新装備のお披露目
新しい鎧を身に纏ったリコリスちゃんが、ガチガチに緊張した様子で談話室の中へと入ってくる。
両脇にはサイネリアちゃんとシエスタちゃん。
二人がリコリスちゃんの背を軽く押して俺たちの前へ。
「ほら、リコ」
「う、うん」
細かな意匠をデザインしたのはリィズ、作製したのはセレーネさんと俺。
ちなみに作製比率はセレーネさんが七割、俺が三割といったところ。
俺が関われる範囲が一割未満だったころを考えると、セレーネさんの負担を少しは減らせていると思われる。
新発見の素材などもふんだんに使ったため、この装備一式は他のメンバーのものより性能は一段階上だ。
リコリスちゃんが控えめに腕を広げ、問いかける。
「ど、どうですか……?」
銀色を基調とした鎧が眩しく光る。
鎧は盾で防ぎ難い箇所、それから弱点判定のあるところを中心に限定したいわゆるライトアーマー。
系統としてはユーミルが装備しているものより、気持ち装甲が厚く大きいといった鎧となっている。
それを見て開口一番、ユーミルが率直な感想を述べた。
「期待の新米騎士! ……という感じだな! 中々いいぞ!」
「私、新米なんですか!? あ、あの、みなさん!?」
「「「……」」」
「何か言ってください!」
残念ながら、全員ユーミルの言葉が的確だと思ってしまったらしい。
とはいえ、フォローを入れるなら……。
「リコリスちゃん、フレッシュな印象だからそう思っちゃうんだよ。もしかしたら決闘で油断を誘えるかもしれないし、悪いことじゃないよ」
「ふ、フレッシュ? えーと……でしたら、前までの装備の私は」
「ま、前の装備のリコリスちゃん?」
急に難しいことを訊いてくるなぁ。
他のメンバーに話を振ろうにも、みんな全力で視線を逸らしていくし……。
ここは誤魔化さずに、感じたままを言葉にするしかないか。
「うーん……新米騎士……」
「新米騎士?」
「見習い」
「見習い!?」
しまった。
口から出た言葉は、自分で思っていた以上に酷いものだった。
「ありゃー、騎士ですらないでござるなぁ……思わず頷きかけたのはここだけの秘密」
「聞こえてるぞ。お前、フォローせずに追い打ちだけかけるとか……」
「酷い、酷いですハインド先輩!」
「ごめん、ごめんってばリコリスちゃん!」
ぺしぺしと力のない平手打ちを俺の背中に向かって繰り出してくる。
が、そこで大きな咳払いが聞こえる。
「こほんっ!!」
「あっ」
リィズの苛立ったような仕草にリコリスちゃんの顔が青ざめる。
そのままピタッと動きを止め、居住まいを正した。
「す、すみません! えと、その……リィズ先輩も、ありがとうございました!」
「……はい? 何のことですか?」
突然リコリスちゃんが勢い良く下げた頭に、リィズはたじろいだ。
「模様とか装飾とか、鎧らしく格好いいのにどこか優美で! 最高です! これなら、どこに行っても恥ずかしくないです!」
「……いえ。どういたしまして」
そして顔を背ける。
あー、照れちゃってまあ。
そんなリィズに、俺の横からトビがこっそりと近付こうとする気配が。
「……トビ。お前、そこで俺の時と同じようにリィズの顔を覗き込もうとするなよ? 死ぬぞ」
「死!? まままま、まさか! 拙者だって死にたくない、相手はちゃーんと選ぶでござるよ!」
「まるで俺にはやっていいみたいな言い方だな……」
続けてリコリスちゃんはセレーネさんと俺にもぺこぺこと何度も頭を下げてくれた。
こう素直に喜んでくれると、作った甲斐があるというものである。
料理も贈り物も、この辺りは一緒だよな。
特にサーベル・ヒーターシールドを渡した時の喜びようには、俺たちも思わず笑みがこぼれた。
セレーネさんの装備の詳しい説明もそろそろ終わりそうだ。
「――と、こんなところかな。サーベルは前の剣に比べて耐久度で劣るから、マメに修理に出すように気を付けてね?」
「はい、ありがとうございます! 大事にします! じゃあ、早速この装備で決闘に――」
「待った、待ったリコリスちゃん」
駆け出そうとするリコリスちゃんを慌てて止める。
鎧を身に着けたままのリコリスちゃんだが、振り向く動作は軽快そのものだ。
「新しい装備はもう一つあるんだ」
「もう一つ?」
「シエスタちゃん、ユーミル」
「うむ!」
「はーい」
首を傾げるリコリスちゃんを待たせ、シエスタちゃんの頭をリコリスちゃんがホールド。
……えっ? 普通に渡すんじゃないのかよ? 聞いてないぞ。
そのまま困惑するリコリスちゃんにユーミルが歩み寄り、髪を抑えてピンを付け替えた。
何をされたのか見えねーだろ、それじゃ……。
「えっ? えっ?」
「……リコリスちゃん、装備画面を開いて自分の姿を――いや、いいや。はい、鏡」
「あ、ありがとうございます?」
「おお、さすがハインド!」
「どーもです、先輩」
この二人の組み合わせは……。
シエスタちゃん、さては不備を分かっていて指摘しなかったな。
「こういう渡し方をするなら、最初から用意しておきなよ。大体……」
「わあっ!」
リコリスちゃんが華やいだ声を上げる。
その髪には、羽の形をした銀の髪留めが輝いていた。
「鳥の羽の髪飾りですか!? 可愛い!」
「デザイン、シエスタちゃん。大雑把な作業、ユーミル。仕上げは――」
「ハインドを中心に、全員で! どうだ!?」
俺とユーミルの言葉に、リコリスちゃんは数秒固まった後……。
泣き笑いのような表情で急に震え出した。
「ど、どうしたリコリス!?」
「私……こんなに色々してもらっていいんでしょうか? な、何だか怖くなってきたんですけど」
「しっかりしろ!? 本番はこれからだろうが!」
「はっ!? そ、そうでした……決闘で結果を出して、少しでもみなさんのお役に立てる私に!」
おおっ、リコリスちゃんの気合が弾けんばかりだ。
それから「ありがとうございます!」と「頑張ります!」の言葉を交互に繰り返す。
「そう気張らなくても……ねえ? サイ」
「リコとシーを足して割ると、ちょうどいいと私も思うんだけどね……」
サイネリアちゃんのぼやきに対し、シエスタちゃんは緩い笑みで誤魔化した。




