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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
ランクシステムとランクアップのすすめ
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リコリスと宿命のライバル?

「はむっ!」

「おおっ……チュロスが一瞬で消えた」

「手品でござるかな?」


 途中までもそもそと小動物のように口を動かしていたリコリスちゃんだったが……。

 先程の戦いの話題になるや、一息にチュロスを飲み込んでしまう。


「ごきゅ! ……はぁー、何でああなるんでしょうかね? ――美味しいですね、このチュロス!? ごちそうさまです、ハインド先輩!」

「何その時間差。えっと……お粗末様」

「リコ、話が取っ散らかっているよ」


 シエスタちゃんがマイペースに咀嚼しながらツッコミを入れる。

 小神殿内での飲食は特に禁じられていないが、ピリピリとした空気はどうにも居心地が悪い。

 俺たちは休憩も兼ねて渡り鳥のホームへと戻ってきていた。


「あ、ええと……決闘のお話でしたね! 折角格好いいところをお見せできると思ったのに」

「気負い過ぎたねー。リコがあんなんだったから、得意気に語っちゃったサイまで悲しいことに――」

「シー」


 一言名前を呼んでから、笑顔でシエスタちゃんに詰め寄っていくサイネリアちゃん。

 それに対し、シエスタちゃんが口元を引きつらせつつ目を逸らした。

 あれは直球で怒気をぶつけられるよりも怖いぞ……。


「り、リコリスちゃん。少し休んだらまた行くんだよね? 決闘」

「そ、そうですね。さっきのは最初にご指摘いただいた疲れとも違いますし、みんなが経験を積めば解消できるって言ってくれましたし! どんどん試合をしますよ、疲れるまでは!」

「拙者もそれがいいと思うでござるよ。試合勘の不足は、実際の試合でしかつちかうことができぬ故」

「まるでスポーツみたいな発言……いや、スポーツでいいのか。ある意味」


 戻ってくる途中、止まり木のホームに行ってバウアーさんに助言を――とも思ったのだが。

 フレンドリストを確認したところ、残念ながらバウアーさんは不在だった。

 しかし、試合勘……戦いの流れを読み取る能力か。


「よーし、美味しいものも食べましたし! 張り切って――」

「待った、リコリスちゃん」

「行きまっ!?」


 俺が制止の声を上げた直後、リコリスちゃんが机の足に引っかかる。

 そのまま片足で二、三歩跳ねて進んでから両手を上げて止まることに成功。

 見ていたユーミルが親指を立ててリコリスちゃんに向けて突き出す。


「おおー! リコリス、ナイスバランス!」

「おおー……って、ごめんごめん。間が悪かったね」

「い、いえ。でも、どうして止めたんですか? ハインド先輩」

「いやさ。実戦経験も大事だけど、他人の試合……例えば高ランク帯の試合をいくつか見て、流れを掴むってのもありかなって」

「高ランク帯の試合観戦ですか……」

「どこで勝負をかけるのかとか、そういうの。どうかな?」


 俺の言葉を受けて、リコリスちゃんが考え込むような表情に変わる。

 ……が、それは一瞬だった。


「観ます!」

「即決ですか……理由を訊いても?」


 考えるのに少し時間がかかると思い、チュロスを頬張った俺に代わってリィズが尋ねる。

 助かった……今の状態だと全く喋れない。


「バウアーさんが、何事も見て学ぶことが第一歩だって! 最初の型稽古も、バウアーさんのお手本を何度も見て覚えるところからでした!」

「なるほど、師の教えを実践しようということですね。立派です」

「えへへ……」


 リィズの素直な褒め言葉に、ユーミルが物凄く何か言いたそうな顔をしている。

 ――ほら、チュロスをもう一本やるから。

 だから、その絶対に喧嘩になりそうな一言は引っ込めておいてくれ。


「試合観戦でござるかー。そういえば、拙者たちはまだ一回もやっていないでござるな。自分たちのお互いの試合以外は」

「そういえばそうだな」

「今はイン率の高い時間だから、人数の少ない高ランク帯でもリアルタイムの試合がありそうだね。ハインド君」

「ですね。食べ終わったら行ってみましょう」




 かくして、俺たちは高ランク帯の試合を観るために再び小神殿へ。

 そこにあったどこか見覚えのある名前にリコリスちゃんが反応し、まずはその試合へ。

 すると、そこには……。


「あっ!」


 そこではやはりというべきか、あの軽戦士の少女が戦っていた。

 特訓前、リコリスちゃんが手も足も出ずに敗退した――。


「サイドテールの子! 名前は……名前は……」


 リコリスちゃんがもどかしそうな顔でこちらを見てくる。


「ホリィさん、だったかな?」


 俺はリィズに合っているかと視線を投げながら答えた。

 すると頷きが返ってきたので、どうやら合っていたようだ。


「ホリィ……ホリィ……覚えました!」


 何やらリコリスちゃんは強く拳を握って口を引き結んでいる。

 戦いはサイドテールの……ホリィさんが重戦士の青年を翻弄。

 重装備の相手に対して一方的に攻撃を当て続けている。


「えっと……これ、Aランク帯だよな?」

「随分と一方的でござるな……ま、まあ相手は防御型っぽいでござるし? 最後まで分からないでござるが」

「あのサイドテールの動き、誰かに似ているような気がするのだが……」


 ユーミルが思案顔で呻く。

 確かに、俺も誰かに似ているような気はしていたんだよな。

 誰だろう……?


「あっ……」

「どうしました? セレーネさん」

「相手の重戦士の人、剣を強く握り直したよ。もしかしたら……」

「見えたんですか……さすが」


 俺たちは観戦エリアの最前列にはいない。

 既に到着した時にはプレイヤーが詰めかけており、やや後方から戦いを見ている形だ。

 俺はサイドテールの少女の姿を一心に追うリコリスちゃんに声をかけた。


「リコリスちゃん。もしリコリスちゃんもそういうのを見つけたら、それが戦局が変わる合図……かもしれない」

「そうなんですか!?」

「もちろんわざとらしかったらそれはフェイクだし、自然に出てしまったものかどうかを見極める必要はあるけど……」

「む、難しくないですか? それって」


 固まりかけるリコリスちゃんの後ろから、シエスタちゃんがにゅっと顔を出す。

 談話室からずっと続いていたサイネリアちゃんのお説教がようやく終わったらしい。


「先輩、リコにはもっとシンプルな教え方じゃないと。それこそユーミル先輩に教えるみたいに」

「む?」

「あー……何だ。相手の空気が変わった時は、とりあえず警戒することが大事かな? それが嘘でも本当でも、時間稼ぎ以外だったらおそらく何かしかけてくるだろうから」

「なるほど……」


 要約すると「空気の変化を感じ取れ」ということになるか。

 表情、仕草、動きのリズムに積極的か消極的かなどなど……判断する材料は沢山ある。

 そんな話をしている間に、サイドテールの少女――ホリィはあっさりと『起死回生』を回避。

 鎧を綺麗に避け、首筋に剣が突き込まれる。

 ピンチ状態で眩いほどだった光が霧散し、重戦士が倒れる。


「おお……やっぱり強いな、彼女……」

「Aランク下位ということはなさそうですね。相手が上がり立てだった可能性なども考えられますが」


 俺の呟きに対してサイネリアちゃんが頷いた。

 続けて自分の長い髪を振り回しながら、シエスタちゃんが口を開く。


「どっちにしても、以前のリコの敵う相手じゃないっぽいかな。低ランクで当たったのは、運が悪かったんだねぇ」

「ハインド先輩……私、決めました!」


 と、そこでリコリスちゃんが強い意志を込めた目で俺を見上げる。

 次の発言内容の予想がつかないこともないが、あえてここは問い返す。


「……何を?」

「あのサイドテールの子……ホリィちゃんをイベント期間中に倒します! それが今回の最終目標です!」


 観戦エリアに元気な宣言が響き渡った。

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