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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
ランクシステムとランクアップのすすめ
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リコリスの挑戦 その1

 訓練を終えて気合十分、装備も一新したリコリスちゃんは連戦連勝。

 Sランクに向けて一直線! ……とは、残念ながらならなかった。


「あれっ? 何で……」


 正確に言えば、先程まで確かに連戦連勝はしていた。

 バウアーさんの教えをしっかりと守り、攻撃にメリハリを付け、カウンターを何度も決めた。


「あの、ハインド先輩、ユーミル先輩。私の最後のカウンター、どうして決まらなかったんでしょうか? 相手の武闘家さんの動きからして、当たると思ったんですけど」


 戻ってきた神殿内でリコリスちゃんが首を捻る。ノクスのように捻りまくる。

 元々、リコリスちゃんは積極性がある上に労を惜しまない性格だ。

 故に、連勝が止まった原因は明白である。

 俺はユーミルと頷き合い、それから答えた。


「疲れだよな?」

「うむ、疲れだろう」

「え? 私はまだ全然大丈夫です! 今夜中にAランクに!」

「いやいや、リコリスちゃん待った。さっきのスピーナさんの話をよく思い出してごらんよ?」


 俺のそんな発言にリコリスちゃんはきょとんとした表情だ。

 この様子だと、聞いていなかったのだろうか?

 見かねたサイネリアちゃんがポンと肩を叩く。


「リコ。スピーナさん、大体百戦くらいしたって言っていたじゃない? 途中、負けたりした可能性もあるけど……」

「まー、七・八割は勝っているんじゃないかな? 私たちが知ってるスピーナさんの強さだと。一晩で百戦はとても無理だって」


 シエスタちゃんも加わっての解説に、リコリスちゃんは一旦は納得して引き下がるかに思われた。

 だが、即座に首を横に振って握り拳を作る。


「ううん、そうだとしてももう少し! せめてBランク到達までは!」

「駄目だ」


 腕を組んだ格好でユーミルが止める。

 一歩踏み出しかけたリコリスちゃんは、その場でたたらを踏んだ。


「ユーミル先輩!? どうしてですか!」

「明らかにカウンターの精度が落ちている。自分で気が付かない疲れが溜まっている証拠だ」

「今の敗戦はそのせいだろうしな……勝てるようになって楽しいのは分かるけど」


 リコリスちゃんが歯噛みするような、悔しそうな表情になる。

 その顔、ユーミルにそっくりだな……。


「何だ? ハインド」

「何でも」


 そういえばこいつもペース配分が下手だった。

 幼いころは全力で遊び倒し、体力が切れて動けなくなったこいつを俺がおぶって帰ったものだ。

 最近では体力の増加に伴い、何事も最後まで全力のまま突っ走れるようになりつつあるのだが。

 俺も過労で倒れたことがあるし、リィズも勉強のし過ぎで調子を崩した時期がある。

 自分が疲れているかどうかというのは、案外分かり難いものかもしれないな。

 未だ納得し切れていないリコリスちゃんに声をかけたのは、意外なことにリィズだった。


「リコリスさん」

「は、はい!? すみません! 私、何か失礼を――」

「あなたは、何故か私を異常に恐れていますよね? ……まあ、そんなことよりも。休むことも戦いですよ、リコリスさん」

「休むことも……」


 リィズはあえて今のリコリスちゃんが反応しそうな「戦い」という単語を入れたのだろう。

 その効果はてきめんで、リコリスちゃんは大きく深呼吸して体の力を抜いた。


「そうですよね……分かりました! 全力で休むことにします!」

「なーんかおかしくないでござるか? その言葉」

「シーちゃん! 休み方のコツを教えて!」

「まるで聞いていないでござるな……」

「休み方のコツって何だ……?」


 訊かれた側のシエスタちゃんは、その質問に困惑することなく答えている。

 まず枕を用意します、というのはさすがにシエスタちゃんの冗談だろうけど。


「あるんだ、休み方のコツ……。俺も聞いておいたほうがいいかな?」

「うむ、そうしろ」

「そうしてください」

「そのほうがいいかもね」

「えっ」

「ハインド殿……」

「そんな目で俺を見るな。ちゃんと休んでる、休んでるっての」




 単独でCランクに到達したリコリスちゃんが休んでいる間は、俺たちが決闘で戦うことになる。

 とはいえ、全員が一対一で戦う訳ではない。


「私は楽をしたい!」


 真っ先にそう宣言したのはシエスタちゃんだ。

 その言葉の意味するところは――


「ので、パーティ戦に組み込んでください。先輩」

「そっか。出たくないって言わないでくれるだけありがたいよ」

「――しまった!?」

「シー」

「サイ、顔怖いよ? 冗談だよ、冗談。パーティなら出まーす」

 

 個人戦でなければOKらしい。

 休憩に入ったリコリスちゃんを除くと人数は七人、パーティ戦は最大で五対五まで。


「そしたら……個人戦をやりたい人、いるか?」

「あの、それでは私が。ハインド先輩との訓練のおかげで、多少はできるようになっているはずですし」

「そっか。じゃあ、サイネリアちゃんと……トビ、お前は?」

「拙者でござるか?」


 前にトビは一対一をやりたいと言っていたはずだ。

 しかしトビは、自分が抜けた場合のパーティバランスを気にしてこんなことを言った。


「拙者が抜けると、前衛職がユーミル殿だけになるでござるよ?」

「そこは、ほら。訓練もしたことだし……」

「ああ……ハインド殿が中・前衛的な位置でやるのでござるな? それならば――」

「えっ!? ハインドが私の横で戦ってくれるのか!?」


 ユーミルの大きな声に神殿内の視線が集まる。

 俺たちは小さく頭を下げ、視線を避けるように背を向けた。

 壁のほうを見るような形である。


「ユーミル、声が……」

「す、すまない。ハインド、だったら合体攻撃――」

「まだやってみたかったのか、それ……無理言うな。訓練したって言っても、俺が通用しそうなのは――」


 リコリスちゃんが戦っていたD,Cランクのプレイヤーたちの姿を思い出す。

 最後の方は、Cランクの中でも上位に入ってきたのか徐々に動きが良くなっていたので……。


「まあ、良くてCランクの中間層までだな。それ以上はとても本職の相手が務まるレベルじゃねえよ」

「そうか……まあ、お前のバフを受けつつ私が戦えば、その時点で合体攻撃のようなものだしな!」

「回避しつつバフを撒く余裕があるか分からないが……と、とりあえず、みんなに迷惑をかけないように囮役をやってみる」

「うむ!」


 正直不安で一杯だが、負けが込むような時はトビに加わってもらうとしよう。

 今回のイベントは期間終了までに高ランクに達していればいいので、多少負けても取り戻すことは可能だ。


「シエスタちゃん、俺が回復できない時はカバーをよろしく」

「へーい」

「ということで、トビとサイネリアちゃんが一対一に。残りは五対五でパーティ戦。リコリスちゃんは好きな対戦を見ながらでもいいし、ログアウトしてもいいから休んでいて」

「はい!」


 ひとまず、この後衛過多なパーティでもDランクくらいは脱出したい。

 俺たちはそれぞれポータルに向かって歩き出した。

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