでより多くのウェイトを占めたリコリスちゃんのことだろう。


「まあ、そうは言ってもリコリスちゃんはもう本人の成長を待つのみ。話すとしたら、専ら相手のことになるか……」

「つまり、リコリスが目標にしているホリィの話か!」

「そもそも、そう都合よくホリィさんと対戦できますかね?」

「うーん……前にも話したが。プレイ時間と頻度、そしてAランクの人数からして可能性はそこそこってところか。折角だから、偶然に任せてみたい気もするけど」


 そのほうがドラマティックといえばドラマティック。

 未祐が何度も頷いていることから分かるように、こいつ好みの展開と言えよう。

 ただ、イベント終盤まで対戦が叶わなかった時は別だ。

 俺は醤油を理世に手渡しつつ、秀平へと視線を向けた。


「秀平が弦月さんの弟子だという情報を拾ってきてくれたからさ。大変だっただろう? Sランクならともかく、Aランク帯のプレイヤーの情報を探すのは」

「わっちの飯にはそれだけの価値があーる!」


 そう言いながら皿を箸で叩く秀平の手を、俺は上から抑え付けた。

 行儀よく静かに待てっての。


「そりゃどうも。だから、最終手段として……」

「弦月さんに連絡を取り、ホリィさんに繋ぎを――ということですね?」

「ああ。折角のリコリスちゃんの気合を、空回りさせるのは惜しいからな」


 その言葉に、何故か未祐まで気合を入れるように拳を握った。

 勢いが良過ぎてテーブル上の皿が僅かに揺れる。


「うむ、そうだな! 弦月の弟子だと分かったからには、私もリコリスに秘伝の技を……」

「……えっ?」

「……はい?」

「……あれ、俺の耳がおかしくなったのかな?」


 俺が呆気に取られた声を発したのと同時に、理世も秀平も似たような声を漏らす。

 沈黙の中、じゅわじゅわと鉄板の音だけがリビングを支配した。


「……ないだろう? お前にそんなもの」

「特別なことは何も考えずに戦っているでしょう?」

「良く言うと破天荒、悪く言うと無茶苦茶だよね? 未祐っちの戦い方」

「貴様ら!?」


 未祐が教えることができる技術に思い当たる節のない俺たちは、揃って首を傾げた。

 憤慨しつつ何かあるだろう、という未祐だったが理世に具体的な話を訊かれると言葉に詰まる。


「うぐぐぐぐ……」

「あ、焼き上がった」


 音が小さくなったら、蓋を開けて完成だ。

 熱気と共に広がるニラの香りが食欲をそそる。


「うひょー! 美味そう!」

「このタイミングで!? 折角の夕食なのに、スッキリしないのだが!」

「そう言いつつ箸を伸ばすお前に、俺は何を言えばいいんだ?」


 フライ返しで鉄板に張り付いた餃子を剥がしていく。

 プレートの温度を保温に切り替えたら、準備は全て完了だ。


「……お前がリコリスちゃんにしてやれるのは、今までと同じことじゃないか?」

「同じというと……?」

「模擬戦」

「む……」


 今のリコリスちゃんの必要なのは、一戦でも多くの経験だ。

 未祐が決闘に行く前の時間にでも相手をしてやれば、それだけで十分な意味があるだろう。


「では、今夜からは今まで以上に気合の入った模擬戦をしてやろう! あむ!」

「程々にしてやってくれ。決闘に差し支えるようじゃ意味ないんだからな」

「分かっている! ――あち、熱い! 美味しい!」

「いだだきます、兄さん」

「ああ、召し上がれ」


 みんながそれぞれ一つずつ餃子を口にするのを見届けてから、自分も一口。

 カリッとした底の部分、程よい焼き加減で弾力の残る皮、そして中から溢れる肉と野菜のミックスされた汁。

 それらを醤油と酢、ラー油が引き立て……。


「うん、力の出る味。美味い」

「最高! わっち、最高!」

「美味しいです、兄さん」

「ああ、良かった良かった。沢山食べてくれ」

「もご!」


 それからしばらくは、口数少な目で食事に専念した。

 第一陣が片付き、第二陣の餃子を焼き始めたところで一息。


「そうだ、わっち。俺らについての抜粋レスはどう思った? まだAランクに届いたばかりだから、これから対策されることも増えると思うんだけど」

「あれか……」


 蓋を閉めたところで、秀平がそんな話題を振ってきた。

 それに対し、俺は送られてきたレスの内容を思い返す。


「何て言うか、まずは俺が真っ先に戦闘不能に――」

「駄目です」

「いや、理世――」

「駄目ですよ?」

「だから――」

「駄目ですからね?」

「……なるべくそうならないよう気を付けるから、許してくれよ。ゲームなんだし」

「…………………………………………仕方ないですね」

「沈黙長っ!!」


 秀平が椅子を鳴らしながら大袈裟に後ずさる。

 沈黙している間の理世の表情は、酷く苦悶に満ちたものだった。

 もうゲームを始めて結構経つのに、未だにそんなに嫌なのか……。

 といっても時間は関係ないか、こういうことに関しては。


「……まあ、事前に色々な状況を想定しておいたほうがいいとは思ったよ。誰かが戦闘不能になれば、パーティのバランスはその時点で変わらざるを得ない訳だからな」


 そんな訳で、あえてぼかした言い方で話を進める。

 秀平が小さく頷き、昨日までの決闘を思い返すような表情で口を開く。


「俺たちの場合、前衛どっちかが落ちてもバランス悪いしね。わっちが前に出られるようになったから、短時間なら前線も持つだろうけど。前に出ながら蘇生はさすがに無茶だろうしねぇ、得意技の即効蘇生ができれば問題ないけど」

「得意技かどうかは知らんけど、それは相手パーティからのプレッシャー次第だな」

「そう考えますと、戦闘不能者が出てもバランスが崩れにくいのは前衛多めのパーティですね。とはいえ、今さら職を変える気はありませんが」

「うむ。その分、我々のパーティが上手く嵌まった時は他にはない爆発力があるからな! 不安定な部分は……亘がきっと何とかしてくれる!」

「だから、元はといえばそのバランスを取ってるわっちが先に戦闘不能になった時はどうなの、って話がスタートでしょ? ……理世ちゃん、睨まないでくれる? 仮定の話だから、仮定の」

「分かっています」


 熱心に話し込んでいると、あっという間に餃子が焼き上がり直前の音に。

 理想は誰も戦闘不能にならないように回復スキルを回すことだ。

 これができればパーティにとって一番いい。ヒーラーが上手く働いているという証拠でもある。

 問題は、今話しているように誰かが戦闘不能になった場合。

 即座に蘇生できれば問題ないが、その余裕がない時はそれに応じてパーティの動きを変えていかなければならない。

 ……。


「よし、TBの話はこの辺で。第二陣を食べるぞー」


 俺が蓋を開けて餃子を剥がすと、三方から一斉に箸が伸びた。

 今夜の料理は大成功のようだ。

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